(写真提供=FA photos)

写真拡大

12月16日に幕を閉じたサッカーの東アジアE‐1選手権は、男子は韓国、女子は北朝鮮が優勝した。

言い古された表現であるが、朝鮮半島には昔から「東男に京女」に似た意味で、「南男北女」という言葉がある。

サッカーでも、「南男北女」の現象が続いている。
(参考記事:勝点3どころか1も難しい…韓国の“死の組”入りを現地記者たちはどう受け止めているのか

私は今回、2014年の仁川アジア大会以来3年ぶりに北朝鮮の男女のサッカーを取材した。

3年前も優勝したのは男子が韓国で、女子が北朝鮮であった。

今回北朝鮮の女子は、3試合で挙げた5得点のうち、4点を挙げたキム・ユンミが強烈な印象を残したが、3年前のメンバーで残っているのは、キム・ユンミを含めごく少数。今回は16歳の選手など、10代の選手を積極的に選抜し、メンバーはかなり若返った。

北朝鮮の“本気度”と“屈辱”

北朝鮮は4月に平壌で開催されたアジアカップの予選で韓国と引き分け、予選全体の得失点差で2位となり、2019年にフランスで開催されるW杯の予選を兼ねたアジアカップの出場を逃している。

そのことがよほど悔しかったのか、今大会でもキム・グァンミン監督も、繰り返しこう語っていた。

「あのような悔しい思いはしたくない」

アジアカップの予選の組み合わせで、平壌で行われる北朝鮮のグループに韓国が入った時、試合が無事に行われるか、懸念の声もあった。

核やミサイルによる朝鮮半島の緊張に加え、これまで男子のW杯予選の南北対決では、北朝鮮ホームの試合は、中立地である中国で行われていた。

平壌で韓国の国旗、国歌を使用することを許したうえで、平壌で予選を開催したことは、北朝鮮がサッカーに本気で力を入れていることの表れだ。

それだけに韓国に続く2位に甘んじ、アジアカップの出場を逃したことは、北朝鮮にとっては屈辱だったはずだ。

FIFAは北朝鮮に賞金を出すか?

今回のE‐1選手権は、北朝鮮の女子サッカーにとっては再出発の舞台となり、選手も若返った。

しかし朝鮮半島情勢を反映して、大会はかなり異例の形になった。

この大会では、男子の優勝チームには25万ドル(約2880万円)、女子には7万ドル(約805万円)の賞金が贈られることになっており、2〜4位のチームにも賞金が出ることになっているが、北朝鮮には支払わないことが発表された。

経済制裁により、北朝鮮への資金源を断つという状況の下、スポーツといえども、北朝鮮にお金を渡すことがはばかれるのは確かだ。

ただその一方で、参加国には同じ条件というのがスポーツの原則でもある。

北朝鮮は、来年ロシアで開催される男子のW杯はもちろん、女子も2019年のW杯の出場を逃しているが、もし出場したら、FIFA(国際サッカー連盟)は、どのような判断を下すか気になるとことだ。

五輪やアジア大会はともかく、スポーツの国際大会の多くで賞金が出される中、経済制裁を科されている国にどう対応すべきかは、議論がなされるべき問題だ。

もっとも、E-1選手権で女子が優勝したことは、国際的な孤立の中で存在を誇示したということで、北朝鮮にとっては、賞金以上の意味があったはずだ。

また、キム・グァンミン監督の口からは、今回、政治的な発言は出てこなかった。

仁川アジア大会でもキム監督が指揮していた。このときは、準決勝までは普通にサッカーの話をしていたが、優勝するや会見での第一声は、「金正恩元帥様の愛と配慮のお陰である」というものだった。

2002年の釜山アジア大会で北朝鮮の女子サッカーが優勝したときも、金正恩と金正日の違いだけで、会見内容は指導者礼賛であった。どの競技種目であれ、北朝鮮が優勝したときの指導者礼賛は、ある種、お決まりである。

韓国での発言と、日本での発言は違うのだろうが、北朝鮮のスポーツを取材していて、政治的な発言なき優勝会見は、新鮮であった。

もっとも、それが普通なのだが……。

北朝鮮スポーツに政治が与える影響

それでも、北朝鮮がサッカーの強化に本腰を入れていることは間違いない。

今回、北朝鮮の男子は、1分2敗で最下位であったが、昨年からドイツ・ブンデスリーガで活躍したノルウェー人のヨルン・アンデルセンが監督に就任。

平日は代表チームで練習し、週末は各チームに戻り試合をするという強化により、日本には敗れたとはいえ、互角以上の試合をするなど、確実に力をつけている。

北朝鮮のスポーツは、政治の影響を非常に強く受ける。

北朝鮮を取り巻く厳しい状況の中で、サッカーがこのまま順調に伸びていくかどうかは分からない。

ただ、既に国際大会で実績を残している女子だけでなく、女子に比べ存在感が薄い男子も、日本サッカーの脅威になる可能性は十分ある。

北朝鮮の女子は当面、来年のアジア大会、さらには2020年の東京五輪を目指すことになるだろうし、男子は2022年のW杯を目指すことになる。

そのとき、北朝鮮はどういう状態になっているだろうか。

純粋にサッカーの話だけというわけにはいかないところが、この国の悲しいところだ。

(文=大島 裕史)

初出:ほぼ週刊 大島裕史のスポーツ&コリアウォチング