女子高生はなぜ、制服の「ファッション」にこだわるのでしょうか(写真:TWO/ピクスタ)

女子高生のファッションについて、路上で直接聞き取り調査を続けてきたフィールドワーカーである佐野勝彦氏が『女子高生制服路上観察』を著し、10代のユニフォームの裏側を明かします。

トンボ学生服で知られるトンボのユニフォーム研究室で、中高生の制服姿を路上観察し、グループインタビューを始めて20年になります。

20年前は「着崩し」が問題に

20年前といえば、高校生にスポットライトが当たり、援交(援助交際)やケータイ(携帯電話)の教室への持ち込みなどが問題視され、制服の「着崩し」が表面化してきた頃です。当初、誰もが異様に感じたルーズソックスは、それ自体が制服着崩しの元凶とされ、男子生徒の腰パン(下着が見えるほどズボンをずり下ろして穿くこと)やシャツ裾の外出し、女子生徒の極端に短いスカートやずり下げたリボン、ジャケットの下からだらしなく出ているカーディガンやベストなどが顰蹙(ひんしゅく)を買いました。

せっかく生徒の見栄えを良くしようと制服をモデルチェンジしても、これでは学校のイメージが低下してしまいます。制服を供給する立場から何とかしなければと思い始めたときに、学校から対策を要望する声もちらほら聞こえてきました。もはや、生徒の着こなしは学校側の問題だからと静観できなくなってきました。そこで、私の転職と同時にスタートしたユニフォーム研究室が、まず実態把握から始めることにしました。

何をやるにも先例がない新設部署であることが幸いして、路上観察やグループインタビューなど、生徒と直接接触する一風変わった調査をスタートさせることができました。当初は戸惑うことばかりでしたが、経験を重ねるうちに、まったく理解不能だった女子高生たちの着こなしや好みも、共感をもって見ることができるようになりました。一見浅はかで、はかなげな現象も、彼女らの年代に特有の美意識の賜物、とおおらかに捉えることもできるようになりました。

路上観察とは、最終の授業が終わった学校の校門付近や、街中の高校生が集まりやすい場所で、目視調査を行い、何らかの傾向に気づいたり、あるいは対象を決めてその全体に占める比率を確認することです。制服業界で同じような観察をしている人に会ったことはありませんが、当時、高校生が回し読みする某ファッション誌の契約カメラマンとは何度も鉢合わせしました。

目的は違うし声もかけませんでしたが、お互い同じ場所と時刻にいることで、選択が間違っていないと安堵し親近感を持ったものです。それまでなかった着こなしが見つかった場合は、その生徒に声をかけて理由を聞くこともあり、話の流れによっては、その場で携帯電話やスマホで友人を集めてもらい、三々五々集まるその子たちを観察することで着こなしのバリエーションを確認します。

より深く聞き込むために高校生たちのなじみの喫茶店に入って、おしゃべりに興じてもらうこともあります。ただ、統計調査などと違うのは、事前に厳密な想定をしているわけではないので、時々、まったく的外れな結果に終わることもあります。

制服はファッション史に残る事象

そのうちに、毎シーズン彼女たちが生み出す新しい現象から次に来るトレンドを予測し、それが的中すると、自分の読みにニヤッとしたものです。もっとも彼女たちにすれば着崩しの意識はほとんどなく、純粋に新しくイケてる格好をしたいぐらいにしか思っていなかったでしょうが。延々と続けた調査から感じていることは、高校生の制服ファッション(あえてこう書きます)は、20世紀末から今に至るまでを特色づける、日本のファッション史に記載されるべき現象ではないかということです。

よくファッションは「時代を映す鏡」といわれ、そのとき、流行っている色やアイテムなどが、まことしやかに世相や経済に結びつけられます。「世の中が暗いときにはとんがったファッションが受ける」というのもその1つで、パンクファッションは、イギリス経済が落ち込んでいたときにジェントルマンのお膝元、ロンドンで市民権を得ました。

日本でも「失われた20年」の間にゴスロリ(ゴシック・アンド・ロリータ)やグランジルック(正統スタイルへのアンチテーゼルック)など、おしゃれに関心の高い人の奇抜なファッションが登場しました。

なお、着崩しそのものは、いつの時代でもどこにでもある現象です。着崩しとは、一言でいえば、束縛(規制)と自由の間に存在し、支配的なモラルや画一性への反発が表現されたもので、規制がきつければ、それを出し抜く知恵が巡らされます。

