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AUTOCAR JAPAN誌 2007年10月 53号

もくじ

ー BMWの質を、もうひとつ上へ
ー M3とB3ビターボ 相違点は
ー 明らかにM3凌ぐ、ひとつの資質
ー なめらかな乗り心地のキー
ー 番外編 ライバルといえば……

BMWの質を、もうひとつ上へ

ハイパフォーマンスカーの世界は5〜6年周期で、ある決まった話題で持ちきりになる。そしてそのたびに、「次になにが来るのか」を、しばらくのあいだ誰もが固唾を呑んで見守ることになる。

ある決まった話題とは、BMW M3のフルモデルチェンジだ。しかし今回は「次に来るなにか」──すなわち競合車種の動向を待つ時間がいつになく短い。メルセデス・ベンツC63、アウディRS6、さらにレクサスIS-Fまでもが立て続けに送り出されるからだ。

そしてその先兵となるのが、ここに紹介するアルピナB3ビターボである。

言うまでもなく、上記すべてがM3を模したモデルだが、なかでも特に興味深く、できれば真っ先に検分したいと思わせるのがアルピナだ。珍しく本家M3を出し抜き、先んじて発表されたという経緯も、われわれの好奇心をよりいっそう煽りたてる。

ハイクオリティで高価なBMWを、アルピナは長年に渡ってさらにハイクオリティなものへと仕立ててきた。そのアプローチはおおむね成功を収めてきたわけだが、その成功はひとえに歴代のアルピナ仕様に意図的に施されたBMW車とは異なる味付けによるものだ。

よりソフトなフィールを持ち、ギアボックスもATのみであることが多かった。だが、アルピナ仕様がMモデルより遅いクルマだった例はめったになく、特にトップスピードに関してはほとんどのモデルで圧倒してきた。理由は両者の会社の規模にある。

M3とB3ビターボ 相違点は

アルピナは、BMWとは比べものにならないほど小さい会社だ。つまり、環境団体からの圧力に譲歩して最高速度を250km/hに自主規制する必要に迫られないのである。それは最新モデルでも変わらない。

最新のM3が今度もまた250km/hで加速力を失ってしまうのに対し、B3は290km/h近くまで軽々と車速を伸ばしていく。

B3の正式なプライスタグは995万円である。販売されるのは、AT、フルレザー内装、ブルートゥース対応、その他もろもろフル装備という仕様の1種類のみ。でありながら、M3の価格よりも100万円は安い。

だが、M3にはB3を上回る価格を正当化できる大きな理由がある。言うまでもなくエンジンだ。2機のタービンで370psを発揮するB3の直列6気筒よりも、M3の心臓は2気筒多いうえに最高出力は50psも大きい。

ただ、これについては疑問がないわけではない。

B3ビターボでさえ凄まじい速さなのに、100万円も多く払ってM3のV8エンジンを手に入れる意味があるのだろうか?──という疑問である。なにしろ先月号でお伝えしたとおり、先代に比べて新型M3は速さよりもむしろ穏やかさが際立つクルマなのだから。

まあ、これについては、おそらく今後M3に追加されるであろうスポーツ志向を強めたバージョンを見てから結論を出すべきだろう。

今の時点で明らかなのは、低速あるいは中速域の走りが、M3とB3では明らかに違うということだ。M3の最大トルクが40.8kg-m/3900rpmなのに対し、B3は51.0kg-mを3800〜5000rpmで発生する。実際の路上でこの差は大きい。M3ではトップエンドまで引っ張って、そこからハイパワーにモノを言わせる走りとならざるを得ない。

対するB3では、4速ギアで130km/hというシチュエーションでさえ、右足をめいっぱい踏み込めば、そこがドライ路面であろうともトラクションコントロールが作動するほどの低速トルクが得られる。

明らかにM3凌ぐ、ひとつの資質

実際、アイドリング回転よりわずかでも上であれば、B3はどこでスロットルペダルを踏んでも凄まじい加速Gを炸裂させる。公道上ではさしものM3も苦戦を強いられるのは間違いない。

B3のエンジンは、335iに搭載された3.0ℓ直6をほんのちょっといじっただけのユニットにすぎないが(ハードウェア的な変更はピストンを過給圧アップに耐えられるものに換えた程度)、トータルでの成果はまったくもって素晴らしい。

エンジンおよびギアボックスの制御プログラムを書き換え、マーレ製の強化ピストンを採用しただけで、アルピナはすでに十分なパフォーマンスを持つ335iをさらなるモンスターへと変えてしまった。

いや、「モンスター」という表現はこの場合適切な形容ではない。なぜなら、B3の走りには手に負えないようなところが少しもないからだ。ドライバーがゆっくり走らせたいと思うなら、エンジンとATのコンビはそれにふさわしいように穏やかな振る舞いに終始する。

それでいて、宇宙の果てまで飛ん行きたいと望んだときでも、Mボタンを押す手間もiDriveをいじくり回す必要もない。なすべき操作はただひとつ、スロットルペダルをベタ踏みするだけだ。そうすれば6段ATがギアを2段ほど落とし、B3は猛然と加速し始める。

