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AUTOCAR JAPAN誌 51号

もくじ

ー 理由なく笑いが止まらず
ー ヴェイロン以外の4台まとめても……
ー ヴェイロンも「ただのクルマ」?
ー ヴェイロン 直線だけではない
ー ヴェイロン F1マシンと拮抗
ー このステージで競うべきものとは

理由なく笑いが止まらず

この仕事をどれだけ長く続けているとか、あるいはエキゾティックなクルマを複数台揃えた撮影を何度経験したかなど、まったくもって関係がない。

この5台の隊列を見た瞬間は、それがいかなるクルマ好きであっても、特別な時間として記憶に残り続けるはず。もちろんわたし自身にとっても同じことだ。自分がモールスハイムの地にいることを実感し、そして長旅の退屈さが報われた瞬間でもあった。

しかも今回はそれだけじゃない。ブガッティ・ヴェイロンでほかの4台を先導できるのだ。理由なく笑いが止まらなくなった自分はきわめて正常なクルマ好きだと思う。であるからして、呆然とした顔で写真に収まっているのはご容赦願いたい。心ここにあらずとはまさにこの瞬間のことだったのだから。

編集部のチャス・ホーレットとわたしサトクリフがモールスハイムのあるアルザスの丘陵地帯の、それも人里離れたとある駐車場に辿り着いたときには主役の5台はすでに到着しており、わたしたちを待ちわびた様子だった。

ヴェイロン以外の4台まとめても……

わたしとホーレットはこれらのクルマたちをひと通り眺め、しかるのちに自然に互いの顔を見合わせ、そして笑い出した。自分たちが乗ってきたのはくたびれたレンタカーのオペル・メリーバで、途中で大雨に打たれもしたし、最後の4時間はほとんど渋滞の中だった。そんな苦労もこの5台のためなのである。笑わずにはいられまい。

ヴェイロンの右側には明るいオレンジ色を身に纏ったポルシェ911GT3RSが、左側にはランボルギーニ・ガヤルド・スーパーレジェーラ、アウディR8、アストン マーティンDB9が順に並んでいる。スタイリングの面でもポテンシャルの面でも、これだけのクルマがたった1本の記事のために集まった例はないだろう。最高に驚愕もののコレクションである。

また、今回の組み合わせは、数字を見るだけでもなかなか楽しめる。ブルーとブラックのカラーリングを施されたヴェイロンは、1億8800万円で1001psだ。そのほかの4台の出力と価格を合計すると、7736万1250円と1815psになる。つまりヴェイロンを買う予算の半分以下で、ほとんど2倍に近い出力が手に入るわけだ。あるいは4台まとめてもヴェイロンの出力の2倍に満たないという見方もできる。

この数字からも明らかなように、ヴェイロンとほかのクルマを直接対決させたところで無意味な試みと言わざるを得ない。ヴェイロンはあまりにも別格なのだ。

従来の方式のグループテストでは、有意義なものにはなり得ないだろう。そうではなくて、スーパースポーツを讃える祝典と考えてみてはどうだろうか。ほかの何台かのスポーツカーと一緒に走らせることで、ヴェイロンのスケールが判明するはずだ。もちろんその逆もある。それこそを今回のグループテストの目的としよう。

ヴェイロンも「ただのクルマ」?

われわれに与えられた時間そう長くない。ヴェイロンのレンタル期間はわずか24時間しかないのだ。そのこともあり、わたしはとにかくヴェイロンに乗ってみたくて仕方がなかった。もしかすると肩すかしを食らったような印象を受けるかもしれないが、それはそれ。結局のところ「クルマ」という乗り物には違いないのだから、法外な期待を持ったのが間違いだったということだ。

たとえばこうだ。乗り込んだらまずセンターコンソールを覆う切削アルミパネルの上に指を滑らせ、感触を楽しむ。巨大なバケットシートの快適さとサポート感を味わいながら、ステアリングコラムにあるワイパーレバー(1本100万円近くするらしい)をいじってみる。

そしてこう考えるのだ──「ここの居心地は素晴らしく快適だ。けれどやはりただのクルマでしかない。4つの車輪の上に載っているにすぎない物体が、どうやったらこれほどの金額に見合う何かに化けるのだろうか?」

この疑惑を晴らすのは簡単である。実車が目の前にあるのだから。というわけで乗り込み、妄想したとおりの儀式をすませると、おもむろにキーをひねってスターターボタンを押してみた。8.0ℓW型16気筒4連装ターボのエンジンに、豪華な爆発音とともに生命が吹き込まれる。スロットルペダルを軽くあおるとクランクシャフトが即座に反応する。競技車輌のような猛々しさはないが、大容量ターボにしてはとても歯切れのよいレスポンスだ。これなら疑惑は晴れるかもしれない。コイツはプライスタグに見合う代物だ、と。

今回のラインナップのなかではこのクルマに次いでエキゾティックなガヤルドと並べてもなお、ヴェイロンのフィールは際立っている。より高価でより複雑なのだ。ステアリングの反応の仕方が異例にスムーズなことも、駐車場の中での移動のために低速でごくわずか動かしただけでわかる。磨き上げられた機械だけにある洗練された深みが確かに内在している。この感覚はほかのどのクルマでも味わえない種類のものだ。もちろんアストン マーティンでもおよばない(情け容赦なく正直に言えば、アストンは「とくに」およびもつかない)。

