阿部サダヲ、これまでの徳川家康像を覆すインパクト 『おんな城主 直虎』最終回に寄せて

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 12月17日の放送でNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』が最終回を迎えた。遠江国井伊谷の領主として乱世を生きた女性・井伊直虎を柴咲コウが演じた本作。いつ敵に攻め込まれてもおかしくない状況のなか、生き延びる道を必死に模索しなければならない戦国時代の物語である。

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 力には力で対抗し、奪われたら倍にして奪い返すというような力強い武将が主人公ではなく、女として生まれ、子供の頃に出家した直虎が生き残るために選択した道。全編を通して囲碁の場面が象徴的に描かれていたが、戦局を読み解き、次の一手をどう選んでいくのか、心の機微までも映し出す。最終回のサブタイトルも「石を継ぐ者」だったくらい碁石が重要なアイテムとして登場する。

 とくに忘れられないのは、直虎と小野但馬守政次(高橋一生)との盤を挟んだ親密なやりとり。壮絶な死を遂げた政次は、「白黒をつけむと君をひとり待つ 天つたふ日ぞ 楽しからずや」という辞世の句とともに白い碁石を直虎に遺している。

 囲碁といえば、徳川家康(阿部サダヲ)が正妻である瀬名(菜々緒)と嫡男・信康を喪い、呆然と盤を見つめていたときに万千代(菅田将輝)に碁石をばらまかれたシーンにはハッとさせられるものがあった。人質にされていた時代から一人囲碁をぼんやりと楽しむ家康ではあったが、愛する妻と息子を亡くした一人の男であり、従来の家康像を覆すほどのインパクトがあったようにも思える。

 逆境に耐え、戦わずして生き残る道を探るのは家康も直虎も同じで、その思いは切実だ。許嫁だった直親(三浦春馬)の息子である万千代を自分の子のように感じていた直虎と、「わしの幼名の竹千代からとって井伊家が千年万年続くように千代を与える」と万千代と名付けた家康。殺伐とした戦国の世であっても、人と人とは結びつき、つながりが生まれ、その意志は受け継がれていく。

 岡崎城で謁見した際、織田信長(市川海老蔵)に「わかったか! この豆ダヌキ」と言われた家康。タヌキ親父と呼ばれた腹黒いイメージではなく、家臣に後押しされて一芝居打つ豆ダヌキという風情で、親しみやすさと人を受け入れる器が新鮮に映った。

 そして、何より第12回放送「おんな城主 直虎」で直親を罠にかけて殺めた今川氏真(尾上松也)、第33回「嫌われ政次の一生」で政次を死に追いやった近藤康用(橋本じゅん)がその後、徳川に仕えていたことで敵ではなく味方となっていたことにもこのドラマの素晴らしさがある。

 敵と味方、善と悪がある出来事、心の変化、時の流れとともにひっくり返るときがある。それは、まるで囲碁の盤面のようだ。すべてがつながり、史実とフィクション、リアルとファンタジーが折り重なる美しい物語が紡がれた。12月30日には総集編が放送される。今一度、この作品を楽しめるチャンスを逃さないようにしなければ。(池沢奈々見)