カタールの衛星テレビ局アルジャジーラ(Al Jazeera)の「AJ+(エージェープラス)」は、画面にテキストが表示される短いニュース速報と、政治や国際的ニュース、社会問題を扱うミニ解説記事で、Facebookを足がかりに短期間にオーディエンスを構築した初めての配信型メディアブランドの1つだった。ニュースフィード内でちょっとした成功を収めた動画クリップにとどまるつもりのないAJ+は、YouTubeへの注力を強めている。

AJ+は現在、YouTube向けに一話完結の映像作品や、複数パートで構成された調査報道シリーズ、解説動画の作成に力を注ぎ、「Direct From With Dena Takruri」や「Chinese Food: An All-American Cuisine」「Divided America」などのシリーズを展開している。YouTube向けのシリーズは通常、7〜15分の複数のエピソードで構成。シリーズ化されたコンテンツを重視するのは、リテンションのためだ。特定の動画シリーズの新エピソードが決まった日に公開されることを、人々が期待するようになる。

「YouTubeは検索エンジンだが、世界最大のビデオオンデマンド(VOD)プラットフォームでもある。オーディエンスは自然と、異なった形式のコンテンツ、詳細で印象に残るものを探している。公開スケジュールがあることも、その追い風になってきた。YouTubeユーザーは、どのタイミングで再びアクセスすれば新しい動画を視聴できるか知りたがっている」と、AJ+のソーシャルコンテンツエディターであるザイナブ・カーン氏は言う。

リテンションを重視



YouTubeへのシフトは、2016年夏に本格的にはじまった。人々の動画視聴時間を増やしたいという思いに突き動かされてのことだった。Facebookでは月間視聴回数が数十億回に達していたが、Facebookユーザーは1度に数秒以上動画を視聴することに慣れていない(Facebookによると、ニュースフィードの動画の平均視聴時間は約17秒だという)。

「Facebookでうまくやっているが、リテンション関連の数字にも注目したところ、期待していたほど高くなかった。本格的に投資していた詳細な調査報告のコンテンツは、特にそれが言えた。質の高い真のジャーナリズムなのに、Facebookでは成功していない。だから、こういったコンテンツを高く評価し、それ目当てに常に戻ってくるオーディエンスをどこかで構築する必要があるとわかった」と、AJ+のオーディエンス開発担当ディレクター、マイケル・シャゴーリー氏は語る。

そのような背景から、AJ+はYouTubeを深く調査し、同プラットフォームのオーディエンスを着実に増やせる戦略を考え出した。現在は、YouTubeに月約12〜15本の動画を公開している。シフト前は、YouTubeに月最大200本の動画を投稿し、制作するすべてのコンテンツのアーカイブとして同プラットフォームを扱っていた。

YouTubeに公開する動画の本数を減らしても、チャンネル登録者増加の勢いはまったく衰えず、パフォーマンスが良いタイプの動画に焦点を合わせることができた。AJ+のYouTubeのチャンネル登録者数は37万人超。320万人近いサブスクライバーを抱え、YouTubeにもっと時間も費やしている「Vox.com」のような一部のライバルには後れを取っている。

シフトから1年半の成果



AJ+には、YouTubeに公開するタイプのコンテンツの制作を専門にする社内スタッフが20人いる。シャゴーリー氏によると、彼らにとってこれは容易なシフトではなかったという。

「Facebookでの数字は長年高く、制作担当者らは何百万回も視聴されることに慣れていて、それが成功の目安だった。徐々に時間をかけて、彼らと協力し、リテンションと視聴時間を重視させた」と、シャゴーリー氏。

YouTubeへとシフトしてから1年半が過ぎたが、AJ+のチャンネル登録者が急増しはじめたのは最近になってからだ。この3カ月間は、それ以前の4倍のペースで新規チャンネル登録者が増加した。動画の平均視聴時間は1分31秒から4分6秒に延びたと、AJ+の幹部は述べている。また、AJ+のYouTubeでのトラフィックのうち68%は、同プラットフォームのおすすめ動画とブラウジングの機能によるもので、YouTubeのアルゴリズムに後押しされている。

AJ+のほかにも、YouTubeへの関心を高めている(特にニュース分野の)動画パブリッシャーはいる。Vox.comに加えて、アトランティック(The Atlantic)も、人々の動画視聴時間を増やし、YouTubeの比較的確立された広告エコシステムによって、もっと一貫して売り上げを上げたい一心で、YouTubeに注ぐ時間を増やしていると述べている。

Facebookとの比較



「たとえ、YouTubeの売り上げに焦点を絞りたくても、そうしたオーディエンスを現状よりももっと増やし、YouTubeを収入源と適切に考えるのに必要なレベルまで重要な指標を引き上げなければならなかった」と、シャゴーリー氏は語る。

AJ+は依然として、アルジャジーラのデジタル事業の中核をなしている。2010年代に、米国でうまくいくケーブルニュースチャンネルを開設するという取り組みに失敗したあとでは、なおさらだ。アルジャジーラは2013年に、ケーブルネットワークのカレントTV(Current TV)買収に5億ドル(約560億円)を費やし、ブランド名をアルジャジーラ・アメリカ(Al Jazeera America)に変更した。だが、オーディエンスを引きつけるのに失敗し、2016年にアルジャジーラ・アメリカは終了した。アルジャジーラは、AJ+のおかげで、ソーシャルプラットフォームでオーディエンスが定着しているブランドを抱えている。それが、米国とそれ以外の国の両方で成長するのに役立つ可能性がある。AJ+はフランスでの活動をスタートしたばかりだ。

一方、Facebookはあいかわらず、AJ+の配信戦略の要だが、それは、「AJ+ブランドを新たな人々の目に触れさせる」、トップ・オブ・ファネルのプラットフォームだからだと、シャゴーリー氏は言う。「Facebookはすばらしい成長エンジンで、ブランドの認知度をもっとも広範に高めてくれる。YouTubeは、ファネルのもう1段階下に位置するプラットフォームで、人々がAJ+でもっと時間を費やし、深いつながりを築くことができる」。

Sahil Patel(原文 / 訳:ガリレオ)