モザンビークの伝統的な慣行農業。自分たちの畑に水を引ける

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 今年の8月24日と25日、アフリカのモザンビークでTICAD(アフリカ開発会議)閣僚会議が開催された。TICADとは、アフリカの開発をテーマとする国際会議。1993年から日本政府が主導し、国連やアフリカ連合委員会、世界銀行と共同で開催している。

 閣僚会議とはいえ、TICADは市民社会への門戸が広い。発足当初からアフリカや日本のNGOなど市民社会組織の参加と自由な討議が尊重されてきた。ところが今回、そのNGOの一員として、外務省の派遣団メンバーに登録されていた渡辺直子さんに対し、モザンビークはビザ発給を拒否した。TICAD史上初の異例な事件だ。

 渡辺さんはNPO法人「日本国際ボランティアセンター」(JVC)の南アフリカ事業担当として、10年以上もHIV陽性者支援や農業支援に携わり、隣国のモザンビークでも、現地農民と共に調査と提言活動を行ってきた。日本のJICA(国際協力機構)のODA事業「プロサバンナ」事業について、モザンビークの農民らが、同事業には農民の参画がなく、同時に、多くの農民の土地が収奪される可能性が高いと指摘してきたからだ。

 モザンビークはビザ発給拒否の理由を明かさないが、NGO関係者は、渡辺さんのプロサバンナ事業に対する調査・提言活動が原因だろうと見ている。関係者は渡辺さんにビザを出すよう、外務省やモザンビーク政府などに働きかけたが、ビザ発給拒否は撤回されないまま、TICAD閣僚会議は終了した。

◆現地住民を蚊帳の外に置く「プロサバンナ事業」

 渡辺さんがモザンビークと関わるきっけかは、2012年10月、現地の農民組織から「プロサバンナ事業に対する情報収集等に力を貸してほしい」と要請があったことだ。渡辺さんは、2008年の世界的な食料価格の高騰をきっかけに、なぜ食料価格が高騰し、なぜ食料生産されながら飢餓があるのかについて、他団体とともに「考える場」を作るためのセミナーを主催し始めた。日本のモザンビーク研究者を通じて、そのメンバーに要請された。

 当時は、2008年の食料価格高騰に危機感を覚えた先進国や資金のある非農業国が、食料の「自国生産」や「輸入」に加え、「海外での食料生産」を始めていた。日本の倍ほどの国土面積を有するモザンビークも、2012年当時、海外農業投資による土地取得が進み、その面積は世界第2位を記録。現地農民は不安の渦に置かれていたのだ。

 プロサバンナ事業。正式名称は、「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力による熱帯サバンナ農業開発プログラム」。この名称の通り、日本とブラジルが連携して、モザンビーク北部3州の1100万haもの土地(日本の全耕作面積の2倍)を対象とした農業開発プログラムで、事業開始当初は主に輸出用大豆の栽培を目的としていた巨大事業だ。

「中小農民40万人に直接の恩恵が及ぶ」と謳っている。だが当初計画どおりに事業を進めれば、相当数の農民の土地が収奪されると予測されていた。

 最大の問題の一つは、当事者である農民が事業の詳細も知らされず、ましてや事業に関する話し合いに参画することもできず、蚊帳の外に置かれていることだ。

◆頻発していた土地収奪

 2013年2月、モザンビークから同国最大の小農組織「UNAC」(モザンビーク全国農民連合)の2人と同国の環境団体「JA!」(Justica Ambiental)の1人が、外務省やJICAに直訴するために来日した。

 彼らの訴えは、「当事者である私たちが事業の情報を知ることができず、事業計画策定の話し合いにも参画もできない。まず、私たちの話を聞いてほしい」というじつに素朴なものだった。

 一方の外務省側が示した見解は「これは小農支援のための事業。私たちは貧しい小農を豊かにしてあげたい」とのステレオタイプの使命感だった。