トランプ政権が、著名な朝鮮問題専門家であるビクター・チャ氏を次期の韓国駐在大使に任命したことが明らかとなった。韓国系米国人のチャ氏は、ジョージ・W・ブッシュ政権の国家安全保障会議でアジア上級部長を務めた学者であり、強固な保守本流の政策を提言することで知られている。

 北朝鮮情勢の危機が高まるこの時期にチャ氏が起用されたことで、トランプ政権の対朝鮮政策はより現実的で堅固になることが期待される。

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北朝鮮の核武装を一貫して厳しく非難

ビクター・チャ氏(出所:)


 12月中旬、複数の米韓メディアがワシントン、ソウル両方の政府筋からの情報として、トランプ政権がチャ氏を次期駐韓大使に任命し、韓国政府にも通告したことを報道した。今後は米国議会で承認が審議され、正式に決定する。

 現在、ジョージタウン大学の教授、戦略国際問題研究所(CSIS)の朝鮮部長を務めるチャ氏は、北朝鮮研究では全米有数の権威とされる。昨年はCSISを中心とするワシントンの複数の有力シンクタンクが共同で結成した北朝鮮研究機関「境界線を越えて」の代表幹事となり、金正恩政権の核兵器、ミサイル開発や人権弾圧などについての情報収集や分析にあたってきた。

 1961年に韓国出身の両親の下にニューヨークで生まれ、現在は56歳。コロンビア大学やオックスフォード大学でアジア安全保障や朝鮮情勢について学び、博士号を取得した。2004年から2007年までは共和党ブッシュ政権の国家安全保障会議アジア部長となり、朝鮮半島や日本との関係を担当した。

 これまでチャ氏は北朝鮮の無謀な核武装などを一貫して厳しく非難し、米韓同盟を主体に、米国が北朝鮮を断固とした力で抑止する強硬な政策を唱えてきた。

 米国のアジア専門学者の中で、チャ氏の「力の行使」や「同盟重視」「人権尊重」などのスタンスは、共和党系保守派の本流の思考を体現すると評されてきた。いわば米国の朝鮮研究学者たちの中心部に位置する人物であり、そうした著名な専門家を駐韓大使に起用したトランプ政権は対朝鮮政策でも保守本流の路線を歩もうとしていると解釈されている。

 昨年の大統領選では、共和党の指名候補ドナルド・トランプ氏に対する反発が、同じ共和党系の学者たちの間でも強かった。選挙キャンペーン後半では、アジア専門家のマイケル・グリーン氏、パトリック・クローニン氏ら約50人が「自分たちはトランプ大統領が誕生しても政権には加わらない」という抗議声明に署名した。だが、チャ氏はそれに署名しなかったことが話題を集めた。

「韓国はもっと柔軟になるべきだ」

 チャ氏は日韓両国間の歴史問題でも韓国側の行き過ぎた政策を批判する立場をとってきた。

 韓国の朴槿恵前大統領は、日本の安倍晋三政権の慰安婦問題への対応が不十分だとして、就任以来3年以上も安倍首相との日韓首脳会談に応じなかった。チャ氏はその対応を批判し、韓国側はもっと柔軟になるべきだと提言していた。

 また、韓国側が慰安婦問題について謝罪や賠償を求め続けることにも反対し、「日韓両国は北朝鮮や中国の軍事的脅威に備えて、米国を中心に団結すべきだ」という意見を唱えていた。

 チャ氏は、韓国がいつまでも慰安婦問題で対日非難を続ける状況について、「日本側がいくら謝罪しても、韓国側にはそもそも許す気がないのだ」として韓国への謝罪には効果がないことを指摘していた。

 韓国の延々と続く糾弾に日本が疲れ果ててしまったことを表す「韓国疲れ(Korea fatigue)」をワシントンにいち早く伝えたのもチャ氏である。チャ氏は韓国に対して「ワシントンで韓国疲れを起こすような事態は避けたほうがよい」と警告していた。

 こうした日韓両国の中間に立つ学術的で客観な姿勢を保つチャ氏に対し、韓国の外交官やジャーナリストたちの間には「韓国系なのに韓国の主張に対して冷たい」などと批判する声も聞かれる。そんなチャ氏がソウル駐在の米国大使に任命されたことは、トランプ政権の対韓国、対北朝鮮政策を大きく前進させる影響を及ぼすだろうと観測されている。

筆者:古森 義久