クリスマスの時期がやってきました!(写真 : hide / PIXTA)

12月後半になり、どこを歩いてもクリスマスソングが流れていますね。あちらこちらから We wish you a Merry Christmas and a Happy New Year! と聞こえてきますが、先日筆者が教える英語研修で、クリスマスソングの話をしたら、「どうしてクリスマスのあいさつだけ happy ではなく、 merry を使うんですか?」と聞かれました。言われてみれば、確かに……。筆者もあまり深く考えたことはなかったので、さっそく調べてみました。

聖なる降誕祭にふさわしいのは…


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これは、某アパレル企業に勤務するハナコさんからの質問だったのですが、筆者も理由はわからないと答えると、ハナコさん「不思議ですよね……Merry New Year とは言わないし、Happy Christmas も言わないし……」と続けていました。

でもハナコさん、実はイギリスでは「ハッピー・クリスマス」というのはみんな言いますよ。ワム!の「ラスト・クリスマス」でも、ジョージ・マイケルが言ってるでしょう?と言ったら、「ワムって誰ですか?」と聞かれてしまいました。若者でもさすがにワム!は知っていると思ったのに……。出だしを歌ってあげたら、「あー、聞いたことあるー!」と言って、なぜだかケタケタと笑っていました。でも、Merry New Year という表現が使われないというのはハナコさんのおっしゃるとおり。

オフィスに戻ってイギリス人の同僚ジョンに「なぜクリスマスはmerryなの?」と聞いてみると、第一声は「起源はわからないけど、クリスマスディナーで酒盛りするからじゃない?」という答え。merrymaking (酒宴・お祭り騒ぎ)なんて単語があるくらいですから、merryという単語にはお酒を飲んで楽しむイメージがあるようですね。そのあと、「でも本当になぜだろうね……」と理由が気になってしまった様子のジョン。結局2人でネットを使ってmerryの起源を調べてみることになりました。

協力してけっこう探してみたのですが、なぜクリスマスにmerryを使うのかはわからずじまいでした。唯一わかったのは、記録上初めてmerryがイギリスで使われたのは1500年代で、その使用が広まったのは1800年代。チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』が出版されたあたりのよう。その後、Merry ChristmasHappy Christmasのどちらも使われるようになったようです。

19世紀後半あたりには、merryの「酒を飲む」というニュアンスから「宗教行事に酒を飲むなんて、下流市民のすることだ」ということで、「Happy Christmasのほうが本来の宗教的な意味として好ましい」という考えが中流階級の人たちのあいだで広まったという面白い記述も! そう聞くと、個人的に筆者はhappyよりmerryなクリスマスのほうが好きですけどね!

Merry Christmas! (〔お酒を飲んで〕楽しいクリスマスを!)
Happy Christmas! (クリスマスおめでとうございます!・幸多きクリスマスになりますように!)

いくつかのサイトで書かれていたうわさによると、この理由から、エリザベス女王はHappy Christmasのほうを好んで使うとのこと。そういえば、女王は毎年クリスマスにスピーチをするんです。筆者もイギリスにいたときにテレビで見た覚えがあります。でも、内容まではよく覚えていませんでしたので、動画を検索して視聴してみると、たしかに最後にI wish you a very happy Christmas. と言っています。すぐにジョンにも見せると、「ふーん、僕はMerry Christmasって言うけどね……」と冷めた様子でしたが……。

merryの起源はともかく、イギリスではhappyでもmerryでもどちらでも構わないというのは間違いないようですね。でも、いまでは誰も気にしていないのでしょうが、もともとニュアンスの違いがあったというのは面白いですね。

アメリカの「政治的に正しいクリスマス」

ジョンの隣の席にいるアメリカ人のジョージが、筆者たちのやり取りを聞いて興味を持ったのか、What are you guys talking about? (キミたち、何の話をしてるの?)と聞いてきました。どうしてMerry Christmasと言うのかを調べていることと、Happy ChristmasMerry Christmasの違いの話をしていると伝えると、ジョージが「アメリカ人はHappy Christmasというのは使わない」とのこと。Me, neither! (僕も使わないよ!)とジョンがすかさず合いの手を入れますが、それは個人的な話でしょう!

