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AUTOCAR JAPAN誌 51号

もくじ

ー 夢のような決戦が、今
ー まずはヴェイロンのご尊顔を
ー エントリーした5台のモンスター
ー アウディR8 華麗な登場
ー ガヤルド 「単に粗暴」?
ー GT3RSの輝き DB9の憂鬱

夢のような決戦が、今

ここはフォードS-MAXのリアシート。これから2日間に何をどうすべきかを、僕はじっくりと腰を落ち着けて考えていた。こういうときにS-MAXは最高。なぜってキャビンは静かだし、追い抜かれて全然シャクに触らないくらいの巡航性能だから。僕らの到着を待っている怪物たちの攻略法をまとめるための書斎としてはほぼカンペキだった。

もちろん取材クルーたちとは、ここ何週間かで普通じゃない件数のEメールをやりとりしてきた。けれどまだ最終的なプランは決まってなくて、だからこの期におよんで僕はアタマを悩ませている。とりあえず確定しているのは最初の目的地だけで、それは仏独国境近くにあるモールスハイムの街だった。

S-MAXのほかにも別のチームがモールスハイムに向かっている。ひとりは編集部のマイク・ダフ。シュトゥットガルド近郊から911GT3RSを運んでいる。そしてこいつが1匹目のカイブツ。

怪物2匹目はランボルギーニのガヤルド・スーパーレジェーラ。ランボは親切なので、ミーティングの場所までクルマを運んでくれるそうだ。

同じく親切なのがアストン。ドリフト・マシンのDB9を1週間も貸してくれた。

アウディからは期待のR8が参加する。このクルマは名前を思い出せないけれど誰かふたり目がどこかへ引き取りに行っていて、ただ今フランスを横断中のはず。まだ珍しいクルマだから、後ろに50kmくらいはケータイを握りしめたパパラッチによる渋滞ができているかもしれない。あしからず。

残る1チームはお馴染みスティーブ・サトクリフ率いるオペル・メリーバ様ご一行。明日の朝に目的地で合流する予定だけれど、スポーツカーでもなんでもないレンタカーに乗せられてテスターたちのテンションが下がっちゃうんじゃないかとサトクリフは心配していた。なので話の流れとしては、ヴェイロンが待つモールスハイムのブガッティの工場に、朝一番からブレーキパッドが焼けた香ばしい香りを届けてくれるに違いない。

まずはヴェイロンのご尊顔を

さて、これだけのアルミとスチールとカーボンファイバーのコレクションが、明日から2日間、僕らの自由になる。誌面的にもハデでいい感じだけど、個人的にもこの企画には特別な意味があった。

というのも僕自身がブガッティ・ヴェイロンを運転したくなることなんて、もしかしてないんじゃないかと思っていたから。重量級のボディにジェット戦闘機級の高出力という設計思想には、正直なところまるっきりソソられない。好みのタイプの正反対。

少なくともS-MAXに乗り込む前はそう思っていた。けれどモールスハイムまであと数時間というところまで来て、少し事情が変わってきた。全身の筋肉がヒクヒク。もしかして興奮している? 

たぶんそう。1001psのロードカーという物体がどんなモノなのか、ちょっと気になりだしてきたんだと思う。

翌朝。ブガッティの工場に到着。要塞のような建物の真ん前にS-MAXを止める。ジャーナリストとフォトグラファーとスタッフで満席の車内。みんな同じことを考えていた。
「ここ? ここが世界でいちばん高くていちばん速いクルマを作る工場なわけ?」

だとしたら、このままあと何時間か待たされたとしてもしかたがない。静かにご対面の時を待つことにした。

要塞の中には組み立てラインがある。たぶん。下請けのメーカーがパーツを運んできて納品したらそれをパレットに載せてラインに流し、スーパーマーケットくらいの大きさの建物の中でスタッフが組み立てる。きっと少数精鋭だ。とても興味をソソられる。そんなことを考えていたら、青いヴェイロン様がご到着された。

広報担当のユリウスがヴェイロンからあわてて飛び出してきて、それでもって彼の第一声が「誰か運転したいひとは?」だったときには一同あっけにとられて顔を見合わせた。しかも続く言葉は「コイツの運転は簡単ですよ。けれど正真正銘の野獣でありますからくれぐれもご注意を」だって。それも愛想よく。眼鏡の奥には満面の笑み。まったく同社のスタッフの親切心は特筆に価する。

エントリーした5台のモンスター

彼の言っていることはたぶん冗談なんかではない。ヴェイロンはきっと野獣そのもののはず。だからこのクルマに乗る前に改めて心に決めた。金銭的価値について考えるのはゼッタイによそう。

でなければこのクルマのパフォーマンス全部を体験してやろうなんて気分になんかなれっこない。意を決してヴェイロンに乗り込んで街に出る。早速、いかにも雑な運転のダッジ・スプリンター・バンが近づいてきた。リアウィングすれすれまで。もう無理。1億8800万円のリアリティを無視しきれない。ふとポルシェ997GT3RSが10台並んでいる光景が見えた気がする。

500mも走ると片側2車線の自動車専用道路に合流した。ゴムを張った停止バリアが先のほうに見える。そこまでの区間を使ってスロットルペダルを2/3ほど開けてみた。それだけで僕の中の「速い」という言葉に対する感受性が完璧に変わってしまった気がする。もう以前と同じには戻れそうにない。

しばらく流してロケ地を探す。ほどなく舗装はきちんとしているのにがらがらに空いた道路を見つけたので、その起点にヴェイロンを停車させて、しかるのちにこのクルマの印象をみんなで話し合ってみたりした。

