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昨年9月のAppleスペシャルイベントに於いて、iPhone 7シリーズやApple Watch Series 2とともに「W1」チップを搭載したオーディオ製品群が発表された。そこにはApple純正の完全独立型ワイヤレスイヤホン「AirPods」と一緒にBeats by Dr. Dreの「BeatsX」と「Powerbeats3 Wireless」「Beats Solo3 Wireless」の姿があった。

Solo3が発表と同時に販売開始され、次いで、Powerbeats3 WirelessとAirPodsがその年の内に発売。BeatsXも今年の2月に販売が開始された。従来のモデルであるSolo2とPowerbeats2がW1チップを装備してリプレースという形に落ち着く中、Studio2に関しては長らく新モデルのアナウンスがなかったままであった。

という状況下、今秋、Apple Parkでのスペシャルイベントを前に満を持してという格好で「Beats Studio3 Wireless」が発表された。Beats by Dr. Dreの歴史を振り返ってみると、最初にリリースされたのは「Beats Studio」であることが分る。となれば、W1チップ搭載モデルの第一弾に、Studioが名を連ねてしかるべきだったのであるが、そうはならなかった。そのあたりの経緯も解説しつつ、本稿ではStudio3の魅力に迫っていきたいと思う。

ラインナップに後から追加されることになったことについて、まず、現在のBeats by Dr. Dreは、ユーザーのニーズにあわせた製品開発を行っているという理由が挙げられる。隙間ができたところを埋めるというスタンスを採っていないのだ。

昨秋発表された3モデルは、W1チップの搭載、それによるペアリングの簡便化、バッテリーの消費効率の向上を主眼に置いていた。完全な新モデルとなるBeatsXはともかく、Solo3とPowerbeats3については、デザイン含め、大きな変更はなかったといえる(W1チップ搭載という時点で大々的な仕様変更となっているのではあるが)。

そこで、Studio3については単にW1チップを搭載するだけでは物足りないということになったのは容易に想像がつく。実際、音質の特性だったりチューニングだったりを全面的に見直しての登場と相成ったのだ。

Studio2の時点でクオリティの高いデザインが達成されていたにも関わらず、そこから手をつけるという展開となった。時間をかけてフィット感だとか耐久性を完成させ、見た目はそのままながら、中味をアップデートする方向が探られた。その一方、塗料などの原材料は見直され、人工皮革やイヤークッションの素材を変更してイヤーカップの質感にフィット感を与え、さらに音響特性を改善させた。

それだけでは物足りないと言いつつも、W1チップに触れずに話は進められない。iOSデバイスとなら簡単にペアリングができるのがW1チップ搭載ヘッドホン/イヤホンの最大の特徴だ。iPhoneやiPadに近付けるだけで、画面に接続のためのポップアップが表示される。一度接続すると、iCloud上で紐付けされるので、同じApple IDで使っていれば、他の機器との切り替えは簡単に行える。

一般的なBluetoothヘッドホン/イヤホンでは、iPhoneの「設定」を開けて「Bluetooth」をタップして、イヤホン側のペアリングボタンを押してという手順を踏まなければならなかったがこういった、煩雑な作業から解放されるのだ。しかも、接続先を変更するのに、まず、失敗することはない。Studio2では、デバイスを切り替える際、ペアリングが上手くいかないということがままあったが、そういうことがなくなるのである。

また、W1チップは前述の通り、バッテリーの消費効率の向上に一役買っている。Studio2ではノイズキャンセリングを使ってる状態で最大使用時間が12時間だったところ、Studio3では22時間となった。さらにノイズキャンセリングをオフにする機能がつき、それを使うと40時間の再生が可能だ。バッテリーの話を続けると、Fast Fuel(急速充電)機能もサポートし、10分の充電で約3時間再生できる(ノイズキャンセリングを切ると5時間)。充電は0の状態から90分でフルチャージとなる。一日使っても、未だ大丈夫で、残量がピンチでも、ちょっとチャージすれば、アルバムが2枚から3枚は聴けるのだ。

さらに、Class 1のBluetoothに対応したことで接続強度を高めた。最大で100m離れていても接続OKで、障害物や周りを飛び交う電波の干渉も受けにくい。音楽を楽しみながら、より自由に動き回れるようになったのである。

続いて、新しいノイズキャンセリング機能を紹介しよう。「ピュアアダプティブノイズキャンセリング (Pure ANC)」では、ノイズを遮断して音楽に没頭できるリスニング環境を提供する。ノイズキャンセリングは元々航空機に乗るときに使うもで、ボーイング737のエンジン音をどれだけ下げられるかというのを念頭に置いて開発されている。

これまでは80から300Hzの帯域をターゲットに、そのレンジをカットできれば飛行機の旅を快適に過ごせると考えられていたが、仕組み上、ノイズキャンセリングでカットしたところに元のソースを突っ込むと干渉を受けて、元の音質が損なわれるというデメリットがあった。それをどれくらいのバランスにするかというのも研究された。

