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自転車ブームの勢いは衰えないが、トラブルも散見される。弁護士ドットコムの法律相談コーナーには、歩道を駆け抜ける「暴走自転車」と衝突してしまった人から相談が寄せられていた。「歩道をゆっくり歩いている時、4人連れの家族の暴走自転車の1台が私に向かって来て、衝突事故に遭いました」と、穏やかではない事故だ。

相談者は先頭を走っていた父親に注意したが、「後方を爆走していた子どもに激突され、手指に怪我をしました」という。加害者となった子どもは未成年だった。両親は悪びれる様子はなく、謝罪もなかった。

相談者は「歩道を歩行者に考慮することもなく速度を落とさずに走行する」行為は、道交法違反ではないかと質問している。また、一緒に暴走していた両親には「監督責任」があったとして、医療費の請求も検討しているそうだ。

歩道上を暴走する自転車は、道交法違反になるのか。今回は手指を怪我した程度だったが、万が一、死亡事故だった場合、自転車でも重い賠償責任を問われることはあるのか。交通事故と保険の問題に詳しい好川久治弁護士に聞いた。

●歩行者のための歩道を「暴走する」ことは許されない

歩道上で自転車が暴走する行為は、道交法違反となるのだろうか。

「そもそも歩道は歩行者が通行するために設置された箇所ですから、自転車(軽車両)が歩道を走行することは原則として禁止されています。

また、例外的に自転車が歩道を通行できる場合(通行可の標識がある場合、安全上やむをえない場合、運転者が幼児・児童・高齢者等の場合)でも、歩道中央から車道寄りの部分等を徐行しなければならず、歩行者の通行の妨げになる場合には一時停止しなければなりませんので、歩道上を自転車が歩行者の安全を顧みず『暴走する』ことは許されません。

前者の違反に対しては、道交法の通行区分違反として3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に、後者の違反に対しては、徐行義務・一時停止義務違反として2万円以下の罰金又は科料に処せられる可能性があります。また、歩行者に怪我を負わせたり、死亡させたりした場合には、刑法の重過失致死傷罪として5年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

もっとも、接触してきた子どもが14歳未満の刑事未成年者であれば違反には問われませんし、14歳以上でも事故の結果が重大である場合を除いて、家庭裁判所の保護処分手続に付され、その多くのケースで処分を受けずに終わります。

自転車事故で怪我をした被害者は、暴走自転車を運転していた子どもとその両親に対して治療費等の賠償を求めることが可能です」

賠償金は誰が払うことになるのか。

「子どもが小学生の場合には民事上の責任能力がないとされるケースが多いですので、その場合には両親が子どもに代わって賠償責任を負うことになります。

子どもが中学生以上の場合には、多くは子ども自身が賠償責任を負うことになりますが、両親も一緒になって交通違反をしていたり、子どもの危険運転を放置していたりした場合は、両親自身も被害者に対して直接に賠償責任を負うことになります。

なお、歩道上の自転車と歩行者との事故では、多くのケースで自転車側に100%の責任が課せられます。

被害者が後遺障害を負ったり、死亡したりした場合には、被害額は数千万円にのぼることも珍しくありません。その場合に加害者が加入する賠償責任保険がないと、被害者が事実上被害回復を受けられないケースが起こりえます。

子どもがわざと人に怪我をさせ場合は子どもの加害行為について保険金はおりませんが、その場合でも親の監督責任が認められれば、親を被保険者とする賠償責任保険から保険金がおりますので、加害者にとっても個人賠償責任に加入していることが重要となります」

●高額賠償が相次いでいる

今回の事故は幸いにして、命に別状はなかった。しかし、もし自転車が死亡事故など重大な事故を引き起こした場合には、高額の賠償が認められることもあるのだろうか。

自転車事故に関しては、過去に高額賠償を認める判決がいくつか出ています。

(1)自転車運転者が片手にペットボトルを持ったまま下り坂をスピードを落とさずに走行し、信号機のない交差点で横断歩道上を横断していた歩行者(38歳女性)に衝突し、女性が脳挫傷等の傷害を負って2日後に死亡した事故(賠償総額約6778万円、東京地裁平成15年9月30日判決)

(2)自転車運転者が赤信号を無視して交差点に進入し、交差道路を横断していた歩行者(55歳女性)と衝突し、女性が頭蓋内損傷の傷害を負い、10日後に死亡した事故(賠償総額約5437万円、東京地裁平成19年4月11日判決)

(3)歩道を進行していた自転車運転者(高校3年生)が幹線道路を横断する際、自転車横断帯の十数メートル手前で車道を斜めに横断しようとしたところ、車道を進行してきた24歳会社員運転の自転車と衝突し、会社員が頭蓋骨骨折等の傷害を負い、右上下肢機能全廃等の後遺障害が残った事故(賠償総額約9266万円、東京地裁平成20年6月5日判決)

(4)スイミングスクールからの帰宅途中の小学校5年生の子どもが、坂道を自転車で下っている際、歩行者(62歳女性)と正面衝突し、女性が頭蓋骨骨折等の傷害で一生涯常時介護を要する植物状態の障害が残った事故(母親に対して賠償総額約9520万円、神戸地裁平成25年7月4日判決)」

●「自転車は交通ルール遵守の意識が低い」

埼玉県など自転車保険への加入を義務付ける自治体も増えてきているようだ。やはり、自転車保険に加入した方が良いのだろうか。

自転車は免許制度がなく、子どもからお年寄りまで気軽に乗車できるため、交通ルールを厳格に遵守するという意識が一般的に低いです。また、自転車による加害事故を想定して保険に加入することも、自動車と比べるとまだ不十分です。

しかし、一旦事故が起きたときに取り返しがつかない高額賠償を請求されることや、被害者の救済のことを考えると保険への加入はリスクヘッジの手段として必須といえるでしょう。

特に、小さいお子さんを抱える親御さんや、お孫さんを預かっているおじいちゃん、おばあちゃんなら、お子さんが自転車に乗って他人に怪我をさせると、お子さんに代わって損害賠償責任を負わなければなりません。『自分は安全運転しているから大丈夫』と言っていられませんので、注意が必要です。

自転車事故を含む個人賠償責任保険は、自動車保険、火災保険、傷害保険の特約や、クレジットカード会社の付帯サービス、また単体の保険としても販売されていますので、確認してみてください」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
好川 久治(よしかわ・ひさじ)弁護士
1969年、奈良県生まれ。2000年に弁護士登録(東京弁護士会)。大手保険会社勤務を経て弁護士に。東京を拠点に活動。家事事件から倒産事件、交通事故、労働問題、企業法務まで幅広く業務をこなす。趣味はモータースポーツ、ギター。
事務所名:ヒューマンネットワーク中村総合法律事務所
事務所URL:http://www.hnns-law.jp/