周りの人間は、普段からの言動をよく見ている。


 インターネット上の記事で、興味深い「忖度」の違いを読んだことがある。その記事を記憶に基づいて再現すると、次のようなものだった。

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

部下は「忖度」するもの

 取引先企業を訪問して、早く着き過ぎてしまった社長御一行。同伴の部下が社長の気持ちを忖度し、相手先に電話を入れ、「1時間早く着いてしまったのですが、今からお伺いしてもよろしいでしょうか」と申し入れた。

 もう1つの事例。同じように早く着きすぎた社長とその部下。「早く着きすぎましたね。仕方ないので、どうにか時間をつぶしましょうか」と社長に提案する部下。

 どちらの方が望ましい部下か。社長にとって気持ちのよい部下は、前者だろう。しかし、会社の発展にとって望ましい部下は、後者の方だろう。

 前者の部下は、相手先企業の都合よりも、社長の都合を優先している。これは顧客を見ずに社長の顔色ばかり窺う部下ばかりに会社が変容している恐れがある。こうした企業に身を置く社長はさぞかし気分がよかろうが、会社の将来は心配になる。顧客を見ない企業が、発展するはずもないからだ。

 他方、後者の部下は、社長よりも相手先企業の都合を真っ先に考える習慣が身に付いているのだろう。1時間も予定を繰り上げることは、相手先企業のスケジュールを大いに狂わせる恐れがある。社長の機嫌よりも、相手先企業のことをまず思いやる習慣が部下に身についている証拠だ。

 社長は1時間、近くに時間をつぶせる喫茶店もなく、無為な時間を過ごす羽目になるかもしれないが、相手を真っ先に考えるという姿勢は、会社の発展につながる。

 こう並べてみると、いわゆる「忖度」をしているのは前者の、社長の顔色を窺う部下の方のように思える。しかし実は、後者の、相手先企業を優先している部下も、社長の意向を「忖度」している。というのも、部下は誰もが上司の顔色を窺うものだからだ。

「忖度」の結果の違いはなぜ生まれるのか

 では、社長の顔色をどちらも窺っているのに、つまり「忖度」しているのに、部下の行動は大きく異なり、おそらく、会社の将来も大きく変わってくる。何が違うのだろう?

 それは「社長の姿勢」なのだろう。自分の機嫌を取り結ぶことを好む社長の周辺には、相手先企業よりも社長の気持ちを忖度し、優先する部下が集まるようになる。顧客のためなら、社長の機嫌を損ねることになったとしても直言を憚らないような部下は、煙たがって遠ざけてしまう。

 他方、社長である自分のことより相手先企業や顧客を尊重する姿勢の強い社長は、普段から「私のことなんかどうでもよい、先方はどうお考えなのだ?!」「わが社のことはまず置こう。まずお客様のためにどう動くべきかを考えよう」という発言や行動が、普段から見られるのだろう。だから部下も、社長の好みである「社長自身の気持ちよりも、顧客や相手先企業を優先する」ことを忖度し、選択するのだ。

 もちろん前者の社長も、「私はそんな指示はしていない、部下が勝手にやったことだ、常に顧客、相手先企業を優先するように訓話している」と言い訳するかもしれない。しかし日常で部下に見せる姿勢がそうなっておらず、自分の機嫌をとらない部下がいると腹を立てているのであれば、結局は社長の機嫌を最優先する部下を増やすことになってしまう。

 日常的に「私よりもお客様、顧客企業を優先するように」と口すっぱく伝える社長なら、たとえば部下が社長の機嫌をとろうとして顧客や相手企業を軽んずる行動を取ろうとしたとき、「こら! 私のことなんかどうでもいい! 顧客のこと、相手企業を優先しろ!」と一喝するだろう。もし一喝せずに、黙って機嫌を取り結ぶ部下の行動を黙認したとしたら、それは社長が部下をそのように誘導したことになるのだ。

 部下が保身と出世を考えるのは当たり前だ。保身と出世のために社長の機嫌を取ろうとするのも当然だ。社長が何もしなければ、部下は忖度し、できる限り社長の機嫌を取ろうとする。これは当然のことであり、仕方のないことだ。

会社の発展のために

 会社全体の発展のためには、社長が部下に対して常に言い続けなければならないことがある。「私の機嫌なんかどうでもよい、顧客のため、相手企業のためになることは何か、その上でわれわれの会社がどうしたら発展できるのかを考えなさい」というメッセージだ。

 こうしたメッセージを常に伝え、自分の機嫌をとろうとする部下の行動を常にたしなめるようにすれば、「社長は常に会社の発展のことを望んでいるのだな」と部下たちは「忖度」し、そのための行動を取ろうとする。

 部下が機嫌を取ろうとするのを放置する時点で、社長の顔色ばかり窺うヒラメ社員を増やす素地が出来上がったようなものだ。そうした会社は、社長はご機嫌だが、会社全体は沈んでいく。

 会社を発展させる忖度を誘導できるか、それとも会社を没落させてしまう忖度をそのまま放置してしまうか。

 部下の「忖度」の方向をどう誘導するかは、社長次第、上司次第だといえるだろう。

筆者:篠原 信