パドルを操作して1速にシフトし、いよいよ公道に出る。待ちこがれた瞬間だ。ところがわずか500mほど走ったところで、早くもヴェイロンは他車では到底およびもつかない走りを披露してくれたのである。

ヴェイロン 直線だけではない

わたしがヴェイロンを初めてドライブしたのは2005年、シチリア島で開催された発表試乗会でのことだった。その当時、性能の高さと洗練の極みに呆然としたのは事実だが、ここまで全面的に圧倒された記憶はない。むしろ個性に少し欠けるようにすら思った。

しかし、ここの道はシチリアとは違ってタイトかつツイスティで、ひと言で表現するなら「楽しい」コースだ。つまりヴェイロンの持つエネルギーとキャラクター、そしてポテンシャルを炸裂させるにはもってこいのシチュエーションなのだ。5分間も走らせれば、誰でもこのクルマが「究極の創造物」であることを認めざるを得ないはずである。

もしかするとなんらかの仕様変更が実施されたのかもしれないし、単にこのようなコースとの相性がいいだけかもしれない。いずれにしてもわたしはヴェイロンの能力に完全にノックアウトされてしまった。

それはスロットルペダルを踏み込んだときにどれだけの加速Gが出るかというような単純な話ではない(実際に超人的かつ地殻変動的に速いのだが)。むしろステアリングのよさやタイトなライン取りでの身のこなし、7段DSGトランスミッションのよどみない動作、路面の状態を問わず乗り心地とハンドリングが流麗であることによるものだ。あまりにも鋭敏に回頭し、瞬時に停止するので、公称1880kgの車重表示などまるで信用できなくなってしまう。

そうはいっても最高に至福なのは、やはりストレートでスロットルペダルを全開にした瞬間だろう。そのときだけが、1001psのパワーを完全に自分の右足の制御下におくことができ、なおかつそれを実感できるからである。

ひけらかすようで申し訳ないが、わたしは2002年にル・マン優勝を果たしたアウディをドライブしたことがあるし、900psを発生するジャガーのF1マシンも経験している。そのわたしが断言する。このワインディングロードに限るなら、ヴェイロンはその両者よりも速い。少なくともわたしの感覚はそう訴えている。

信じられない?

よろしい。少しだけ説明しよう。

ヴェイロン F1マシンと拮抗

現実的にはヴェイロンとF1マシンは同じ加速にはならない。最高出力は同等でも、車重が3倍も違うからだ。しかしヴェイロンの最大トルクは、F1マシンの2倍に相当する127.5kg-mに達している。

加速力を量る指標となるトルク荷重比がF1マシンの2/3なのだから、両者がどれだけ拮抗しているかが想像できるだろう。それでも納得がいかないのなら、本誌のロードテストの結果から確実なことをお伝えしておく。

ストレートだけなら、コイツは今年のル・マン24時間のグリッドに並んだすべてのクルマを抜き去ることができる。そして290km/hを超える速度域ではF1マシンでさえヴェイロンに並ばれ、じわりと抜き去られてしまう。

それが真実だ。

それほどまでの推進力を公道で解放したときの感覚を言葉で説明するのは難しい。だが、それにも増して理解しかねるのは、どうしたらこれだけの出力を確実に、しかもドライバーに特別な技術を求めずにアスファルトに伝達できているのかだ。

そして、これこそがこの並外れたモンスターに関するすべての事象のなかでもっとも印象的なのだが、2点間の移動時間がこれだけ短いのにも関わらず車内はまったく穏やかであり、あらゆる制御が完全に行き届いているのである。

このステージで競うべきものとは

ヴェイロンを違う角度から見つめるため、わたしはガヤルド・スーパーレジェーラに乗り換えて同じルートを走ってみることにした。

両者を乗り比べるとガヤルドは洗練度で大きく遅れを取っており、とくにトランスミッションの制御に荒っぽさを感じた。乗り心地もはるかに硬く、あらゆるところからノイズが入ってくる。

ヴェイロンではまったく気がつかなかった路面上のいろいろなものの存在をはっきりと伝えてくるが、これはホイールハウス内のライナーが取り外されているためだろう。極太で粘着質のピレリPゼロ・コルサが拾い上げては放り投げる小石やその他もろもろが、ひっきりなしにパチパチと音を立てる。ほんの80km/h程度しか出していないのに、ただただ凄まじいという印象だった。しかし、ドライビング・フィールそのものはヴェイロンに真っ向勝負を挑める位置にいる。正直なところ、これには驚かされた。

それにエンジン回転数を高めに保つよう意識すれば、エグゾーストサウンドがすべてのノイズを覆い隠す頃にはその音色にただただ感動するばかりだ。音量にかけては音圧コンテストで入賞できそうである。美しく調律された音だとはお世辞にも言えないが、ドライバーを疲れさせてしまうような類の音質では絶対にない。

改めて言うが、スーパーレジェーラは決して遅くはない。ヴェイロンから乗り換えたにもかかわらず、むしろこのクルマの速さには目を見張るばかりだったのだから。言うまでもないが、正味のエネルギー量から考えれば両者が同格ということはありえない。それでもスーパーレジェーラが地上を駆け抜ける速さは飛び抜けていると言っていい。

背後につかれてしまったら、乗っているクルマがヴェイロンだったとしても追撃を振り切るには気を抜けないし、それなりの腕も要求される。

スーパーレジェーラがこれほどまでのパフォーマンスを発揮できるのは、なぜだろう?