エヌビディアのAIコンピューターを搭載した、自動運転車のプロトタイプ。トヨタ自動車やアウディなど世界の大手が注目する。鮮やかな緑は企業カラーだ(記者撮影)

トヨタ自動車、ホンダ、ソニー、ファナック――。名だたる日本企業が熱い視線を送る企業がある。米半導体大手のエヌビディアだ。

AI分野をリードする企業として、エヌビディアは今、半導体業界で最も注目を集める存在だ。株式時価総額は12月15日時点で1160億ドル(約13兆円)で、2017年初から倍増した。日本からはソフトバンクグループが出資している。

同社が長年テレビゲーム向けに開発してきた「GPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)」とよばれるチップが、AIの処理に適していることがわかり、世界では200社以上もの製造業と提携。さまざまな分野でAIの活用が進んでいる。

12月中旬、4000人を超える技術者たちが東京・お台場のホテルに詰めかけた。エヌビディアはここで開発者向けイベント「GTC Japan 2017」を開催。冒頭の大手企業の幹部などが、70を超える講演で登壇し、エヌビディアとの取り組みについて語った。

「自動運転時代は100年以内に来る」

「今後AIの活用が進むことで、自律型マシンの時代が到来する」。今回のイベントに合わせて来日したジェンスン・フアンCEOは、基調講演でそう語った。


エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは、自動運転時代に自社のチップが強みを発揮できると自負する(記者撮影)

たとえばトヨタは、自動運転車の頭脳にエヌビディアのスーパーコンピュータ「ドライブPX」を採用。実際にどの車種にいつ頃搭載されるのかは明らかでないが、自動運転に欠かせないといわれるAIの部分で、共同開発を進めている。

トヨタ以外にも、エヌビディアは米EVメーカーのテスラ、独高級車大手のアウディとも次々に協業を進め、ハンドルがいらない「レベル5」の完全自動運転に対応するAI搭載コンピュータも発表している。

フアンCEOは、「自動運転車はコンピューティング史上、もっと偉大なチャレンジだ。将来の車は、移動手段ではなく、リラクゼーションとエンターテインメントの場になる。車産業全体のビジネスモデルも変わる」と胸を張った。

その時代が来るのは意外に早いかもしれない。「間違いなく100年以内だ。道を走行する車が増えるほど、より多くのエンジニアがソフト開発に携わり、開発スピードは上がっていく」(ファンCEO)。

工作機械大手のファナックは、機械をネットワークやクラウドにつなぐことで、稼働データを吸い上げ、分析し、生産性向上を目指すシステム「フィールドシステム」でエヌビディアの技術を採用。機械にはエヌビディアのGPUを搭載し、バラ積みや異常検出、稼働停止ゼロに向けAIソフトウェアを開発している。

今回のイベントでは、新たに建設機械最大手、コマツとの協業も発表された。建機にエヌビディアのGPUを搭載し、建機の周りにいる人や機械を即時に検知する。1年で300人近い死者が出るという建設業界での事故の防止を目指す。将来的には、機器の自動制御や仮想シミュレーションにも利用していくという。


フアンCEOはより遠くの未来を見据えている(撮影:梅谷秀司)

フアンCEOがさらに先の未来も見ている。「自動車だけでなく、将来的にはあらゆる機械が自律動作の機能を持つようになる」。現場から離れた場所でVRで機械を遠隔操作したり、フォークリフトをまるで自分の腕とつながっているかのように頭で考えるだけで動かしたりできる世界だという。

テレビゲームで磨いたGPUの実力

GPUはなぜAIに適しているのか。従来GPUは、PCやゲームの分野で画面上に画像を表示するために使われてきた。3次元の画像や高画質の画像を表示するには、大量の情報を処理しなければならない。CPU(中央演算処理装置)だけでは処理できない作業を補完する部品として、画像の高速処理に特化してきた。

その性能は数字を見れば明らかだ。CPUで画像を処理する場合、1秒間に処理できる画像の枚数は約5枚。それに対し、エヌビディアの最新GPUを用いると1秒間に900枚もの画像を処理することができる。


AIの処理に適したエヌビディアの最新型GPU「テスラV100」(写真:エヌビディア)

エヌビディアは、そうした単純作業を高速に処理できるGPUの利点に注目。複雑な画像の表示だけでなく、ほかの作業にも活用できるようにした。

AI技術で主流になりつつあるのが、人間の脳の構造を手本にして大量のデータを分析し処理能力を高める「ディープラーニング」だ。たとえば人間の顔の画像データを大量に学習させれば、さまざまな画像からAIが人間の顔を見分けられるようになる。

GPUを用いることで、通常1年ほどかかるディープラーニングの処理を1カ月程度で終えることができ、開発効率を大幅に向上させることができる。今やGPUはAIに欠かせない技術となっている。

自律動作の分野に注力していくうえで、エヌビディアは日本市場に目をつけた。「日本の時代がやってきた。日本には、自動車、ロボット、建機それぞれのリーダーとなる企業がある」(フアンCEO)。

そのうえでフアンCEOは、「AIは、過去10年間で技術が飛躍的に向上したセンサーやモーターといった部品の”橋渡し”的存在になる」と語る。センサーで検知した情報を基にモーターを駆動させるうえで、AIが頭脳として指示を出す役割を担うようになるというわけだ。トヨタやコマツの例にとどまらず、今後も日本企業との協業を拡大していく方針だ。

AI向けの半導体市場は現状、エヌビディアが一歩リードしている。しかし、王者インテルはAIに有用といわれる「FPGA」と呼ばれるチップを製造する米アルテラ、自動運転向けの画像認識に強いイスラエルのモービルアイなどを続々と買収。クラウド上でAIサービスを提供するグーグルも、自社のサーバーで用いる深層学習専用チップ「TPU(テンサー・プロセッシング・ユニット)」を発表。開発競争は激しさを増している。

これからはソフトウエア開発も重要に

さまざまな分野にAIの活用を広げるには、チップの演算能力を上げるだけでなく、アプリケーション(機能)を増やすことも重要になる。GPUの場合、チップに搭載するソフトウエアを開発するだけでこれを実現できる。ただ、フアンCEOは、「他社が注力するFPGAの場合、(機能を追加するために)新たな設計が必要。それに1年かかる。1年あれば、GPUのソフトウエアの性能は20倍になる」とGPUの利点を説明する。


フアンCEOは自社のソフトウエア開発体制を強調した(撮影:梅谷秀司)

フアンCEOが「アプリケーションの能力は75%がソフトウエアによるものだ」が述べるとおり、エヌビディア社員の約半数はソフトウエア開発者で、力の入れようがわかる。今やエヌビディアはただの「半導体メーカー」ではなくなっている。

今後AIはあらゆる製品に搭載されるだろう。だがフアンCEOは、「われわれはつくるのが難しい複雑なものに挑戦していく」としている。「スマートコーヒーマシーン(のような比較的単純な処理で済むもの)はほかの人に作ってもらえばいい」(同)というように、自動車やロボットなど複雑な処理が求められる分野に焦点を当てている。

競合は大規模な買収で拡大を続けているが、全く興味を示さない。「だれかが既にやっていることは、その会社に任せる。エヌビディアは他社がやっていないことをやる」(フアンCEO)。独自路線を貫くようだ。

エヌビディアは、現在の勢いのままAI半導体の覇者となれるだろうか。日本市場の攻略は、そのための重要なカギとなりそうだ。