12月13日に行なわれたサウサンプトンvs.レスター・シティ戦で、しびれるような駆け引きが展開されたのは後半なかばのことだった。


吉田麻也の守備を振り切って2ゴール目を決めた岡崎慎司

 右センターバックとして先発したサウサンプトンの吉田麻也と、セカンドストライカーとして先発したレスターの岡崎慎司。3-1でレスターがリードして迎えた69分、プレミアリーグで戦うふたりの日本人プレーヤーがゴール前の最終局面で相まみえた。

 レスターのカウンターのチャンスに、FWジェイミー・バーディーが右サイドでボールをキープする。クロスボールを入れようとするバーディーと、ゴール前に走り込もうとする岡崎。このとき吉田は、自陣ゴール前へ下がりながら、首を左右に振ってバーディーと岡崎の位置取りを確認していた。すると、吉田がバーディーに視線を移した瞬間を、岡崎は見逃さなかった。

 スピードを一気に二段階上げてニアサイドに突っ込み、吉田の2歩先へ飛び出した。2シーズン半にわたってコンビを組んできたバーディーは、その岡崎の足もとに絶妙なクロスボールを供給。岡崎は右足で合わせてネットを揺らした。

 ニアサイドか、ファーサイドか。吉田はバーディーのクロスボールにどちらでも対応できるよう体勢を整えていたが、岡崎から目を離した一瞬の隙を突かれた。失点後、苛立つ素振りを見せる吉田。

 一方の岡崎は、両腕を広げてレスターサポーターと喜びを分かち合い、クロスを上げたバーディーと熱く抱擁を交わした。32分に得点を決めていた岡崎にとって、この試合2点目となるゴールだった。

「試合後に麻也が自分に言っていたんですけど、『ニアに絶対に来ると思っていたけど、なぜかあのときちょっと(離した)』と。最後のところで、自分が駆け引きで勝てた。プレミアに来てから何度もやろうと思ってやっていたけど、なかなかあのような形のゴールがなかったので。やっと自分のよさを出せたかな」(岡崎)

 吉田はこの場面を次のように振り返り、反省の言葉を口にした。

「岡ちゃんの特徴を把握している自分がやられちゃいけない失点だった。試合が終わった後、冷静に考えれば、あの場面でクロスボールがファーサイドに上がって、(174cmの)岡ちゃんが(189cmの)僕や(201cmのGK)フレイザー・フォスターに競り勝てるわけがない。ニアしか選択肢がなかったのに、そのニアでやられてしまった。

 冷静に考えれば対処できたはずなんですけど。自分自身も冷静にプレーできていなかったと思う。結局、あのゴールで息の根を止められた。決定的なゴールだったなと思います」

 試合後に放送された英国のサッカー番組『マッチ・オブ・ザ・デイ』では、2得点を挙げた岡崎の特集が組まれた。

 元イングランド代表MFで現解説者のダニー・マーフィー氏が「見事な動きだ」と、特に力を込めていたのが、この2点目を呼び込んだ岡崎の走りだった。スピードの強弱のつけ方、ニアに飛び込むタイミング、そして、クロスボールに完璧に合わせたフィニッシュ。同氏は「今まで岡崎にはこの手のゴールがあまりなかったが、『これぞまさにストライカー』というゴールだ」と手放しで褒めていた。

 岡崎も常々、今回のようなクロスボールを点で合わせるゴールを獲りたいと口にしていた。しかし、「何度もやろうと思ってやっていたけど、なかなかあのような形のゴールがなかった」との言葉どおり、レスターではなかなか実現しなかった。

 まず、クロスボールを点で合わせてシュートを放つには、クロスの出し手が岡崎の「動き方」や「得意な形」を熟知していなければならない。特に加入1年目は、岡崎が絶妙なタイミングでゴール前に飛び込んでも、それを察知できないチームメイトが他の選手にクロスを入れてしまうことが多かった。

 さらに、味方が岡崎にストライカーとして全幅の信頼を寄せている必要もある。特に、得点源のバーディーが乗りに乗っていると、チームメイトは深く考えずにこのイングランド代表FWにパスを集める傾向があった。岡崎よりも、まずバーディー。そんな意思が伝わってくることもあった。

 日本代表ではクロスボールを点で合わせることで得点を重ねてきた岡崎だが、それゆえ、レスターでは「この手のゴールがあまりなかった」(マーフィー氏)のだ。実際、岡崎も今シーズンの目標について、プレミアリーグ第2節のブライトン戦後(8月19日)に次のように語っていた。

「裏のスペースに抜けて、自分らしいゴールを決める。あるいは、クロスからドンピシャのヘッドやシュートを打つ。そういうシーンが増えてくれば、『あ、岡崎もストライカーだな』というふうに見てくれると思う。

 今までのゴールは自分がやってきたことの積み重ね。つまり、反応の部分で相手よりも先に触れることで獲れているだけなので。自分の成長を見せるには、もっとペナルティエリア内で自分らしいゴールを獲っていかなければ」

 DFクリスティアン・フックスやMFマーク・オルブライトン、そしてバーディーと、岡崎のほしい場所にクロスボールを供給する選手は増えてきた。そして、「やっと自分のよさを出せた」という自画自賛の形で、岡崎はネットを揺らした。

 しかも、プレミアリーグではキャリア初となる1試合2ゴール。リーグ戦での得点数を6に伸ばし、2015-2016シーズンの5点を抜き、プレミアでのシーズン最多ゴールを更新した。岡崎を先発とベンチで交互に起用するクロード・ピュエル監督にも絶好のアピールとなった。

 岡崎にとって大きな転機になる――。そんな予感を抱かせるサウサンプトン戦だった。

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