世界を見ても、たとえばイランの女性は宗教的な戒律から、全身を布で覆い、髪さえもスカーフで隠しているイメージがありますが、現実には、現地ではスカーフをラフに巻いたり、胸元を見せたり、身体のシルエットが出るストレッチパンツや9分丈(くるぶしが見える)パンツを穿いたり、涙ぐましい努力をしています。

ファッションが、国や宗教戒律の縛りから人を解き放つ先兵となっているのです。昨今の珍現象として、学校の休みの日にまでわざわざ制服を着て外出したり、制服のない学校を選びながら自分たちで工夫した「制服もどき」で登校したり、大学生になっても出身高校の制服を着て集まる会がブームになっているなどがあります。

制服は、集団のイメージが独り歩きし、個性を押し込めるものと見なされていたものが、今は世代と個人を演出するコスチュームに変貌しつつあります。半世紀で制服の位置づけがひっくり返ったようなものです。

ちなみに、学校制服では、パンツのことをズボン、あるいはスラックスと呼ぶ場合が多いのですが、ここでは一般に使われているパンツと表現します。冬に寒い地域の高校では、一応オプションでパンツを買えるようになっているものの、購入はほぼ皆無に近く、インタビューした限りでは、女子高校生の感覚は、学校制服=スカート=常識となっています。

スカートにも尋常でないこだわり

では、スカートなら何でもいいかというと、そうではなく、そのスイートスポットは意外に狭いことにびっくりさせられます。プリーツスカートが絶対的な人気で、彼女たちが望むプリーツには2種類あります。1つは、16本から24本のプリーツでヒダがはっきり見えるもの。年配の女性がよく着ているヒダがソフトで不明瞭な細かいプリーツのものは人気がありません。もう1つは、パネルスカートといわれるものです。


制服に多いスカートと一般的なスカートには違いがあります(イラスト:光文社提供)

サイドにプリーツがあり、前正面や後ろはパネル状の平面になっているスカートです。これは柄がよくわかり、適度に動きやすいのが特色です。この2種が双璧で、生地はさまざまなタータンチェック柄が入っているもの、ついで紺やグレーなどの無地が多くなっています。


女子高生はスカートを絶対に膝上ではきたいという「こだわり」もあります(写真:光文社提供)

制服業界は、中高入学という人生たった2回の制服購入のチャンスを逃したくないと必死なので、オリジナル制服がある学校の制服コンペには大変熱が入ります。

また、実質的には制服であっても、着用を強要しない意味で標準服と呼ばれる、中学校など義務教育期間に多い服も、その学校単独で、あるいは地域の各学校を網羅してモデルチェンジする場合があり、これもまた、コンペになるので参加各社はてんやわんや。

つまり変化がないように見える制服業界ですが、内実はなかなかに忙しいのです。

プレゼンテーションや企画書提出では、学校が設ける制服検討委員会が納得するロジックと、安心して採用できるデザインをAとBの2案、さらに追加が許されるなら少し冒険した個性的なデザインをC案として提出します。A案やB案はどこも似たようなデザインになる可能性が高いので、チャレンジするのがC案。

当たれば幸い的な位置づけです。ですから、人気の「プリーツスカート×タータンチェック」を欠かすことができず、プレゼン上、その理由もはっきりしている方が有利です。トンボ学生服も例にもれず、なぜ「プリーツスカート×タータンチェック」なのか、その謎解きに力を入れました。

デザインコンペで勝つには分析が必須

モデルチェンジのデザインコンペに勝てば、大きなビジネス(大規模校では累計で億円単位)になるため、その真意の確認にこっちは必死です。奥義を極めれば、それに沿ったデザインで優位に立てるからです。制服の路上調査とグループインタビューを始めて3年目、ようやくプリーツスカートやタータンチェックに人気が集まるわけを知ることができました。


私の、制服とその着こなしを見る目には、制服メーカーのバイアスがかかっているかもしれず、オヤジ年代の偏見が入っているかもしれません。

しかし、この20年間、女子高生たちの制服に対する思いやふるまいの底にあるものを真摯に探ってきました。たかが着こなしですが、されど着こなしなのです。制服の着こなしの観察というごく狭い穴から、高校生たちの真実を、いくらか捕まえた気がしています。

なお、制服は男子生徒も着ますし、中学生や小学生も着ています。制服メーカーは全方位で研究開発していますが、制服に対するこだわりが尋常ではない女子高校生を中心に謎解きをしていきます。