『ざんねんないきもの事典』と『続・ざんねんないきもの事典』(高橋書店)

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2016年5月発売の『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)が売れている。2017年6月の続編とあわせると累計発行部数は120万部超(17年11月現在)。3〜5万部で「ヒット」といわれる図鑑の世界では異例の売れ行きだ。この人気シリーズはいかにして生まれたのか。担当編集者に聞いた――。

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■「続 ざんねんないきもの辞典」の気になるポイント
・児童書・図鑑ジャンルながら累計120万部ヒットの秘密
・なぜ「ざんねん」に着目したのか
・「ざんねん=進化」とは?
・図鑑に載っていない「ざんねん」ないきものネタをどう集めたのか
・大人も楽しめる児童書
・初代と続編の違い

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「コアラはユーカリにふくまれる猛毒のせいで一日中寝ている」、「ゴリラは知能が発達しすぎて下痢ぎみ」……児童書『ざんねんないきもの事典』(高橋書店、以下「初代」)は、“えっ! そうだったの?”と大人も驚くような、生物の愛すべき「ざんねん」が満載の本だ。ヒットを受けて2017年6月には続編となる『続 ざんねんないきもの事典』(以下「続」)が発売された。こちらも「リスはドングリをうめた場所をすぐにわすれる」、「ワニの性別は気温次第」など、第一弾に負けず劣らず「ざんねん」ネタが詰め込まれている。

シリーズ累計の発行部数は、11月に120万部を突破した。本書が児童書であり、年間3〜5万部売れれば「ヒット」だといわれる図鑑のカテゴリーで、すさまじい売れ行きとなっている。日本出版販売(日販)の2017年ベストセラー総合ランキングでは、2位に初代、8位に続がランクイン。児童書が総合ランキングにシリーズで2冊入るというのは異例のことだ。

タイトルになっている「ざんねん」は、本書においてネガティブなものではない。「続」の冒頭には、シリーズを通じて監修に携わった今泉忠明氏によるこんな言葉が記されている。

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「生き物に関するこれまでの本は、“すごい”という面から見たものが多かったように思います。ちょっとざんねんに感じてしまう……けれども一生けんめいいきている、そんな新たな一面を知れば、生き物たちがより愛おしくなるのではないでしょうか」

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確かに大人が読んでみても「ウマは全力で走ると死ぬ」、「カピバラはおしりをグリグリされると寝てしまう」など、われわれが当たりまえに知っている生き物たちも意外な素顔を持っていることを知り、驚かされる。だがそれ以上に“そんな一面があったのにこんなにけなげに生きて……”という、生き物たちへの愛着も同時に湧き起こってくる。

「ざんねん」な生き物たちは「なぜそうなった」のか。シリーズでは第1章に「ざんねんな進化のお話」として、その理由が子どもに分かるように書かれている。「ざんねん」な特徴を有してしまったのは、長い地球の歴史において繰り返される環境の変化に都度適用し続けた「進化」の結果であり、いまわれわれから見ると「ざんねん」に見えるだけ……。こんな前置きに続く「ざんねん」を読み進めることによって、生き物たちへの興味も一層高まる。

この人気シリーズはいかにして生まれたのか。『続 ざんねんないきもの事典』の編集を担当した書籍編集部第1課の山下利奈主任と、宣伝を担当した広告・広報部の宮越梓さんに聞いた。

■図鑑の編集の中で蓄積された「どうしてこうなった」

初代の『ざんねんないきもの事典』を手がけた編集者はすでに高橋書店を退職しているが、彼は図鑑編集のベテランだったという。さまざまな生物の情報を集める中で「どうしてこうなった?」「もっと楽な生き方があったんじゃないか?」と思う特徴や能力を持つ動物が多いと感じていたことが、企画の発端になった。

「そのツッコミどころというのが、雑学が好きな子どもにはすごい受けるんじゃないかなと思ったのが、『ざんねんないきもの事典』のきっかけだったんです。今まで作っていたような図鑑ではちょっと出せないけど、すごく気になっちゃう、という情報がたくさんあった。こういう情報をまとめた別の本が作れたら面白いんじゃないかな? というところから企画が始まりました」(山下氏)

