【匠の技って何?(上)】日本メーカーは「匠の技」に頼りきっている?製造とは?

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 「日本の自動車メーカーは”匠の技”に頼り切っているため、ドイツメーカーに後れを取っている」との論調が目立っている。自動車ジャーナリストだけでなく大学教授などにも見受けられる。特にトヨタがドイツが進めるIoTに対する対応策、また設計段階での合理化の遅れを指摘されているようだ。中には、「マツダ・スカイアクティブは進んでいる」、そしてトヨタがマツダと手を組んだのは「マツダのVR(バーチャルリアリティー)による開発技術を当てにしてだ」と解釈する向きも見られる。

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 たしかに、現在ドイツは国を挙げてIoT対応など、MR(マーケットリサーチ)・設計・製造・販売までネットにつなげていくシステムを構築しようとしている。これは事実であり、正しい方向性なのであろう。この背景には、日本車の「カイゼン」による効率が高いことに対する警戒感が以前より強いことがある。また、VW、ダイムラー、クライスラーなどのディーゼルエンジン排気ガス規制違反が影を落としている。ドイツメーカーはもちろん、国そのものとして、これは焦るであろう。現に、トヨタのHVが売上げを伸ばしている。

 また、ジャーナリストがドイツメーカーの立場で、トヨタを牽制する意味もあるのであろう。政治的匂いが強い状況だが、一般日本国民、また自動車ジャーナリストの一部では、本気で受け止めている節がある。そこで「匠の技」とはいかなる位置づけに捉えるべきなのかを、「おさらい」しておこう。

■”匠の技”とは「一品料理」であり「量産の基礎技術」

 悪質な記事では、「匠の技」と「量産技術」を分けて論じていないことがある。いえ、自動車ジャーナリストの多くは「一品料理」と「量産」の区別がつかないようだ。

 ”匠の技”を頻繁にテレビが取り上げるようになって10年ほどが経っただろうか? マスメディアによる報道、特にテレビによる報道を見ると、「量産技術」「生産技術」を理解出来ていない。娯楽番組では良いのだが、産業知識としては素人が過ぎる。日本発祥で世界を席巻している「量産技術」があり、全世界の量産メーカーは、こぞって「追いつき追い越せ」と頑張っているのだ。日産自動車が倒産したのも「生産技術の後れ」からだった。

 現在メディアで言われていることが本当であれば、3年ほどでトヨタは倒産状態になるだろう。トヨタは”匠の技”を継承しようとしている。なぜなのだろうか? トヨタを批判する人々は、”匠の技”を今更引きずることはないと言っている。そこで”匠の技”の位置づけを見てみると、現実の生産現場が少し見えてくる。

 量産技術で”匠の技”のような、高度な製造技術が必要がないのであろうか? 残念ながら生産現場では、どれほどAI化が進んだとしても”匠の技”を必要としている。逆に”匠の技”がなければ、製造できないものもあるであろう。でも”匠の技”そのままでは量産は難しいのだ。つまり、製造技術では”匠の技”が基本にあり、それをAIを含めて、みんながマネをしているのだ。

 ”匠の技”は「手作り」「一品料理」の量に限られ、「量産技術」は大量生産に必要な技術である。しかし、量産でコンピュータ制御になっても、「基本技術」は”匠の技”にあり、それを元に数式化したり、データを整理してシミュレーションに使っているのだ。シミュレーターがどれほど進歩しても、その動きは数式化、あるいはデータとして取り込まれていなければ動かないのだ。