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ファミリーレストラン大手の「すかいらーくグループ」(東京都武蔵野市)は12月1日から、従業員の通勤途中の喫煙を禁止をすると発表した。電気加熱式たばこも対象となる。

すかいらーく広報によると、対象は本社に勤務する従業員。本社内の喫煙スペースを全て廃止するほか、土日祝日を含めて、本社の最寄駅やバス停からの通勤路での歩きタバコ、会社周辺のコンビニ前など、屋外施設での喫煙を禁止するといった社内通知を出した。違反を確認した場合、注意はするが罰則は設けず、「注意喚起」といった禁煙推奨の意味合いが強いという。

従業員に対して禁煙を促す企業が増えているが、会社と最寄駅の間の喫煙行為についても言及するケースは珍しい。通勤時間の喫煙を「禁止」した場合、法的に問題はないのだろうか。上林佑弁護士に聞いた。

●使用者の指揮命令下にあれば「労働時間」

そもそも通勤時間は労働時間に該当するのか。

「労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まります。

労働に従事している時間はもちろん、作業の指示待ち時間などのいわゆる手待ち時間であっても、指示があればすぐに作業に入れるように待機している場合には、使用者の指揮命令下にある、つまり、労務への拘束性があるといえ、労働時間に該当すると評価されています。

そして、通勤時間は、労務に従事しておらず、会社の指揮命令下にある時間ではないので、労務への拘束性がなく、労働時間には該当しません。労務を会社に提供するために、会社に赴くための時間に過ぎないのです」

もし、通勤中の喫煙を「禁止」した場合、労基法上の労働時間に当たることになるのか。

「会社が社員に通勤途中の喫煙行為を禁じた場合、社員は、喫煙をする自由を制約されることになりますが、それによっても、労務への拘束性があるとまでは言えず、そのような制約が課された通勤時間であってもこれを直ちに労働時間と評価することはできないと考えます」

●労働時間外における喫煙行為を禁止することは行き過ぎ

通勤途中の喫煙行為を禁じたとしても、労働時間とはみなされないということだ。一方で、上林弁護士は別の問題があると指摘する。

「会社が本来労働時間外の時間である通勤時間について、社員の喫煙を禁止すること自体には問題がないとは言えません。

会社は、本来自由であるべき社員の私生活上の行為について制約を課すことはできず、会社の社会的評価に重大な悪影響を与える行為等について例外的に制約を課すことができるに過ぎません。喫煙行為は、本来自由になしえるものであり、労働時間外における喫煙行為を『禁止』まですることは行き過ぎた制約と考えます」

すかいらーく広報によると、違反しても注意はするが罰則は設けないということだった。もし、罰則を設けていたら、どうだろうか。

「社員が通勤時間中の喫煙禁止命令に違反したことに対し、会社が懲戒処分を行うと、本来企業秩序を維持するための制度である会社の懲戒権を濫用したものとして無効とされる可能性が極めて高いでしょう」

今回のすかいらーくの禁煙の取り組みについて、ネット上では「時代の流れ」「私生活に踏み込み過ぎてはいないか」など賛否両論の声があがっている。

「昨今、喫煙行為に嫌悪感を持つ方が非常に多いことや受動喫煙防止のために、喫煙を制限する法律や条例が数多く制定されています。また、喫煙する方の健康への配慮という観点からも、会社が社員に対して、禁煙を『推奨』すること自体は時代の流れに沿ったものと言え、推奨すること自体は、特段問題はないと思われます。

しかし、通勤途中に限定したものとはいえ、禁煙の『推奨』を超えて、職場外における喫煙を『禁止』まですることは、たとえその違反に対して制裁を伴わないものであったとしても、社員の私生活への過度な介入と評価される可能性があります」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
上林 佑(かみばやし・ゆう)弁護士
仙台弁護士会所属。労働問題を中心に、その他企業法務一般、交通事故、知的財産権等、広く取り扱っている。
事務所名:三島法律事務所