本書は、企画の出発点が“図鑑”でありながら、写真ではなくイラストを採用しているほか、ひとつの生き物についての文章量も多いなど、一般的な“図鑑”とは異なる体裁になっている。想定読者層である小学校3〜4年生の男子に向けて、“読みやすさ”を重視したうえでのこだわりだった。

「こういう細かい字を読むのが苦手な子どもに、生き物のおもしろい情報を通して、もっともっと生き物のことも本のことも好きになってほしいという意図からです。フォーマット自体も、写真を使ってないですし文章もちょっと軟らかいものになっていたりします」(同)

漢字には全てルビがふられ、小学生に難しいものはひらがなに置き換えられている。1〜2ページにつき1つの生き物についてイラストと文章が配置されているので区切りも良い。読書を始めたばかりの小学生には内容的にも分量的にもほどよい加減だろう。こうして小学生男子に向けた初代『ざんねんないきもの事典』を世に出したところ、「これは大人にも受ける」という声が上がった。社内の営業担当、そして書店員からだった。

■書店員と営業が「大人にも受ける」と太鼓判

「書店員さんがこの本を実際に見て、『内容的に、子どもだけじゃなく大人が読んでも楽しいんじゃないか』と言ってくださり、書店の児童書コーナーだけではなく、お店入り口の目立つ場所や、話題書のコーナーといったところで、大人の目に付くような形で展開してくださいました。すると実際にやっぱり、大人の方も買ってくださって、今までの児童書にはないような売れ行きがそこで出たようです。そこはやっぱり営業の力が大きかったですね」(同)

初代の読者アンケートはがきは幅広い世代から届き、中には90代の夫婦からのものもあった。確かに文章は子どもにも読みやすいものになっているが、装丁や誌面のレイアウトは、一見、大人向けの本にも見える。これは「内容がちょっとゆるい感じなので、デザインは逆にポップさを排除して、ちょっと格調高い感じを意識した」(山下氏)ためだったが、結果的に大人も書店で手に取りやすくなったのではないだろうか。

■続編は、大人が読むことも意識して編集した

こうして発売から7カ月たった2016年末、「続」の編集がスタートする。既刊が子どもをターゲットにしていたのと異なり、続編では大人にも読まれることを意識して編集作業に取り組んだ。とはいえ編集期間はわずか半年。すでに一定の売り上げが見込めると踏んだ同社は、発売と同時に新聞広告を出すことも決めていた。広告出稿のスケジュールは厳重に決まっている。ここに記載した発売予定日をずらすわけにはいかなかった。タイトなスケジュールの中で、最も長い時間を割いたのは“ネタ選び”だった。

山下氏が所属する書籍編集部第1課は、児童書のほか大人向けの実用書も作っている。山下氏はストレッチ本などの実用書のほか、折り紙や、あやとりなど“子どもの遊び系”の児童書は手がけたことがあったが、図鑑の編集に携わったことはなかった。続編をつくるにあたり、図鑑編集の経験のあるスタッフたちと協力し、まずは各ページの見出しとなるような「ざんねん」ネタをエクセルに記入。それを子どもだけでなく大人にも見せて、その反応を見ながらネタを選別していった。文章はスタッフ皆でもんでいく。

「(続では)大人たち、特に、子どものいるお父さんお母さんが読んでも満足感のある作りを心がけました。例えばちょっとマイナーな動物を入れて知識の幅を広げられるように、オオカミとか恐竜とか、絶滅種を入れたりもしているんですけど、有名な生き物たちの新しい一面を知れるような、大人でも新しい発見があるようにしています。大人と子どものアンケートの回答を見ると、子どもに受けるものと大人に受けるものって多少違いがあったりもしたんです。なので、大人たちに人気なネタをちょっと入れたりといった工夫をしました」(同)

初代には120種類の「ざんねん」ネタが盛り込まれている。続では、学術書や新聞などから集めた300種類の「ざんねん」ネタを候補として用意。国立科学博物館で哺乳類の分類学や生態学を学んだのち、上野動物園で動物解説員を経て、現在も動物の生態を研究している監修の今泉忠明氏に、内容について随時チェックしてもらい、最終的に115種類まで絞り込んで「続」に掲載した。たしかに「オシドリの夫婦はじつは毎年相手が違う」、「ウミガメはいつも泣いている」などといったネタは、仲の良い夫婦を表す際にオシドリを用い、産卵時に涙を流すウミガメの様子を、テレビで幾度となく見て来た大人たちにも響く。