ここでの話題はふたつ。ひとつ目は、ヴェイロンの物理的占有空間は予想していたほど大きくないということ。そしてふたつ目は、ピエヒ博士が今年のアタマにアストン マーティンを自らのスーパーカー帝国に加える決断をしていたら、今回集めた5台のクルマのうちどれでも好きなのを自分専用の社用車にできていたのだということ。でも実際には彼はヴェイロンを自分用にしていない。ヴェイロンを所有しているのはピエヒ夫人のほう。

アウディR8 華麗な登場

これだけのクルマを目の前にして思うのは技術の進歩でもなんでもなくて、じつは過去10年間の世界的経済成長のほうだったりする。ブガッティは別としても、ここにあるクルマはどれも少なくない利益を生み出す商品として普通に販売されていて、しかもそれなりの規模で大量生産されているのだから。

たとえば約1400万円もするアウディR8をショールームで注文しても「2年待ちですがいかがいたしますか?」とにこやかに宣告されるわけだし、今世紀になってからのランボルギーニの生産台数成長率も驚異的だ。

1990年代には年間24台しか出荷されなかったアストン マーティンでさえ、昨年(2006年)は年産7000台を突破した。ポルシェ911の増殖ぶりにいたってはもう悪いブームだとしか思えない。ただしここにいるGT3RSはポルシェ社の売り上げにあまり貢献していないかもしれない。製造台数的に。

なにもスポーツカーが売れているからメデタイなんてことを僕はここで言いたいワケじゃない。世界はこの種のクルマへの恋から醒めなくてはいけない時期に来ているはずなのに、実際にはさらに多くのひとがこれらのクルマを買おうとしているという事実がまずひとつある。

けれどすべてのフォルクスワーゲン・ゴルフのCO2排出量が2g/km減ったとしたら、この種のスポーツカーを路上から一掃するよりはるかに効果が大きいという事実がもう一方にある。こんなことを書くと環境保護団体から格好の標的にされるかもしれないけれど。

だからこれらの物体の環境的負荷はとりあえず置いておいて、自動車工学におけるエンジニアリングとスタイリングの成果としてもっと賞賛されてもいいのではないか。現代のスポーツカーは。

それにしてもBMWがいまだに超高級クーペ市場で悪戦苦闘している一方で、ブランド力では同等に見られていないというかぶっちゃけて言ってしまえば格下に扱われることも少なくないアウディが、その世界へR8で見事に華麗にデビューしてしまったのはじつに興味深い。

とりあえずアウディR8はとても堂々としている。スタイリングに関しては賛否分かれているようだけれど、ボディサイズやスペックやサウンドは文句なくイケている。そしてどうやらこのエンジンにとってのRS4は、本命が出るまでのつなぎでしかなかったらしい。単独で出撃していくR8が針葉樹林の中から響かせるエグゾーストサウンドを聞いて、そのことに気がついた。

お次はランボの番。

ガヤルド 「単に粗暴」?

ランボルギーニの場合、エンジンを始動すると周りからひとがいなくなる。R8とは違ってガヤルドのエンジン音は暴力そのものとしか言いようがない。

バイパスバルブが開いたスーパーレジェーラはとんでもない騒音をまき散らす。サウンドなんて小洒落たものではない。ただ単に粗暴なだけ。今の時代にクルマがこんなにうるさい必要があるのかと不思議に思うけれど、それでも10psを加えて100kgを引いた特別仕立てのガヤルドの騒音を聞いたのが根っからのクルマ好きだったなら、とりあえず陽気にならずにはいられないはず。僕もそう。

コイツが雄叫びを上げるたびに自然に出てしまう薄ら笑いが抑えきれなくて、この大音量もかわいく思えて許してあげていいんじゃないかという気になってしまうんだから、われながらどうかしている。

ただしデーモン・トウィークスに載っていそうなホイールを履いているのは残念。いくら標準品より1本で2kg軽いフォージドだとしても、これならダイキャストのほうがマシかも。

反対に駐車しているだけでひとが集まってきそうなのが、鮮やかなオレンジ色のポルシェ911GT3RSだ。

GT3RSの輝き DB9の憂鬱

GT3RSは、スタンダードのGT3よりもお尻回りが40mmもワイド。モータースポーツ用の巨大リアウィングを装着済み。ホンモノと並べずに公道においてある限りはレースカーそのまんまに見える。それくらい見た目は強烈。

ルックス通りの爆発的な速さもたまらないし、さらにこの種のクルマとしては乗り心地も望外にイイ。この最強の組み合わせにはホントに困ってしまう。いや困らないか。

ところで今回届けられたけっこう使い込まれた感じのドイツ製テスト車両の仕様をアレンジしたのが誰かは知らないけれど、「エアコン」の項目のチェックボックスにマークしなかったのはたぶん意図的だろう。テストだということを考慮すれば当然の選択かもしれないが、車内に充満したツンとくる匂いはどうかと思った。

最後にアストン。フロント・エンジンのためか、DB9スポーツは少し異質な雰囲気を放っていた。ほかのクルマとは何か違う。まあ、それはさておき、こちらのコースは路面がけっこう荒れていてアブナイ。

なのでこの英国の誇る古豪がトラクションを得ようと全力を尽くし、にもかかわらず抑えきれないオーバーステアでドライバーを驚喜させているあいだ、ほかのクルマたちは待機していなければならなかった。

DB9の走りは楽しいし魅力的でもあるのだけれど、この猛者たちのなかでは明らかに影が薄い。あるいは立場が弱い。V12エンジンをフロントに搭載したGTカーに依然として独自のポジショニングは残されているのだろうか。

確か去年の夏、この仕様に初めて乗って「550マラネロの新型だ!」とわめいていたのはよく覚えている。あのときは幸福感に浸りすぎて少しおかしくなっていたのかもしれない。今は反省している。

というわけで舞台は整った。暖機も万全だ。あとは任せたよ、サトクリフ。