アドエージェンシーの社員は、Slackを単なる日常のコミュニケーションツールと考えがちだ。だが一部の人々にとって、それは職場に平等をもたらすものだ。たとえば、エージェンシーの女性社員にとって、Slackは主張をトーンダウンしたり言葉遣いを和らげたりすべきだというプレッシャーにさらされることなく意見を表明できる場所だ。女性たちは実生活でしばしばこういったプレッシャーを受けている。デジタルエージェンシーのヒュージ(Huge)でシニアコンテンツストラテジストを務めるステファニー・ミテッサー氏は、キャリアのなかでたびたび性差別を経験してきた。3年前、ニューヨーク郊外のあるエージェンシーでプロジェクトマネージャーを務めていたとき、彼女は、クライアントとの打ち合わせではトーンを和らげ、温かみを見せるように言われた。自己主張が強い彼女の生来の性格とは相容れない要求だ。だが、Slackを使ったコミュニケーションでは、このようにとやかく言われることはないという。「Slackでは誰もがインフォーマルだ。直接的な指摘をしても、冷淡に思われないか心配しなくていいので、ずっと気楽だ」。匿名希望のある別のエージェンシー社員は、Slackは「セーフティーネット」だと話す。「自分の望むやり方で自己主張でき、自分が他人の目に女性としてどう映るかを気にする必要がない」からだという。

すばやい返信が重要

Facebook上でのジェンダーと言語の関係を分析した、2016年のバーモント大学の研究によれば、男性は「いつも」「明らかに」「絶対」といった断定的表現や、「こうしろ」といった命令文を多用する一方、女性は婉曲表現(「〜みたい」「たぶん」「ある意味」など)を多用する傾向がある。「もしかしたら」や「もしよければ」といった表現で言葉遣いを和らげるのは、ミーティング、ビジネスメール、ソーシャルメディアでは日常茶飯事だと、ジェイ・ウォルター・トンプソン(JWT/J. Walter Thompson)でデジタルイノベーション責任者を務める、ジェン・ウスダン・マクブライド氏は言う。彼女自身、自分がビジネスメールを送る際にそうしていることを自覚している。「打ったメールを見直してみると、言葉遣いについて考えさせられる」と、彼女は言う。「だれかの気に触る言い方をしていないか、図々しく思われていないかと考えてしまう。これは多くの女性が抱えている問題だと思う」。しかし、Slackはこうしたプレッシャーとは無縁だと、マクブライド氏は言う。彼女が率いる15人のチームは、クライアントともチーム内でも日常的にSlackでやりとりしている。その理由は、Slackがメッセージアプリに近く、相手は細部を気にするよりも、すばやい返信を期待しているからだ。

ジェンダーの中立地帯

Slackはジェンダーの中立地帯だと考える人は多い。マッキニー(McKinney)でシニアデザイナーを務めるエリン・キャンベル氏も、Slackは「きわめて中立的な場所で、コメントの有用性それ自体が意見の価値とみなされる」ため、自分の考えを伝えるために聞こえのいい言葉で飾る必要がないと話す。インフルエンサーマーケティング企業のクラウドタップ(Crowdtap)でシニアマーケティングマネージャーを務めるニティヤ・スリキシェン氏は、Slackは即興性と娯楽性、たとえばサムズアップの絵文字やGIFのおかげで、すべてのジェンダーの人々にとって「ユニークな方法で自己表現」しやすい場になっていると指摘する。Slackのチャンネルがコミュニティ形成を促す効果もある。その一例が、ヒュージの女性社員グループからなるSlackチャンネルだ。約1年前、米国の大統領選の時期に、ミテッサー氏はこのチャンネルの創設に携わり、大統領選について思うことから、サイドビジネスの情報共有まで、女性たちがあらゆる意見交換をする場にしようと考えた。現在、約200人の女性社員からなるこのコミュニティは活況を呈している。ミテッサー氏は、これはヒュージではじめての女性主体のグループだと話す。

ヒュージの女性社員グループのSlackチャンネル

誰でも読める危険

Slackのおかげで、アドエージェンシーの女性社員の一部は自己表現の自由を手にしたが、すべての企業でSlackがこのように使われているわけではない。先月、クオーツ(Quartz)が掲載した記事は、デジタルニュースパブリッシャー内での男女の会話を分析した結果、Slackにおいてもステレオタイプなジェンダー力学が働いているとした。また同記事では、前述のような自由な雰囲気は感じられないという証言が複数とりあげられている。あるエージェンシー社員は、匿名を条件に、Slackは職場の平等に多少は貢献しているものの、無意識のバイアスを消し去ることはできないと語った。エージェンシー内のSlack公開チャンネルに、不適切なコンテンツのシェアや、不快なジョークがたびたび見られたという。解雇に相当するほど悪質ではなかったものの、「マイノリティーの社員から、Slackチャンネルで誰それが言ったことは不適切だといった苦情が寄せられた」と同社員は明かし、Slackのカジュアルさが過ちの温床だと述べた。しかも、ミーティングなら誰かが不適切な発言をしても皆に無視されるだけかもしれないが、Slackでは誰もが読むことができる。先述の匿名の社員は、「露出が高いのだから、自分の発言にもっと気をつけるべきだ。宗教も、政治的主張も、アイデンティティも千差万別で、たとえ日常的な言葉であっても職場では不適切になりうると自覚しなければならない」と述べた。Ilyse Liffreing(原文 / 訳:ガリレオ)