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text:James Attwood(ジェームス・アトウッド)

もくじ

ー 1番のサクセス・ストーリー
ー フォーミュラE ふたつの魅力
ー 突きつけられている最大の課題
ー F1並みの権威を手にできる?
ー 番外編 参加メーカーはどう考える?

1番のサクセス・ストーリー

様々な評価はあれども、フォーミュラEは近年のモータースポーツにおける1番のサクセス・ストーリーだと言える。

オール電化のシングル・シーターによる戦いはまだ開幕4シーズン目を迎えたばかりにも関わらず、現在開催されているモータースポーツ・チャンピオンシップの中でもっとも成功を収めている。フォーミュラ1をも超えているのだ。

その裏付けとして、まずはシリーズに押し寄せる自動車メーカーを見てみよう。2016〜2017シーズンはルノー、アウディ、DS、そしてジャガーが関与するワークス・チームがエントリーした。今季はアウディがワークス参戦を表明、BMWはアンドレッティ・オートスポートへのサポートを強化し、来季の2018〜2019シーズンからパワートレインを供給する公式メーカーとして参戦することを発表、メルセデス・ベンツとポルシェも来季から参戦する。ただ、ルノーは2017〜2018シーズンをもって撤退、代わりにアライアンス・パートナーの日産が参戦するようだ。

計7社の大手自動車メーカーが参加を公言していることになり、フェラーリなど他のメーカーも高い関心を示している。ちなみに、フォーミュラ1には4社がパワートレインを供給している。世界ラリー選手権には3社、ル・マンの最上位クラスであるLMP1にはトヨタ1社のみが参戦している。

そこまで積極的になるからには魅力がある。

フォーミュラE ふたつの魅力

自動車メーカーにとってフォーミュラEの最大の魅力は何と言っても電化という点である。シリーズはEVの性能について学ぶ場でもあるし、披露する場にもなる。

従来のモータースポーツにおける市販車への技術移転はかなり限られているが、フォーミュラEではレースの現場で得た技術的フィードバックを市販車の開発に活かせる。メーカーはバッテリー技術、温度管理や寿命の維持といった課題を把握し、取り組むことができる。

フォーミュラEのもうひとつの魅力は、明確な成長計画があること、そして電気自動車のレーシング技術が発展するにつれてパワートレインの方も着実に開発が進むという技術ロードマップがあることだ。

フォーミュラEの初年度はワンメイク・レースとして開催されたが、徐々にパワートレインやバッテリー製造が認められてきた。2018〜2019シーズンからは大きなレギュレーション変更が予定されており、現行の28kWhではなく54kWhのバッテリーが全チームに供給される。

よって、ドライバーは現在のようにレース中にフル充電されたマシンに乗り換える必要がなく、1台のマシンで完走できるようになる。

テクニカル・ルールの枠組みのおかげで、メーカーは公平な条件で戦えている。さらに、かかるコストが比較的安いというのも重要だ。現在、1シーズンにかかる費用は、F1はもとより、ル・マンの予算よりもはるかに少ない。

そして、運営機関が全体の収入を一手に引き受け、成績等の規定に応じて各チームにそれを分配するフランチャイズ・システムが採用される。これによりメーカーの参加率は加速しており、レース以前に、参入するための席争いが繰り広げられている。

フォーミュラEはモータースポーツの運営機関である国際自動車連盟からの強力なサポートを受けているし、従来のレーシング・カーによるレースは騒音問題があるので嫌煙してきた市街地コースが、静かなEVなら、と多数立候補していて恵まれた状況にある。

ここまでをまとめると、各自動車メーカーは注目が集まるエコなチャンピオンシップに比較的低いコストで参加でき、レースでは最先端の技術を紹介し、フィードバックを市販車の開発に活用できる。他のモータースポーツ・カテゴリーに比べてフォーミュラEがいかに安く済むかを考えると、かなりお得だと言える。

一方で、確かに魅力はあるものの、果たして今後も持続的に成長できるのか、そしてこれまでレース経験のないメーカーの参入がフォーミュラEに悪影響をもたらすのではないか、といった懸念がある。