ノイズキャンセリングの基本的な仕組みはこうだ。音は「波」であるが、鳴っている「波」の形と「正反対の波(逆位相という」をぶつけると打ち消しあって、音が消えるのである。ノイズキャンセリング機能搭載のヘッドホンは、この原理を利用して、外部の音をマイクで拾い、その逆位相の音をぶつけて必要ない音を消しているのだ。

Studio3のPure ANCでは、以下の3つの作業をリアルタイムで処理している。

周囲環境評価という機能では、ノイズキャンセリングをかけるレンジを変える。前述の通り、従来は、80から300Hzの帯域をターゲットに固定したレンジのみにノイズキャンセリングをかけていたのだが、ノイズの成分は必ずしもその帯域に集中するというわけではない。リスニング環境は航空機内だけではないからだ。となると、かけるレンジが変更できたほうが良い。そのほうが効率よく、音質を下げずに済む、かつ、バッテリーの消費電力も抑えられるのだ。Studio3では、外側についているマイクで周囲の環境を解析してピンポイントの周波数帯をターゲットにしてノイズキャンセリングをかける。

二つ目は漏洩評価といって、音漏れの量を比較する。帽子をつけてたり、メガネをかけていたり、髪が長かったり、ユーザーの頭の形などの諸条件でフィット感が変わる。従来のノイズキャンセリングでは、イヤーカップだけでアイソレーションという音の分離作業を行っていたのだが、それらの条件のお陰で、微妙なズレを克服できないでいた。そこでStudio3では、内側にもフィードバックマイクを入れて微妙なズレで音が漏れているか、周りの音が中にも入ってきているかというのを解析するようにしたのである。ここでは、外側と比較して、ノイズキャンセリングの適度な割合を決めている。

三つ目は音質評価、これがStudio3の大きな特徴である。基本的な機能として、ノイズキャンセリングのほうが優先されるのだが、そうすると、かけた際の逆位相の音が、元の音源に干渉する。そこで、適用した音源と元の音源を比較することで、どれだけ差分が生じているかをリアルタイムで計算し、そこで、かけ離れた箇所が見つかった場合、そこではノイズキャンセリング割合を下げたりするのだ(逆に強くすることも)。毎秒毎秒計算して最適な状態で聴けるようにするのだが、必要最低限だけかけて、音質を確保するという発想だ。

3つの評価は常に同時に行われ、毎秒約五万回だという。「リアルタイムオーディオキャリブレーション」と呼ばれているこの作業は、プロセッサの負担と電力消費が多くなるのを効率化し、最適化する。それを制御するのがW1チップというわけだ。前述のバッテリーの消費効率の飛躍的向上はここにもその理由がある。

では、実際音を聴いてみるとどうか? 結果は非常に驚くべきものだった。Studio2と3で同じ音源を使ってブラインドテストをしてみたのだが、最初に3で聴き、次に2で聴くと、2のノイズキャンセリングがかかっていないように聴こえた。思わず「こっち、ノイズキャンセリングがオフになっているよ」と叫んだのだが、頭から外すと「Studio2だからオフにできないですよ(笑)」という返答が。それくらい劇的なレベルで外部の騒音を低減するのである。

風切り音が発生しているような状況だと、ノイズキャンセリングがゆっくりと効いてくるのが分る。このゆっくり効いてくるというのもポイントだ。なぜなら、急に補正量が変わると位相も激しく変わることになり、下手をすると「シュワー」という位相変化が生じた際に発生するノイズが聴こえてくる(この現象を逆手に取ったのがハモンドオルガンなどに利用される「レスリースピーカー」や「フェイザー」と呼ばれるエレクトリックギター用のエフェクターである)。その問題を解決して、あくまで自然に聴かせるのにフォーカスしたのがStudio3のPure ANCなのである。

Studio2と比較すると、ノイズキャンセリングが切れるというのと関連しているのだろうか、定位感が安定していて、奥行きも感じられた。音の立体感という点でも着実な進化を遂げている。

AppleがiPhoneからヘッドホン端子を取り除き、「未来はワイヤレス」と宣言してから、Bluetoothオーディオ製品は爆発的に増えた。Appleの基調講演では上級副社長のフィル・シラー氏がヘッドホン端子を廃止したことについて、「勇気」であると述べたが、今となってはモバイル環境でワイヤードであることのほうが「勇気」であるようにも思える。とはいえ、まだまだオールドスクールなスタイルで音楽を楽しむ人も多い。そんな人たちが有線からスイッチするのに戸惑うのは、やはりペアリングの概念だろう。そこで、AppleもBeatsも簡単に使えるというアイディアを敷衍する必要があったのだ。そして、Bluetoothオーディオは音質面で良くないというイメージもある。が、それは過去のもので、コーデックとBluetoothのバージョンアップでワイヤードと遜色ないところまできているのだ。恐らく、ブラインドテストをしたら、聴き分けがつかないのではないだろうか(この業界には96KHzから上の帯域しか鳴っていない音源と192KHzから上の帯域しか鳴っていない音源の区別ができるというDNA構造が異なる人もいるようだが)。

ラインナップ最後の登場となったのも頷ける仕様のStudio3。先行して発売となった製品と比べて力の入った仕上がりとなっている。音に集中できるという意味では非常に完成度の高いモデルと言えるのではないだろうか。