den-sen / PIXTA(ピクスタ)

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◆困っている後輩に対する「心配するな」は逆効果

 リーダーシップ開発プログラムの演習を実施していて、後輩にかけた助言の失敗例を挙げてもらうと、必ずと言っていいほど出される事例がある。

 仕事がうまく進まず心配している後輩に対して、「心配するな」「大丈夫だ」と励ましたら、「そう言われても何も解決しない」と反発されたというケースだ。

 先輩は、「自分の実体験をふまえて心配するなと言っているのだから、これほど安心なことはない」と思い、後輩は、「ただ心配するなと言われても、大丈夫だと思えない」と平行線なのだ。

 中には、後輩からみると、「こっちはこれだけ心配しているのに、心配するなと言い切るだけとは、親身に心配していない」「困っている状況を何もわかっていないのに無責任なことを言うな」…と、関係を悪化させてしまう事例もある。心配している後輩に「心配するな」という助言は効果がないどころか、親身でない、無責任だと思われてしまい、逆効果なのだ。

 このように言うと、「後輩なのだから、あれこれ言わず、先輩の助言を素直に聞けばよいのだ」という反応が聞こえてくる。しかし、先輩としては親身に心配しているつもりなのに、そう思われずに逆効果なのであれば、効果のある表現に変えていった方が得策だ。

 頼られる先輩は、効果のある表現を繰り出している。それは、先輩・後輩の関係だけでなく、上司・部下の関係でも同じだ。

◆事実には事実で助言

 仕事がうまく進まず心配している後輩に効く助言は、「心配するな」というフレーズを決して使わずに、「自分の時はこうだった」と事実の説明だけをすることだ。

 事実の説明だけをすることは、実は能弁だ。後輩に対して、「先輩は自分の身に照らして経験を思い起こしてくれているほどに、親身になってくれている」「『心配するな』と一言で片づけずに、時間と労力を使ってくれている」という印象を持ってもらいやすい。

「自分は親身になっている」「時間と労力を使っている」という表現を決して使わずに、それらのことを相手に伝えることができるのだ。逆にそれらの表現を使ってしまったら、相手には伝わらないどころか、御付けがましいと思われるだけだ。

 このやりとりは、後輩が悩んでいるという事実に照らして、先輩が体験した自分の事実を後輩に伝えることになる。事実には事実で対処することが肝要だ。それを「心配するな」という結論に飛躍してしまっては、話がかみ合わないのは、当たり前だ。

 事実の説明だけでは、後輩が意味をわからないかもしれないから「心配するな」というフレーズも必要だという意見も出るが、「心配するな」というフレーズが入った途端に逆効果のリスクが生じてしまう。

 丁寧すぎる説明が逆効果を生んでしまうのだ。だとすれば、後輩が意味を理解しないかもしれないが、少なくとも逆効果を生まない、事実の説明だけにとどめた方が良い。

◆きっちり説明し尽くせばよいというものではない

 丁寧すぎる説明が逆効果を生む事例は、ビジネスシーンの中で実に多い。先輩が後輩に、上司が部下に対して、ああしろ、こうしろとあれこれ指示をしたり、何度も繰り返して指示をしたりする場面だ。

 先輩や上司は、後輩や部下が失敗しないように、親切心から世話を焼いているが、世話を焼かれた後輩や部下は、あれこれ言われるたびに嫌気がさしてきたり、わずらわしくなってきたりする。

 プレゼンテーションでもそうだ。話し手が聞き手に伝えたいことを、全て伝えなければならないと思って、説明すればするだけ、解説すればするだけ、聞き手の集中度は下がっていく。

 演習経験をふまえれば、こうした丁寧すぎる説明をしてしまう事態には、いわゆる学校秀才の人ほど陥りがちだ。きっちりと説明しつくさねばならない、全て項目を解説しなければならない…こうした生真面目な意識がそうさせるのかもしれない。