男性向けの恋愛指南書は肉食系男子的なアドバイスが多い(写真:マハロ / PIXTA)

女性の育児や仕事など、女性の問題ばかりが取り上げられるこのご時世。
しかし、男だって「男ならでは」の問題を抱えて生きづらさを感じています。男が悩むのは“女々しい”!? そんなことはありません。男性学研究の精鋭、田中俊之先生がお答えします。

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■今回の相談
田中先生、こんにちは。
先生の記事や書籍を拝見して、男性学への興味や自分のいる社会に対する多くの考えを学ばせていただき、とても感激しております。
私は今22歳の男子学生です。今まで交際経験がないことが悩みで、恋人が欲しいと思ってさまざまな努力を行ってきました。その努力の一環としてインターネットや書籍といったさまざまな情報を集めてきましたが、成果に結び付いていません。最近では自分でもどうしたらいいのかわからなくなってまいりまして、女性向けの恋愛コラムや婚活ブログなども見始めております。
そんな中ふと気づいたことなのですが、世の中にある男性向けの恋愛指南的な情報はなんだか攻撃的ではないか、と。女性向けの媒体は「自分の大事なポイントを考えてみましょう」「こんな男子に注意!」といった具体的な方法や男性に対する評価、また女性に対する慰めといったものが多くみられる傾向にあると思います。一方、男性向けの媒体では「〜していないから彼女ができない」「〜する男はモテる」といった方法論のみが多く書かれる傾向があります。
女性がさまざまな苦労や努力をされていることは重々承知ですが、なぜ男性に対する慰めがこれほどまでにないのでしょうか? またおそらくこのようなことを質問しますと、コメント欄で「そんなんだから彼女ができないんだ!」などといったコメントが多く書かれると思います。そのような現実を見るとますます苦しく、悲しくなります。乱文、乱筆で申し訳ありません。よろしくお願い致します。
(けんきょ、男性)

恋人が欲しいのにできないという悩み


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まずは落ち着いてください。

はじめに、けんきょさんが悩んでいるポイントを整理してみます。努力をしているのに、恋人ができない。男性向けの恋愛指南がしっくりこない。こうした相談は「男らしくない」と批判される予感がある。1つずつ順番に考えていきましょう。

大学教員をしているので、会社員の方たちよりは、若者の動向に敏感でいることができます。いま流行している若者言葉はなんと言っても「卍」ですよね。ただ、流行っていると知っているだけで、卍な話をすると、使い方はわからないのですが……。話についてこられないおじさんたちは置き去りにして先に進みます。

大学生の間では、11月下旬の段階で、すでに12月24・25日にアルバイトのシフトを入れるかどうかが話題になっていました。一般的には、若者の恋愛離れが進んでいると認識されているかもしれません。本当に恋愛に関心がなかったり、コスパが悪いなどと考えていたりするならば、クリスマスにバイトをしようがしまいがどうでもいいはずです。

しかし、現実には、少なくない大学生がクリスマスは恋人と過ごさなければならないというプレッシャーを感じています。クリスマスを1人で過ごす状態を意味する「クリぼっち」は、半分は冗談でありながら、もう半分は悲嘆でもあるのです。恋人が欲しいのにできないという悩みは、多くの若者に共有されています。

だから、恋人がいなくても気にする必要がないと言いたいわけではなく、どうして恋人が欲しいと思うのかを、一度、しっかり考えてみてもいいのではないかと提案したいのです。理由もわからないまま、ただ闇雲に恋人探しをしていれば、恋人ができることがゴールになってしまいます。それでは、仮に誰かと付き合えたとしても相手に失礼です。恋愛では付き合うことはあくまでスタートです。そこから2人でいい関係を築くための努力をする必要があります。

いわゆる草食男子・草食系男子

男性向けの恋愛情報を調べてみたようですが、自分が未経験の事柄について、マニュアルに頼るのは悪いことではありません。けんきょさんのまじめな人柄がうかがわれます。男性向けの恋愛情報にしっくりこないのは、いわゆる草食男子・草食系男子と分類されるような性格をしているからではないかと思います。

『草食系男子の恋愛学』(2008)の著者である哲学者の森岡正博さんは、男性向けの恋愛マニュアルについて、次のように言っています。

「世の中には、モテる男になるための本が、たくさん出版されている。それらを調べてみて、私はとても暗い気持ちになった。なぜなら、いかにすれば数多くの女性とセックスできるかを説明するものや、単に女性の側のわがままを並べるものが目立ったからである」

