特別な高分子材料からなる「室温で圧着修復するガラス」。(画像:東京大学発表資料より)

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 東京大学の研究グループが、世界で初めて「自己修復ガラス」を開発した。

 自己修復する物体そのものは過去にも発見されている。ただし、それはゴムやゲルなどの、柔らかい物質においてである。ガラスのような、硬くて変形することの少ない材料の破損部位が、室温で圧着修復しうること、また、そのような特別な分子構造が存在しうることは、いずれも明らかになったのはこれが初めてのことである。

 そもそも通常、割れたガラスは廃棄され、新しいものと交換される。ガラスは溶かせば再溶融することは可能であるが、コストの問題からいって、修復するよりも新しいものを用意した方が早いからである。

 だが、もしも、破断したガラスが、容易に継ぎ直すことが可能になったら、どうだろうか。資源のリサイクルの観点からいって、それは「持続可能な社会」の実現のために必要不可欠なことである、と今回の研究グループは主張する。

 生体にあるのと似たような自己修復機能が、ある種のゴムやゲルなどにも存在するということが分かり始めたのは10年ほど前のことだ。それら自己修復材料は、破断面を相互に押し付けておくだけで、融合を生じて再利用が可能になる。

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 ゴムやゲルは、小さな分子が一次元的に長くつながった、高分子の物質である。高分子鎖は内部で活発な熱運動をしているため、鎖同士が絡み合い、組織が再生する。

 単純にこれと同じことは、ガラスのような固い材料の高分子鎖では起こらない。熱運動が遅いためだ。

 しかし、今回研究グループは、ポリエーテルチオ尿素という高分子材料から開発したガラスが、非常に特殊な性質を持ち、室温における圧着下において破損前と同じだけの強度を手に入れることを発見したのである。

 なお、研究の詳細は、Scienceのオンライン版に掲載されている。