極右系として有名なメディアに、トヨタの広告が出稿されていた。ブランドを毀損するネット広告に、多くの企業が気づいていない

企業にとって広告は自社のPR手段だ。それと同時に、メディアを支援する行為でもある。出稿先のメディアに広告掲載料を支払うことで、言論活動を経済面から支援するからだ。だから論調が合わないなどで支援したくないメディアに対しては、広告を出稿しないという選別を行う。この原則はテレビや新聞・雑誌といったいわゆる「オールドメディア」時代の常識だった。

日本を代表する企業の広告がトンデモサイトに掲載

インターネット広告でも、企業はこの原理を基本的に継続している。ところが今ネット空間では、日本を代表する大手企業の広告が公序良俗に反するサイトに多数掲載されている。これはいったいどういうカラクリなのか?


週刊東洋経済編集部は特集『ネット広告の闇』(12月18日発売号)の取材の一環で、ブランド価値を損ないうる問題サイトに、どのような企業の広告が掲載されているかを調べた。

サイトの選定にあたっては、広告価値毀損測定の世界最大手である米インテグラル・アド・サイエンス(IAS)の協力を得た。

サイト全体またはサイト内の一部コンテンツによるブランド毀損リスクが、同社の定める中レベル以上と分類されているサイトのうち、知名度やPV(ページビュー)などの点で代表的といえる以下の4件を選んだ。

ブライトバート・ニュース・ネットワーク
米国の極右サイトとして有名。トランプ米大統領の前首席戦略官、スティーブン・バノン氏が主宰者。匿名消費者による大規模な出稿停止要請運動が起こり、約3600社が出稿停止中(冒頭写真)
DC GAZETTE
「保守系の最高のニュースソース」をうたう英文ニュースサイト。2016年の米大統領選で、事実に基づかず、かつ投票行動に影響する報道をした「フェイクニュースサイト」として知られている
国内出版社が運営する女性向けのアダルト系サイト
「女子の素直な“ウラの欲望”に迫った本音情報」という触れ込み。「メンズに『こんなの初めて』と言わしめる叶恭子のセックス」といった記事が並ぶ
国内の巨大ネット掲示板から、主に中国・韓国に関するスレッドを引用したまとめサイト
多くが韓国と中国を批判、あるいは嘲笑する内容で、一般的にヘイトスピーチサイトとされるもの

各サイトの広告は基本的に、閲覧者のネット利用履歴を基に表示される「リターゲティング(リタゲ)広告」。週刊東洋経済編集部の記者8人が異なる端末・ブラウザを使って調べ、結果が特定の記者の履歴に左右されないよう配慮した。その結果、4つのうちいずれかのサイトに、以下のような企業あるいはブランドの広告掲載が確認された(50音順)。

アマゾン/キヤノン/キリン/グリー/コナミデジタルエンタテインメント/全日本空輸(ANA)/ソニーネットワークコミュニケーションズ/トヨタ自動車/日産自動車/日本航空(JAL)/日本たばこ産業(JT)/野村不動産ホールディングス/ファーストリテイリング(ユニクロ)/フィデリティ証券/富士通/村田製作所/オーネット(楽天傘下)/LIXILグループ

全社が「知らなかった」

果たして企業は、こういったサイトに自社の広告が掲載されていると知っているのだろうか?上記のうち相対的に売上高の大きい複数の日本企業に問い合わせたところ、回答を寄せた11社すべてが「掲載されているとは知らなかった」と答えた。

また11社のうち6社は、ブランドマネジメントの観点で問題があるとして、当該サイトへの出稿を停止したか、取引先の広告代理店などに停止を要請する方針を固めた(回答の詳細はこの記事の末尾にまとめて掲載)。

今回は極めて限定な規模で調査したが、結論として指摘できるのは、「問題サイトへの出稿はどれも企業側が意図したものではなく、グーグルなどの広告配信システムが機械的に出稿先を決めていた」ということだ。

大手企業のネット広告は基本的に、広告代理店を窓口として、DSP(デマンドサイドプラットフォーム)やアドネットワークといった中間業者を介して無数のサイトに配信される。この中間業者には、米グーグルやヤフージャパン、サイバー・コミュニケーションズ(電通傘下)といった企業がある。

ネット広告の取引はオールドメディアの時代に比べて複雑だ。またネット上の問題サイトは無数にあるし、日々新たに生まれてもいる。オールドメディアの時代には、企業が広告出稿の実態を目視で基本的に確認できたが、ネット時代にはその作業は不可能だ。

だからこそ、ネット広告にブランド毀損リスクがあることを、広告主企業は厳しく認識する必要がある。「出てしまうのだから・防ぎようがないから仕方がない」という感覚は、世界的には非常識となりつつあるのだ。