B3の0-100km/h加速タイムは4.8秒とアナウンスされている。アルピナは0-160km/h加速タイムを公表していないが、この感じなら10秒台前半でこなせるのではないだろうか。とにかく速い。文字通り爆発的に加速していき、ほんの短いストレートでも強烈な加速Gを体験できる。オートマティック・ギアボックスとエンジンの連携もパーフェクトだ。

シフトダウン時はドライバーがMTを操作するように完璧なブリッピングで回転数を合わせ、シフトアップと変わらないくらいの素早さでギアを落としてくれる。

そして、B3には明らかにM3を凌ぐ資質がひとつある。驚くほど穏やかで、上質な乗り心地だ。先代より洗練されたとはいえ、公道上における新型M3の乗り心地は許容範囲ギリギリで、路面の荒れたカントリーロードに出ようものならソワソワし、跳ねるようなライドに終始する。

もちろんその代わりに強固なロール抑制能力を備えているのだが、それに比べるとB3はラグジュアリーサルーンのような乗り心地に感じられる。

なめらかな乗り心地のキーとなっているのは何だろう?

なめらかな乗り心地のキー

なめらかな乗り心地のキーとなっているのはタイヤだ。サスペンションのセッティングが意外に硬くない(335iとさほど変わらない)のも理由のひとつだが、19インチの専用ミシュラン・パイロットスポーツが最大要因だろう。

このタイヤはアルピナが要求するスペックに合わせてB3/D3のためだけに作られたもので、当然、ランフラットではない。その結果、B3はひどい段差以外なら滑るように駆け抜ける。相対的に新型M3は洗練度に欠けたクルマに感じられることになる。

もちろんトレードオフもある。B3は持つ能力の9割以上のペースで走らせたとき、少々ソフトすぎると感じる局面があるのだ。特にハイスピード走行時に、路面のうねりによって少しクルマがフワつくのはいただけない。

そんなときには思わず「あとほんの少しだけサスペンションが締まっていれば、この素晴らしいパワートレインがさらに光り輝くのではないか」と想像してしまう。

とは言え、カントリーロードを何往復かハードに走らせているうちに、ほとんどの人はそれも些細な欠点としか感じなくなるだろう。それどころかこの欠点に気づかないオーナーも少なくないのではないか。

そう考えると、限定的状況における不満など取るに足らないもので、素晴らしい洗練度のほうがはるかに意味のある要件だと思えてくる。

商業的に言えば、M3にとってB3は歯牙にもかけない存在であり、ライバルとは見なされないだろう。両者の販売台数はあまりにも違いすぎる。

だが、ダイナミクス性能の見地からは、BMW自身の手によるハイパフォーマンス・バージョンを選ばない(最大ではないにしても)理由のひとつになる可能性がある。M3ほどシャープでも鮮烈でもないとしても、日常の足としての用も果たしうるロードカーとしては、もしかしたらB3のほうがベターなチョイスかもしれない。

番外編 ライバルといえば……

メルセデスのAMGモデルといえばハイパワーが売りで、繊細さとは無縁のクルマであるように思われている。だが新型C63はそんなイメージを覆すことになると、開発部門の新任ディレクター、トビアス・メールスは言う。このAMGのフィロソフィーの変化をなによりも明確に示しているのが、C63に「解除可能な」ESPシステムを装備するという決断である。

「わたしが開発当初からこのクルマへの採用を働きかけていたものです。クルマのパフォーマンスを余すところなくフルに使える選択肢を用意するのは、われわれの顧客にとってとても重要なことです」とメールスは語る。それがなにか決定的な違いを生むのだろうか。答えはもちろんイエスである。

わたしは初代190E 2.5エボリューションほど楽しくて完璧なダイナミクス能力を持ったメルセデスを知らない。

最近のAMGモデルがすべてそうであるようにC63も自然吸気の6.2ℓV8(463ps)を搭載するが、エンジンの搭載位置はノーマルのCクラスよりも15mm後方にずらされている。AMGの努力はそれだけにとどまらない。

メールスによれば、C63はこれまででもっともハード指向のモデルであり、特別なシャシー・セットアップが施されているという。また、C63は新型CLK63ブラック・シリーズと同じフロントアクスルを採用し、フロントエンドの剛性が高まった結果、より鋭いターンインとより豊富なフィードバックが得られる。

さらにC63はアグレッシブなルックスのボディをまとい、視覚的にも強烈なアピールを放つ。室内にはAMGのお馴染みの装飾──独特の形状のステアリング、シフトパドル(7G-TRONIC用)、新しい意匠のメーター(速度計は320km/h以上まで刻まれる)、現在のギア段数を表示するデジタル・ディスプレイ、そしておそらくはセンターコンソールにESPのボタンが備わる。

スロットルペダルを踏み込めば、衝撃的な加速が待っているはずだ。しかも今回は単なるパワーだけでなく、運動神経も伴っている。素晴らしいレスポンスとコミュニケーション、アジャスタビリティを備えたシャシーである。ステアリングの重みはまずまずで、インフォメーションは豊富。スタビリティも高く、自信を持ってハイスピードでコーナリングできる。乗り心地にまったく不満はなく、信じられないほど見事にコントロールされている。

フロントエンドのダンピングも絶妙で、バンプを乗り越えても挙動を乱されることはない。

C63は年内には日本に上陸し、1100万円前後で販売されると目される。旧モデルよりはずいぶん高くなるが、内容を考えればお買い得だ。新型M3よ、ご用心あれ。