筑波大学で講義をする落合陽一(右)と小山裕己(左)

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『情熱大陸』出演で話題沸騰、“現代の魔法使い”落合陽一が主宰する「未来教室」。『週刊プレイボーイ』で短期集中連載中、最先端の異才が集う筑波大学の最強講義を独占公開!

見たこともない奇抜な形の紙飛行機がすいすいと飛んでいく。おお入魂の職人芸か、と思わされるが、実はこれ、コンピューターにデザインを手伝わせることで「簡単に作れる」のだ。前編記事に続き、今回のゲスト、小山裕己の研究事例のひとつである。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)や理化学研究所と同じ国立研究開発法人である産業技術総合研究所(産総研)は、今年3月にロイターが発表した「イノベーションを牽引する世界の国立研究機関ランキング」で5位になるほどの実績を誇る。小山はその産総研に所属する若き研究者で、落合陽一によると「僕の東大大学院時代のひとつ後輩で、分野がすごく近いので、今日は濃い研究の話ができると思います」とのこと。

「人前で長時間話すのに慣れていない」と言う小山の講演はしかし、ガチな研究を支えるクールな情熱と、鬱勃とほとばしるエンターテイメント性で聴衆の想像力にみやびなひっかき傷を残す。

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落合 筑波大学のいいところは、学部1年生の時から研究室に入れることです。1年生からやってる子と、4年生から研究始めた子だとかなり差が出ますよ。

小山 2、3年も研究ばっかりに取り組めば、もうある意味では研究のプロなわけですね。最初は初心者ばっかりでも、いずれプロだらけのチームが出来上がる。たぶん今、落合さんのチームはそうなってると思いますけど、それは大学の魅力だなと思いますね。

落合 そうそう。言葉が通じるようになる。例えば僕らが「ディープラーニング」と言う時は、ディープラーニング分野のどこが今熱いかとか、そういう理解を共有した上で言ってるんだけど、一般の人にはほぼほぼ理解不能になってしまう

でも、そういう意味では小山さんの研究って、研究者以外の人にもキャッチーだと思う。

小山 けっこう僕は一貫してないところがあって、紙飛行機が飛んだらもう、感動的なんですよね。飛んだら「キターッ!」ってみんなで大喜びするわけです。

落合 ロマンだね!

小山 それも研究の醍醐味のひとつなんですけど、それとは別に、例えば今お話ししたヒューマン・コンピューテーションに「ベイズ最適化」という手法を組み合わせることを考える。これらは全然別の分野で研究されてきた考え方で、例えばSIGGRAPHでは「ベイズ最適化」は注目されていなかったんですね。それを組み合わせるというマニアックなことを私が初めてやったわけです。

落合 すばらしい。

小山 で、自分がやらなかったら、もう何十年も人類で誰も興味を持たなかったかもしれないなとも思う一方で、それを発表したらちゃんと面白いと言ってくれた人がいたんですね、ちょっとだけですが(笑)。そういう、マニアックだけど数学的に面白いものを追究するのも僕は好きで。



落合 なるほどね。紙飛行機が飛ぶロマンと、例えばJAXAとかの、宇宙空間で実験するロマンって対応すると思うし、ほかの研究もロマンで片付いちゃえば楽なのになって思うことがある。人間の感じるロマンって、ある意味コントローラブルだからね。コンピューテーションのほうがロマンだって思ってもらうためにも、僕はテレビに出てるんですよ

僕は波動現象っていうのがすごく好きだから、波動にまつわることをやってる時が一番気持ちいいんです。だけど、その時の「うおおー!!」っていう感じはたぶん、うちのラボでも数人としか共有できていない感じがあって。研究学会に持っていけば、みんな「うおおー!!!」って言うからいいんだけどね。

そこの孤独感と、普段どう向き合ってますか?

小山 それはずっと悩みながらやるしかない気がしてます。ただ、例えばSIGGRAPHという学会に行くと、同じ悩みを持ってる仲間がいっぱいいて元気づけられるので、あの雰囲気をできるだけ自分の身の回りにも輸入したいと思ってます。あのテンションの高さを、周りの人に伝える布教活動を(笑)。

僕、実は大学4年で研究室に配属されてから割と早い時期にSIGGRAPH Asiaに行ったんです。その時は発表を聞いてるだけだったけど、こういうコミュニティが目の前にあるんだって体験できたのはよかったですね。

落合 ただ、布教活動をするのはすごく大事だけど、日本の中ではあまり実ってない気が最近してて。これはちょっと悩みなんですけど、明らかにジャパンの研究パワーは弱いじゃないですか。ジャパンのコンピューターグラフィックス研究…。

