この世にはさまざまな会社があり、それぞれ「社名」がある。その中でも珍しいのが、「株式会社 闇」。「光と闇」の、「闇」だ。社名で検索すると、出てきたアドレスは、http://death.co.jp/。「死」を意味する「death」という文字がドメインに入っているのだ。

一体どんな会社なのか? サイトを見てみると、これでもかと言わんばかりの恐怖映像が。




ほか詳しくはあとでご覧いただくとして、これこそまさしく「闇サイト」だろう。それにしてもこの会社、どんなことをしているのか。そこで広報の大原絵理香さんに会って聞いてみた。社名やドメイン名からくる暗いイメージをまったく感じさせない、明るく気さくな方である。

――「株式会社 闇」はそもそもどういう会社なんですか?

ホラーとテクノロジーを掛け合わせた、「ホラテク」をコンセプトにした会社です。弊社サイトのような怖いウェブページを制作したり、VR(バーチャルリアリティ)を制作したりしています。今夏は、ホラーと合コンを融合した「ホラコン」も実施しました。部屋にさまよう女性の霊を鎮めて脱出する体験型イベントでした。



――怖そうですけど楽しそうですね。

他にも、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのオフィシャルホテル「ホテル ユニバーサル ポート」でハロウィーンの時期、「ホラールーム」をプロデュースしたこともあります。1日1組のお客様が泊まれるプランがあるのですが、部屋の鏡に、ある時間になると「ひび」が割れて女性が現れるという映像技術を提供しました。

――今の時代に合った試みですね。

ありがとうございます。ホラー業界においても、テクノロジーをメインに掲げている会社は弊社だけなので、新参者の我々ではありますが、期待の目を向けてくださっているのかな、とは思っております。2015年に弊社が創立したとき、「東京ドームアトラクションズ」などのお化け屋敷などを手がける第一人者・五味弘文さんの関係者の方から早速連絡をいただけて、以後五味さんとお仕事をご一緒させていたただいております。

領収書を書いてもらうとき「えっ」と聞き返される


――サイトもそうですけど、 社名も思い切りましたよね。

長い歴史を持つホラー業界に新規参入するためにはインパクトが必要ということで決まりました。ただ領収書をお店でいただくときに社名を言うと大概「えっ?」と聞き返されますね。その度に、「門構えに『音』です」と答えたり。電話先でも「『闇』の大原です」と言うと驚かれます。
 
また「イタ電」が多いのも特徴です。電話を受けると「あ、出たやべえ」とリアクションされます。社名が本当なのか確認したいようです。



――この「闇」はいつ立ち上がったんですか?

2015年です。大阪にあるweb制作会社「STARRYWORKS」の社員だった頓花聖太郎(とんか・せいたろう)がホラーを事業化するにあたって子会社化しました。頓花はもともとホラー好きで、それまで社内向けにそうしたイベントを自ら企画していたのですが、そのクオリティの高さに「STARRYWORKS」の社長の木村幸司が気に入ったことが始まりでした。ちなみに「闇」の社名は木村の発案です。「スターリー」の「スター」に対する「闇」というわけです。

また去年、同じく「STARRYWORKS」の子会社となった子ども向けのサイトを手がける「BUTTON」もありまして、現在は「STARRYWORKS」「闇」「BUTTON」の3社が同じフロアで事業を展開しています。「闇」の社長も「BUTTON」の社長も元々「STARRYWORKS」出身ですし、それぞれの会社のそれぞれの案件で得た技術をはじめ、案件までもお互いが共有できるのがいいところかもしれませんね。例えば、「STARRYWORKS」に「闇っぽい案件」が来たときは、そのまま頓花に相談して巻き取ったりも出来ます。

社員全員「霊感」がない


――頓花社長はどんな方なんですか?