突きつけられている最大の課題

メーカー同士の競争はたいていサーキット内外のマーケティングとホスピタリティのコスト上昇を招く。結局のところモータースポーツはマーケティング活動が物を言い、最大の利益を享受できるのはレースで優勝したメーカーか、参戦していることを利用して宣伝効果を得ているメーカーのどちらかである。

ただ、レースに魅了されて参加するすべての自動車メーカーが優勝できるわけではない。過去のモータースポーツの歴史を簡単に振り返っても、数々の好況と不況の波があったことが思い出されるだろう。

シリーズに自動車メーカーが群がり、持続可能な額を超えるまでコストを引き上げ、投資を回収できないとなると撤退する、ということの繰り返しだった。

フォーミュラEがそのような事態を回避できるかどうかは、シリーズのトップが全メーカーに対して、ライバルより多くの金を費やしたとしてもレースで成功を収められるわけではないことを保証できるかどうかにかかっている。

さらに、各メーカーにレース以外の部分でも散財しないよう約束させる必要がある。それは、たとえ制限が設けられていたとしても、メーカーとは何かしらにお金を使ってしまうことが多いから。

とは言え、フォーミュラEの最大の課題は、メーカーの関心が急激に高まっているのに比べてまだひとびとの興味がそんなに高くないことかもしれない。レースは観客で埋まってはいるが、それは真新しいもの見たさやロケーションが良いということに起因しているかもしれない。テレビでの視聴率は好調だけれど、ずば抜けて高いというほどでもない。

フォーミュラEはまだとても若いチャンピオンシップなので、伝統とアイデンティティーを築くには時間がかかるだろう。メーカーとっては電気技術を試す場であることは明らかだが、EVレースの真新しさがなくなった時、ひとびとの興味を引くセールス・ポイントとは何だろうか。

F1並みの権威を手にできる?

マシンが電気であることはさておき、フォーミュラEでは腕はあるが超一流とまでは言えないドライバーがそれほど速くはないシングル・シーターでレースをするのだ。

メーカーの宣伝とマーケティングは助けになるが、それにはお金がかかるし、メーカーは投資に対する見返りを求めるだろう。

そうは言っても間違いなく、フォーミュラEは信じられないほど素晴らしいサクセス・ストーリーである。発表当初は電気シングル・シーターのレースは成功が疑問視されたが、電気技術を宣伝しようとしていた自動車会社にとっては理想的なタイミングだったのだ。

メーカーのエントリーが急増加していることから、フォーミュラEは瞬く間にF1以外のチャンピオンシップと同じぐらい権威あるものに伸し上がるかもしれない。

ただ、それらのメーカーがコストを引き上げるようになったら、モータースポーツ技術の最先端が集結する若きチャンピオンシップは深刻な影響を受けることになる。

そしてそれほどお金を掛けたものがひとびとの興味にそぐわなくなったとしたら、フォーミュラEは失敗に終わってしまうだろう。

番外編 参加メーカーはどう考える?

パナソニック・ジャガー・レーシングのチーム・ディレクター、ジェームズ・バークレーは以下のように語る。

「フォーミュラEにはとてもワクワクさせられています。われわれの電化技術とその性能をグローバルに披露できる場ですから」

「EV技術についてはまだまだ学ぶべきことがたくさんあるので、そう言った面でもこのレースは素晴らしいと思います。都心で、これまでレースを目にしたことがないひと達の前で戦いが繰り広げられるのです」

「フォーミュラEで学んだことは市販車の開発に役立ちます。今や世界中で電気自動車のプロトタイプを走らせた検証が進められていますが、フォーミュラEもまた情報を得るための貴重な場です」

「規制の変更や電気自動車へのシフトがめざましいことから、ライバル社がフォーミュラEに参入することは予測できていたものの、こんなにすぐとは思っていませんでした。参入することはマシンにとっても望ましいし、ライバルたちが参戦しているのであれば、当然のことでしょう」

「メーカーが増えれば増えるほど競争が激しくなって勝つのが難しくなります。だからこそわれわれは挑戦するのです」