羽生結弦【写真:Getty Images】

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右足首負傷の羽生、新たに判明した靱帯の損傷、骨と腱の炎症の影響は?

 フィギュアスケート羽生結弦(ANA)は11月10日のNHK杯前日練習でジャンプを着氷した際、右足を負傷。「右足関節外側靱帯損傷」と診断され、グランプリ(GP)ファイナルを回避。全日本選手権欠場の可能性も浮上している。「通常の捻挫よりも治りが長引く」靱帯の損傷、さらに骨と腱の炎症も新たに明らかになったが、これは回復にどう影響するのか。サッカー元日本代表MF中村俊輔(磐田)ら、トップアスリートの専属トレーナーを務める新浦安しんもり整骨院入船院・新盛淳司院長に話を聞いた。

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 羽生選手の負傷については日本スケート連盟の方から「通常の捻挫よりも治りが長引く」靱帯の損傷と発表されています。靱帯の具体的な箇所についての発表がないので、あくまで予想になりますが、今回の発表でまず想起されるのは、「前脛腓靱帯」という箇所の故障です。

 受傷当時にも指摘させていただきましたが、着氷の際に前脛腓靱帯を損傷しているかどうかで、復帰時期も大きく異なります。足首を前方に出過ぎないようにする働きを持つ箇所である前距腓靭帯単独の損傷の場合、軽度なら全治3週間と診断されることが一般的には多く見受けられます。体操の内村航平選手も10月の世界選手権で左足首の前距腓靭帯を痛めています。

 足首内側の靭帯、前脛腓靭帯という腓骨(すねの外の骨)と脛骨(すねの骨)を繋ぐ前脛腓靱帯を損傷していた場合、復帰まで4週間から8週間と診断されるケースが増えます。また、受傷当初から治療方法も異なるアプローチを取らなければいけません。

 負傷靱帯の部位や重症度は、一般的に5つの検査から鑑別することになります。まずはMRI(磁気共鳴映像法)、そして、患部を押した際の痛みを調べる圧痛、腫れ具合、動作に伴う痛み、そして、関節の緩さを調べます。当院でも、前脛腓靱帯の損傷が疑われた場合、程度にもよりますが、足首の他の靱帯損傷より、固定期間を長くするケースもあります。必要であれば、松葉杖も使用します。一定期間、足を着く際の荷重を制限してもらうこともあります。

復帰を焦ると今後のパフォーマンスにリスクも…

 これは荷重時に、前脛腓靱帯はストレスがかかりやすくなります。治癒が遅くなるリスクを避けるためです。ですが、完治のために患部の固定期間が長引くと、マイナス面も出てきます。

 関節部分が固くなったり、筋力が低下したり、復帰までにリハビリに要する時間が長くなる傾向があるのです。しかし、全日本選手権などを目標に復帰を焦ると、今後のパフォーマンスに対するリスクが増えます。

 負傷後、初期段階に靱帯の強度をしっかりと回復しないと、痛みが長引き、関節が緩くなるという状況が生まれます。そうなると、将来的に軟骨などの障害が発生しやすくなったり、骨同士がぶつかり合うことで骨棘と呼ばれる骨のトゲができたりする後遺症が懸念されます。フィギュアでは、ジャンプの着地やステップで負担がかかりやすい靱帯だと思いますので、リハビリに慎重さが必要です。

 今回の日本スケート連盟からの発表で羽生選手について「腱と骨にも炎症」とありました。着氷時に足首を捻った際に、骨同士がぶつかり、骨挫傷が生じていたのではと予想できます。骨の炎症というと、事態の深刻さをイメージしてしまいますが、そうではないケースもあります。普通の打撲程度の怪我でも骨の炎症が確認されるケースは多々あります。

 足関節周囲には、多くの腱が存在しています。足首を捻った時に過度な力が加わり、炎症を起こす場合もあります。腱の部分は血流が豊富でなく一般的に治癒に時間がかかるケースが多いです。これらは痛みが残りやすい部位ではありますが、骨と腱にダメージを与えるほど、強く捻ってしまった可能性がある靱帯の損傷の程度が最も懸念されます。

「チーム羽生」でサポート体制を構築し、万全な状況で五輪挑戦を

 平昌五輪は来年2月に行われます。活躍が期待される羽生選手にはそこまでに様々なチェック項目が存在すると思います。本番までにどこまで痛みが引くのか、いつから氷上の練習を再開するか、いつから本格的な練習に移行するか、練習不足による調整の遅れ具合、試合勘、そして、メンタル面をいかに整えていくのか。

 懸念事項がありますが、まだ本番まで時間があると前向きに捉えていただきたいです。復帰までの一つ一つの判断が五輪と今後のキャリアに向けて重要になります。いくつかの復帰のパターンやシナリオを用意することも有効でしょう。

 日本スケート連盟やコーチングスタッフを含めた「チーム羽生」の完全なサポート体制を構築して、五輪の大舞台に万全な状況で挑んで欲しいと願っています。(THE ANSWER編集部)

新盛淳司
新浦安しんもり整骨院入船院代表。柔道整復師、鍼灸師。新浦安しんもり整骨院入船院、入船しんもり鍼灸(しんきゅう)整骨院、新浦安しんもり整骨院今川院、今川しんもり整骨院、クローバー鍼灸整骨院代表。柔道整復師、鍼灸師の資格を持ち、関節ニュートラル整体普及協会会員。デフ(ろう者)フットサル女子日本代表トレーナー。サッカー元日本代表MF中村俊輔をセルティック時代から支える。JFLブリオベッカ浦安のチーフトレーナーも務めている。