非常に穏やかな性格で怒っているところを見たことがありません。むしろ社員からハードルが高かったり採算が合わない案件を受けて怒られたりしています。楽しそうに人を怖がらせる方法を考えているところは、純粋な少年のようです。誰よりもホラー好きで24時間ホラーのことばかり考えていますが、暗いということは全くなく、コミュニケーション能力も高いです。

――社長や大原さんらスタッフは霊感とかあるんですか?

残念ながら一人たりとも霊感を持っていないんです。ですから頓花は今、すごい霊を見たがっています。話したがっています。そこでわざと祟りが起きそうなことを積極的にやっているみたいです。でも化けて出るほうからしても、「やっと会えた」と嬉しがってネタにされてしまうと思うと、出てきづらいですよね。ただ、“目”をモチーフにしていたゲームを作っていたときは、頓花は目から膿が出て、デザイナーは目の視界が狭まる病気にかかり、もう一人の広報は“ものもらい”ができていました。でもそんなに気にしていなかったですね。むしろ「目がヤバいことになった、キャッキャッ」と、はしゃいでいました。

――めちゃめちゃ楽しそうじゃないですか。

そうですね。案件に対しては真剣で、クオリティの高いものを作るのは当然ですが、基本的には和やかな雰囲気ですよ。また頓花は兵庫県出身、ほかのメンバーも出身大学が大阪にあったり、関西圏に住んでいた者が多いので、社内では大阪弁でホラーのことを語るという光景が見られます。

――ところで大原さんはどうして入社されたんですか?

この会社のサイトを初めて見て「すごく面白そう」と思ったことがきっかけです。そこで思い切って前の仕事も辞めて飛び込みました。去年、大阪府がIターン・Uターン・Jターンを促す取り組みを行っていたのですが、そこに「闇」も登録していたのです。そこで有給を取って大阪に行きインターンを経験。その後無事に入社することができました。現在は「STARRYWORKS」「闇」「BUTTON」3社の広報と、新設された東京オフィスの管理業務を預かっています。

株の投資とホラーの融合


――一番新しい「闇」のニュースは?

「怖株(こわかぶ)」という、株を題材にしたホラー漫画を作りました。



――株とホラー。またすごい取り合わせですね。

株投資のビギナーに向けたサイト「俺たち株の初心者!」のプロモーションとして制作させていただいた漫画で、webの中だけで閲覧できます。コマを進めていくと主人公が動いたりSEが出るなど、紙媒体の漫画とは違う表現が特徴です。



――具体的にはどんな漫画なんでしょうか?

2話完結で、それぞれ「株式投資」と「仮想通貨」というテーマについて描かれてあります。ただし漫画のコマ自体は、人気のホラー漫画家・洋介犬(ようすけん)さんによるコミック「外れたみんなの頭のネジ」をそのまま使用しているんです。100話以上のストーリーのコマを弊社デザイナーがイチからチェックし、今回の筋にピッタリのコマを選び出し、吹き出しの中のセリフだけ変えて再構成したんです。株の入門者はもちろん、もともとの「はずネジ」のファンからも好評です。

「闇」が照らすホラー界の未来


――夢は広がりますが将来は?

頓花は、まだまだ「闇」を知らない人たちのためにイベントをはじめ、いろいろなことをしたいようです。幸いなことに「入社したい」という学生さんや「『闇』と仕事をしてみたい」というクライアントさんも多くいらっしゃいますので、そうした人たちと手を合わせて面白いことをやっていきたいですね。また頓花は将来、ハリウッド映画を作るのが目標だそうです。海外のホラーはフィジカルな怖さがメインですが、日本の場合は“すり寄ってくる”恐怖が持ち味。そんな日本人だから作れる繊細なホラーコンテンツをハリウッドで作りたいと熱く語っています。

まとめ


「株式会社 闇」のコンテンツを改めて確認してみると、恐怖と驚き(サプライズ)が根底にあると感じた。この2つによってネットで爆発的にその名が拡散していっているようだ。そこにSNS時代のホラーのあるべき姿を見た気がした。今後の「闇」に期待したい。

(内堀たかふみ)