ここまで来たらすごく気になって、オーストラリア人のジェーンにも尋ねてみました。ジェーンは少し考えてから「どっちも言うし、別に意味の差は感じない」とのことです。そして、カナダ人のジョッシュによると、カナダでもHappy ChristmasMerry Christmasの両方を使うようです。やっぱり、英連邦王国内はどの国でもイギリス式なのでしょうかねぇ。

すると、ジョージが「でもアメリカではHappy Holidaysというのが『政治的に正しい』とされているから、Merry Christmasは使わないほうがいいね」と言いました。そう言えば、いつのころからかアメリカでは、キリスト教以外の宗教を信仰する人や宗教信仰をしない人への配慮としてMerry Christmasではなく、Happy Holidaysという表現を使うことが一般的になってきました。特にサービス業ではそれが「すべてのお客様に配慮している証し」のようになったのです。クリスマス色を出しすぎると反発が起きるような風潮もありました。

Merry Christmas! (楽しいクリスマスを!)
Happy Holidays! (すてきなホリデーシーズンを!)

Happy Holidaysと言っておくと無難かも?

でも、これは企業の話で、個人レベルでは気にせずMerry Christmasを使う人も多いです。Happy Holidaysを使うのは、仕事上のお付き合いでのあいさつや、明らかに相手がキリスト教徒ではないとわかっているときくらいかもしれません。Merry Christmasと言われると、I’m not a Christian! (オレはキリスト教徒じゃない!)とムッとする人もごくまれにいますので、そういうのが面倒くさいから「とりあえず初めからHappy Holidaysと言っておく」という感じで使う人も多いようです。

近年では逆にその「政治的に正しい」風潮に対する一部のキリスト教徒の反発が起きて、今度はHappy Holidaysを使っている店をキリスト教徒がボイコットするなんていう極端な例も……。ドナルド・トランプ大統領までがWe're all going to be saying “Merry Christmas” again. (アメリカ国民はみな、また「メリークリスマス」を使うようになる)なんて言ってニュースになったこともありましたね。

スターバックスがホリデーカップからクリスマスのデザインを排除したことに反発した人の動画が、一時期よく取り上げられていたのも記憶に新しいです。アメリカのスターバックスでは、注文時にお客さんの名前を聞き、それを店員がカップに書き入れて、飲み物が完成するとバリスタがその名前を読みあげるシステムなのですが、「名前を『メリークリスマス』にすれば、奴らが『メリークリスマス』と言わざるをえなくなる! 名前を聞かれたら『メリークリスマス』と言おう!」なんて呼びかけをしている動画で、あちこちで話題になりました。

ジョンによるとイギリスではHappy Holidaysは使わないとのこと。アメリカやカナダのようにThanksgiving Day(感謝祭)がありませんし、ユダヤ教徒やアフリカ系の人が多いわけでもないからだと思うと言っていました。キリスト教徒でない人も、あまり気にせずにMerry ChristmasHappy Christmasと言うみたいです。オーストラリアでは「アメリカほどじゃないけど、Happy Holidaysって使う企業はあったかも」とジェーン。「別にどれで言っても問題ないわよ」っと言っていました。ジョッシュが言うには、こちらに関してはカナダはアメリカに近いようでHappy Holidaysがよく使われているようです。

アメリカでは、このHappy Holidays vs. Merry Christmas論争が12月になると盛り上がるようになってきました。ほとんどの人はおそらく「どうでもいい」と思っているのだと思いますが、メディアも面白がって取り上げるし、SNSで極論派の方々がやり合うので、話題にのぼりやすくなったのでしょう。

クリスマスなり、ただの休暇なり、別の行事なり、せっかく相手を気遣ってかけるあいさつなのに、こんなふうに争いの原因になるのは、本当に悲しいですね。相手がどれを言おうと、自分は自分の心地のよいフレーズで答えるというのではダメなのでしょうか……。

クリスマスはロマンチックではない?!