イスラム過激派に大手企業が「資金提供」

問題サイトへの広告出稿は2016年ごろから、欧米企業の間で「ブランドセーフティ」と呼ばれる問題として意識が高まっていた。決定的な分水嶺となったのは、2017年2月。YouTube にイスラム過激派の支持者によって投稿された動画があり、そこに独メルセデス・ベンツや英国の高級ホテルの広告が配信されていることを、英国の高級紙タイムズが報じた事件だ。

このときの広告も、グーグルの広告配信システムで自動表示されたもの。企業が意図した出稿ではないが、過激派支持者に広告収入が配分されるという結果は厳然として存在する。大口広告主は次々とYouTubeから広告を引き上げ、グーグルも対策を講じたことを声明で明らかにしている。


近年、ネット広告が急速に拡大したのは、企業にとって経済的な合理性があったからだ。つまり、オールドメディアでの広告に比べ狙いたい消費者に絞って広告を表示でき、露出した総量に対するコストも低いといった特徴がネット広告にはある。

だが、そのネット広告が計測しようのないブランド毀損リスクを抱えていることに、日本企業も意識を高める必要がある。今回、週刊東洋経済が指摘した広告出稿は、氷山のごくごく一角に過ぎない。

広告主企業からの回答一覧(要約、50音順)

●キリン

広告が出稿されていることは、把握していなかった。問題の有無と対処については、現在精査している(コーポレートコミュニケーション部)

●ANA

サイトを閲覧されているユーザーにターゲティングして広告が掲載されているケースと認識している。これまでもこのようなケースへの対応として、不適切なサイトに広告掲載しないよう、配信先の除外設定(ブラックリスト化)を行ってきた。本サイトも配信先の除外設定を行った。今後はホワイトリスト対応等も視野に入れる(広報部)

●ソニーネットワークコミュニケーションズ

業務委託している広告代理店が、アドネットワークを使用して掲載した。代理店には広告の削除依頼を行う。アドネットワーク広告は、プログラムによって自動で広告枠を買付け、広告掲載をするので、不適切な場所への広告表示を避けるべく、代理店に指示を行ってきた。(コーポレートコミュニケーション室)

●トヨタ自動車

指摘されたサイトへの掲載は認識していなかった。今後、対応を検討する。ブランド毀損になりうる不適切サイトへの掲載は対応を講じており、具体的には不適切サイトのURLやキーワードで、配信先から除外している。(広報部メディアリレーション室)

●日産自動車

この広告はグーグルによる自動出稿の機能で表示されていると思われるが、同様の問題が海外で発生して以来、広告代理店経由で継続的にチェックをしてきた。そのチェックで検出できていなかったのは遺憾。早急に当該サイトの出稿を停止するよう、代理店経由でグーグルに申し入れる。消費者と当社のブランドを傷つけるようなサイトに自動出稿されないよう、再度確認を徹底し、再発防止に努めていく。(ジャパンコミュニケーション部)


英国の高級紙タイムズの電子版。イスラム過激派関連の動画に、ベンツの広告が挿入されていたと指摘している

●日本航空(JAL)

このサイトへの広告出稿は認識していなかった。GDN(グーグル・ディスプレイ・ネットワーク)というバナー広告システムを介して自動的に配信されたものだ。通常はグーグルのアルゴリズムで、問題のある記事との同一画面には配信されないようになっているが、今回はそのアルゴリズムから外れたようだ。グーグルに報告し、改善を依頼した。当該ページへの広告出稿はすでに停止した。(広報部)

●日本たばこ産業(JT)

このサイトに広告が出稿されていたことは知らなかった。ブランドマネジメント上、問題があるため、経緯を確認して対応を検討する。配信先媒体や配信面の確認など、ブランドセーフティの対策は今後強化していく。(広報部)

●野村不動産ホールディングス

ブランド価値の観点で不適切なサイトのブラックリストを作り、広告の配信先から除外している。だが今回は、プラットフォーム(アドネットワーク)が出稿先の内容を非開示としていたので、中身を把握していなかった。指摘を受け、配信除外の要望をする方向。(コーポレートコミュニケーション部)

●富士通

指摘を受け、このサイトへの広告出稿を認識した。意図した出稿ではないが、問題があると考えるため、このサイトを広告配信のブラックリストに追加した。当社はアダルト、ヘイトスピーチなど、公序良俗に反するブラックリストへの広告配信を禁止している。この方針は、リターゲティング広告であっても変わらない。広告を配信するDSP業者に対しては、アドベリフィケーションツールを必ず使用するよう求めてきた。(広報IR室)

●村田製作所

このサイトに広告が掲載されたことで当社のブランド力が低下するかどうかは、正直なところ影響を測りきれない。とはいえ、このようなサイトへの広告掲載は当然ながら避けるべき。今後は信頼できるサイトに限定して出稿する。ネット広告についてはブランドマネジメントに関する対策は特に講じられていなかったというのが現状。(広報室)

●LIXILグループ

まずは事実調査を早急に行う。調査結果をもとに、具体的な対策について迅速に代理店と検討していく。(広報部)

週刊東洋経済12月23日号(12月18日発売)の特集は「ネット広告の闇」です。