■子どもが飽きないために「うんこ」ネタをちりばめる

もちろん、もともとの想定読者である子どもに対しても手を抜いてはいない。子どもに愛されるネタを計算して入れている。筆者は取材に先立ちシリーズ2冊を、息子に1カ月ほど読ませていた。彼は仮面ライダーエグゼイドを愛する5歳児だが、3歳の時に恐竜に夢中になり、4歳で『小学館の図鑑NEO 危険生物』に夢中になった生き物好きでもある。ひらがなは読み始めたばかりなので、筆者が読み聞かせをしていたのだが、5歳の息子がひときわ喜ぶのは「うんち」と「おしっこ」についてのネタだった。「カンガルーの赤ちゃんは袋の中でおもらしする」「ザリガニは顔からおしっこをする」……彼が喜びのあまり奇声を発したページはこの類いである。

改めて目次を眺めると、これ系の話を一定間隔で配置してあるようにも見える。特に山下さんの手がけた「続」に顕著である。もしかして、子どもが飽きないように、あえてそうしているのだろうか?

「意識していますね、正直。特に、うんこの方は、一定数入れるようにしています。初代の後に出た『うんこ漢字ドリル』(文響社)もそうですけど、子どもにとっては普遍的なテーマなんです」

広報・宮越さんも「3ページに一つは入れています」と胸を張る。特に第二弾では社として大きな“冒険”に踏み切った。「うんち」や「おしっこ」にとどまらず「金玉」について紹介した話を、1ページだけ潜ませたのだ。

「このワードを入れていいかどうか、最後まですごく悩んでいたんです。最終的にちょっと入れちゃったんですけど。すごいチャレンジでした。ですが結果的にはすごい人気です。アンケートハガキに『好きな生き物はなんですか』という質問項目があるんですが、それのベスト5ぐらいには入っています」(山下氏)

こうした子どもにウケる鉄板ネタを飽きないタイミングで配置した続編も、狙い通り好評を博している。だがこのような面白い「ざんねん」からも、やはり生き物の「進化」の歴史を感じてほしいと山下氏は言う。

「この本のテーマは『進化論×トリビア』。進化って、言ってしまえば運なんですよね。その時その環境で、どういったものが生き延びられるかというところなので。もちろんすごい進化もたくさんあるんですけど、それだけじゃなく、しかも私たちから見るとざんねんに感じられてしまう進化っていうのがたくさんある。でもそれはもしかしたら動物たちにとっては大切なものかもしれないし、これから先、環境の変化が起きた時に役に立つ能力かもしれない。やっぱりその『ざんねん』の根本は進化にあると思っています。なので毎回、第1章に進化の話をちょっと入れています」

“第三弾”を望む読者からの声も社に届き始めた。現在、リサーチを進めている最中だという。他社から類似本も出始めたが「出るだろうとは思っていたので、やっぱり出たなという感じです」(山下氏)、「でも競合が出ると本家も売れるという効果もありますので」(宮越氏)と、余裕を見せる。

「あまり気にしないようにしています。類書を意識するよりは、自分たちがどれだけいいものを出していけるかというところに注力したいなって思っています。あとは営業力がすごくあるので、営業が売ってくれると信じています」(山下氏)

図鑑ジャンルにおける「ざんねん」ブームを巻き起こした「ざんねんないきもの事典」シリーズ。今日もどこかでこの本を手に取った読者に“なぜそうなった!?”という驚きをもたらしていることだろう。

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■次のページでは「続 ざんねんないきもの事典」の企画書を掲載します。

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■『続 ざんねんないきもの事典』の企画書

以下、『続 ざんねんないきもの事典』の企画書を掲載する。Wordで作られたシンプルな企画書は、出版社では珍しくないものだ。第一弾である『ざんねんないきもの事典』から引き継ぐところ、続編で差別化するところなどについて、分かりやすく書かれている。

(高橋 ユキ)