下手な鉄砲も数打てば当たる方式で強引に誘えば、女性とセックスできる確率は上がるかもしれません。けんきょさんのような男性にとって、このような価値観に基づいた肉食系男子的なアドバイスが参考にならないのは当然です。慰めるようなことが書いていないのは、男は競い合い、傷つくことで「強くなる」と肉食系男子が考えているからでしょう。「男の世界」では慰めなど不要なのです。

草食系男子はコラムニストの深澤真紀さんが『平成男子図鑑』(2007)で紹介した男子のカテゴリーで、もともとは「系」をつけず、草食男子と表記されていました。深澤さんによれば、草食男子とは、「もてないわけではないのに、恋愛にもセックスにもがっつかないで淡々と女性と向き合う男子」です。「男とはかくあるべし」という考えを持っていないので、女子からすると物足りなく思われる側面があるかもしれません。それでも深澤さんは、草食男子が女性を性の対象としてではなく、人として見ているため、彼らとの恋愛には女性にとってもメリットがあると指摘していました。

草食男子に対する不満

いまでは悪口とも取られかねない草食系男子ですが、本来は旧来的な男らしさから距離を取ることができる男子への褒め言葉でした。これまで否定的な評価しかされてこなかった控えめな性格の男性にとって、草食系男子というカテゴリーの登場は歓迎すべきことだったといえます。『草食系男子の恋愛学』文庫版のあとがきで、森岡正博さんが女性にもよく読まれ、メジャーな女性誌からの取材がたくさんあったと書いているように、女性からも好意的に受け入れられたようです。そして、2009年には、草食男子・草食系男子が新語・流行語大賞のトップテン入りを果たします。

草食男子・草食系男子が肯定的なカテゴリーとして定着していれば、2017年において、けんきょさんのような悩みはなくなっているはずです。けんきょさんが今回の質問をしたら、コメント欄に「だから彼女ができないんだ!」と書かれるのではないかと気にする必要もなかったでしょう。しかし、残念ながら、先ほども述べたように、今日では消極的な男性に対する悪口的な使われ方もしています。

森岡正博さんによる『草食系男子の恋愛学』が出版される3カ月前に、『non・no』(2008年4月5日号)の特集「出会い『4月革命』に勝利せよ!」では、すでに草食男子が登場していました。草食男子の増加によってモテの基準が変わるというのが記事の主旨なのですが、草食男子に対する不満も書かれています。

「知り合いに紹介された男子と、出会って3回目で海を見に行くことに。『今日こそ新展開が!?』とドキドキしながら出かけたのに、海沿いの夕日を『キレイだね〜』とニコニコしながら見ているだけの彼。私って女として見られてないの!?と悲しくなりました」(23歳・会社員)。女性を性的にではなく、人として見ることが草食男子・草食系男子のいいところなのですから、そこにがっかりされても困ります。

『an・an』(2010年11月10日号)特集「サヨナラ、草食男子!」の中の「被害者座談会 いっそ絶滅してくれたらいいのに…(怒)草食男子との疲れる恋・被害報告!!」では、トリンドル玲奈さん、IMALUさん、そして、手島優さんの3人が草食男子についてそれぞれの見解を述べています。

手島さんは、草食男子が嫌いな理由を次のように説明しています。「意味不明の生物ですね。それに対して、肉食男子はすぐ態度に出て、わかりやすい」。どちらの雑誌の特集にも共通しているのは、男性のやさしさを重要視しつつ、普段の関係は対等を望みながら、いざというときには男からビシッとリードしてほしいという女性の願望です。森岡さんが言うところの「女性のワガママを並べた内容」だといえるでしょう。

ただし、草食系男子とはミスマッチですが、こうした女性の願望を叶えることに喜びを感じる男性が少なからずいるのも事実です。恋愛において組み合わせの問題は、極めて重要だといえます。

無理に「常識」に合わせる必要はない

今日から振り返ると、草食男子・草食系男子は、「男はリードする側/女はリードされる側」という既存の枠組みから外れているがゆえに新しさがあったわけですが、元の関係性へと引き戻す力のほうが大きく、積極的な意味づけがうまくいかなかったとまとめることができます。

けんきょさんにとって大切なのは、「常識」とされる男女関係の中で、うまくやれる人もいれば、うまくやれない人もいると理解することです。自分がうまくやれない側だとするならば、無理に「常識」に合わせる必要はありません。

草食系男子という言葉は、既存の男女関係を変えるほどのインパクトは持ちませんでしたが、そうした男性の存在を世の中にアピールすることには成功しました。ひとりの人として見られることを重視する女性もたくさんいます。どういう女性とならいい関係を築けるのかを見極めることが、恋愛成就に向けた第一歩になるはずです。