小山 コンピューター・サイエンス全般、やっぱりアメリカが強い印象ですね。

落合 日本って全体から見ればめちゃくちゃお金がある国ですよ。それを考えたら、もうちょっとアカデミックの規模も盛り上がっていいのに、国際会議はアメリカばかりでしょう。われわれ若い世代に体力的な余裕と、資本力がなくなってるのかなっていうのが問題意識としてあって。

人工知能って今、バブルですよね。なんで「バブル」なのかっていうと、人工知能のことを誰も説明できないし、その恩恵をエンドユーザーは感じていないから。トップユーザーが感じている人工知能ロボットの良さを、エンドユーザーに共有できてないんですよ。だから、そのうちあれは綺麗に分解されると思うんだけど、学生のなかには「人工知能って名がついてる研究室に行けば、自分の人生バラ色になるんじゃないか」って盛り上がってる人がいます。「コンサル会社に行くと年収良いからコンサルタントになりたい」って言うアホがいるけど、それと同じような感じで。そういう状況を見ると心が痛むんですが、小山さんはどうやって後進を育てていきたいですか?

小山 育てたいというか、僕が欲しいと思っているのは、マニアックな研究でもちゃんと面白さを評価しあえる仲間ですね。例えば「SIGGRAPH勉強会」っていうのを実はずっとやっていまして。みんなでSIGGRAPHの論文を読んで楽しむ会なんですけど。それも仲間が増えたらいいなと思ってやってます。良い論文ってホントに読むと面白いんですよ。映画を見て感動する感覚に通じると思う。この論文のこういうところが面白いよ、みたいなことをお互いに布教しあえる仲間が、その会を通して増えたらいいなと思ってます。

落合 SIGGRAPHって、お互いへのリスペクトがすごくあるよね。廊下を歩いてたら「おう陽一!」とか声かけてくれたり。しかも、プレゼンの時はそうそうたる顔ぶれが大勢、本気になって緊張してるじゃないですか。

僕はあれって茶道みたいだと思っていて。トップカンファレンスは茶室ですよ。茶室に入らない限りは議論にならない。茶をね、本気で点てる所作を感じるための空間。すごく東洋的だと思うんですよ。誰かの言ってることが必ずしも正しいとは限らないし、修行によって体得できる空間価値みたいなものに全員が身をゆだねているというところが非常に東洋的だなと。

小山 研究者同士、どういうモチベーションを持っているかとか、次はどこに向かうべきなのかとか、緊張感のあるプレゼンと質疑応答を通じて確認し合う場という側面がありますね。そういう意味でも、トップカンファレンスは重要だと思います。

落合 ですね。だけど「オレたちはトップカンファ通してるからすごいんだぜ!」っていう態度ばっかりでもよくない。例えば、ポップな秋元康を大切にしながらクラシック音楽も大切にする。ラーメンも吉野家の牛丼もフランス料理も食べられる。そういうレンジの効いた価値観を持っていないと、だいたいその分野は潰れていくんですね

われわれの世界では、研究論文書いて予算取って「研究道」を続けると、お弟子さんもついてハッピーになる…というビジョンはつくれるんだけど、違う分野にアウトプットしようと思ったことはある?

小山 あります。特に最近は産業応用につながる研究をしたいという気持ちがあるので、例えばコンテンツ産業だったらコンテンツ産業の人たちの肌感覚がわかるようにならなきゃいけないと思って、まずはその分野の情報を集めたり、リーチしようとしたり。これは今後ますます本格的にやっていきたいところですね。

■「#コンテンツ応用論2017」とは?

本連載は筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。“現代の魔法使い”こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トーク。学生は「#コンテンツ応用論2017」付きで感想を30回ツイートすれば出席点がもらえるシステムで、授業の日にはツイッター全体のトレンド入りするほどの盛り上がりです。

●落合陽一(おちあい・よういち)

1987年生まれ。筑波大学学長補佐。人間とコンピューターが自然に共存する「デジタルネイチャー」という未来観を提示し、同大助教としてデジタルネイチャー研究室を主宰。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。最新刊は『超AI時代の生存戦略 シンギュラリティに備える34のリスト』(大和書房)。

●小山裕己(こやま・ゆき)

東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程を修了後、2017年4月より産業技術総合研究所情報技術研究部門メディアインタラクション研究グループ研究員。東京大学大学院情報理工学系研究科・研究科長賞など受賞多数。コンピューターグラフィックスとヒューマンコンピューターインタラクションを専門とし、特に計算機科学に基づくデザイン支援技術の研究に従事する。

(構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博 協力/小峯隆生)