翌週、いろいろと調べた結果をハナコさんのクラスでみんなに伝えました。残念ながらなぜmerryを使うのかはわかりませんでしたが、クリスマスのあいさつに関するトリビアをみんな楽しそうに聞いていました。宗教的配慮からHappy Holidaysという表現を使うということには驚いていましたが、それに対して反対運動が起きているということにはさらにビックリしていました。

すると、「クリスマスに恋人がいない人が、やっかみでケチつけてるんじゃないですか?」というタロウさんの冗談をきっかけに、他の研修生たちが笑いながら「恋人のいないクリスマスはさびしいからね〜」「私もクリスマスまでにボーイフレンドがほしい!」と口々に冗談を言います。なるほど……この時期になると恋人が欲しくなるというのは、いかにも日本人らしい発想。イギリスやアメリカのクリスマスは少し雰囲気が違うというのは皆さんご存じでしょうか?

そこで、研修生たちに「イギリスやアメリカのクリスマスというのは、恋人のイベントではない」と伝えると、みんな少し意外そうにしていました。クリスマスは家族や親戚が集う、日本で言えばお正月みたいな感じのイベント。もちろん、恋人を実家に連れていって家族に紹介したりすることはありますが、基本的には家族の行事なのです。

日本と違うと言えば、食べるものも微妙に違います。まずはケーキ。日本ではホイップクリームにイチゴをのせ、クリスマスのデコレーションをした「クリスマスケーキ」なるものを食べますが、イギリスやアメリカではそのようなケーキをクリスマスに食べる習慣は一般的ではありません。

イギリスではChristmas pudding (クリスマスプディング)というドライフルーツの入った、ずっしりとしたパウンドケーキのようなものや、mince pies (ミンスパイ)というやはりドライフルーツの入った小さなパイが一般的でした。Yule log (ユール・ログ)というフランスのbûche de Noël (ブッシュ・ド・ノエル)の起源となった丸太型のケーキも見たことがあります。

アメリカでは特にクリスマス用というスイーツはなかったように思います。サンタクロースにあげる用のクッキーくらいでしょうか。あとはジンジャーブレッドやアップルパイ、ペカンパイなどを食べたりする家庭もありますが、クリスマス限定のスイーツというわけではなく、ほかの時期に食べることもあるものばかりです。

日本ではフライドチキンが一般的だが…

ディナーに関しては、日本ではフライドチキンが一般的ですが、イギリスでは七面鳥が多かったように思います。クリスマスから正月くらいまで、ひたすら七面鳥を食べ続けていた思い出があります。アメリカでは七面鳥のほかに、ビーフやカモ肉を食べたりもしていましたので、特にどれかの肉という決まりはなかったように思います。

でも、どのような形であれ、こういったイベントがあるのは、いくつになっても心躍ります。その土地や家庭に合わせた素敵な年の瀬の過ごし方ができれば、happyでもmerryでも、ChristmasでもHolidaysでもいいのではないでしょうか。

研修の帰り際、ハナコさんに呼び止められました。「先週、先生が言ってたマイケルなんとかさんの歌って、なんてタイトルでしたっけ?」。えーと、「マイケルなんとか」ではなく、「ジョージ・マイケル」でタイトルは「ラスト・クリスマス」。そう言うと、うれしそうにメモを取りながら、George Michaelと書いていたので「グループ名は『ワム』だよ」と言うと、Okay!(わかりました!)と言って、Wamと書くではないですか! No, no, Hanako, it’s W-H-A-M. (ハナコさん、違うよー、W-H-A-Mだよ)と訂正。無事にWhamと書いていましたが、本当は感嘆符も付けてWham! なんですけどね……(笑)。