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【石原壮一郎の名言に訊け】〜三島由紀夫
Q:みんなそうなんでしょうか。それとも自分だけなんでしょうか。毎日、小さなことにクヨクヨ悩んでいます。バスで前に立っていた微妙な年齢のオバサンに、席を譲ったほうがよかったのか譲ったら譲ったで怒られたのか……。課長はどうして朝の挨拶のときに目を合わせてくれなかったのか……。なぜ自分はエクセルを上手に使えないのか……。ひとつひとつは小さな悩みですが、それが束になってのしかかってくるし、たくさんの悩みを抱えている状態そのものも大きな悩みです。(東京都・29歳・不動産業)

A:その昔『小さなことにくよくよするな』という本がベストセラーになったことがありました。誰しも身に覚えがありますが、人は小さなことにクヨクヨしてしまう生き物です。「いくら考えても他人の気持ちはわからないし、そもそも気にしても仕方ない」「悩んだところでエクセルは上手にはならない。悩んでないで勉強しよう」と言ったところで、たぶん慰めにも解決にもなりませんよね。悩みとはなかなか厄介なものです。

 ただ、悩むことは厄介なだけではありません。じつは、たくさんのメリットがあります。自分はいい人だと思いたいとか、一生懸命に頑張っている実感を覚えたいとか、罪悪感から逃れたいとか、劣等感をごまかしたいとか、そんなニーズがあるときは悩むのがいちばん。クヨクヨ悩むことで、そのあたりの希望は簡単にかなえられます。

 『潮騒』や『金閣寺』など数多くの名作を残した作家の三島由紀夫。ノーベル文学賞の候補に選ばれるなど海外でも高い評価を受けましたが、徐々に政治活動に傾倒し、最後は自衛隊の駐屯地で割腹自殺を遂げました。そんな壮絶な人生を送った彼は、こう言っています。

「傷つきたくない人間ほど、複雑な鎧兜を身に付けるものだ。そして往々この鎧兜が、自分の肌を傷つけてしまう」

 悩むという行為は、あなたにとって格好の「鉄兜」になっているのではないでしょうか。小さなことにクヨクヨ悩んでいるうちは、本当に大切な問題や課題から目をそらすことができます。そもそも深刻な事態に直面していたら、悠長に悩んでいる場合ではありません。悩みとは違いますが、偏った意見にどっぷりハマったり差別する対象を見つけたりという「鉄兜」で、崩れそうなプライドを必死で守っている悲しいパターンもありそうです。

 あなたは小さなことにクヨクヨしてしまう状態から、どうにか抜け出したいと思っているようです。それはたいへんけっこうですが、何のために抜け出すのかをはき違えないようにお気を付けください。小さなことに悩まないようになりたいのは、気持ちが楽になるからではなく、悩むという行為に逃げ込んでいる自分を変える必要があるから。そこを自覚しない限り、悩むという便利で甘美な快楽から逃れることはできません。

 三島由紀夫は、こんな言葉も残しています。

「やたらと人に弱味をさらけ出す人間のことを、私は躊躇なく『無礼者』と呼びます」

 これもかなりガツンとくる言葉。私たちは、うっかりすると無駄に悩んだりやたらと弱みをさらけ出したりしがち。SNSでお互いに傷をなめ合っていても、自分を変えることはできないし反省にもつながりません。オバサンや課長やエクセルのことで悩んでいないで、何かをごまかそうとしている自分の了見のズルさやセコさについて真剣に悩んでみましょう。

【今回の大人メソッド】
◆ガツンとくる言葉で自分に揺さぶりをかけよう!

いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。近著に『SNS地獄を生き抜く オトナ女子の文章作法』(方丈社)、『悩める君に贈る ガツンとくる言葉』(バジリコ)など。