ジェローム・パウエル次期FRB議長。3月会合からこの人がFOMCの主役に(写真:AP/アフロ)

1年前、筆者は2017年の為替相場に関し、「実効ベースで見たドルは高すぎる。調整が入ってドル全面安となり、円高も不可避」との見通しを持っていた。この点、年初来のドルの名目実効為替相場(NEER、国際決済銀行が公表)は10月までの間に6%下落しており、2017年が「ドル安の年」となったことは間違いない。

しかし、ドル安が進んだ割に円高が進まず、この点に誤算があったことも認めざるをえない。円高ドル安予想は半分当たって、半分外れたということになる。しかし、円安ドル高であったかといえば、そうではない。年始が1ドル=117.10円で、現状は1ドル=112円付近で推移しており、ローソクチャートで見れば「円高の年」として越年する可能性が高い。

最も肌感覚に近い評価は「横ばいの年」だろう。今年の高値と安値の変動率は10%程度であり、このままいけば過去30年間で3番目に小さい。方向感を予想するアナリスト、相場を張るトレーダー、値動きを追いかけるメディア、いずれにとっても、今年の為替市場は鬼門であった。活況を呈した株式市場とは対照的だった。他方、為替安定を志向する事業法人の方々にとっては非常に安心できる良い年であったといえる。

2017年の「裏の主役」はユーロとメキシコペソ

しかし、為替は常に相手のある世界であり、「ドル安の年」にもかかわらず円高が進まなかったのは、ドル売りの「受け皿」がほかに存在したからだ。結論から言えば、それはユーロとメキシコペソだった。ドル名目実効為替相場の下落6%のうち3.2%ポイントがこの2通貨の上昇で説明できる。2017年のドル安は「ドルが弱かったからではなく、ユーロやメキシコペソが強かったから」という説明もできる。この2通貨の急騰を読めなかったことが、筆者の誤算だったと自己分析している。


ドル相場を駆動するはずの米10年金利も年初来でおおむね2.3〜2.5%程度の狭いレンジでしか動かなかった。FRB(米国連邦準備制度理事会)をめぐってはそれなりに話題があった年だが、米長期金利は反応薄だった(むしろ少し低下)。だからこそ、内外金利差に敏感に反応するドル円相場も動かなかった。

一方、ユーロやメキシコペソを大きく押し上げるだけの個別材料は確かにあった。今年夏までの相場を簡単に振り返ると、ECB(欧州中央銀行)はドラギ総裁のポルトガル講演(6月)を境に金融政策正常化のビギナーとして一気にクローズアップされ、ユーロ買いが加速した。結果として、今年のユーロは対ドルで安値から最大でプラス17%も上昇した。

また、メキシコに関しては、就任前に不安視されていたほど米国トランプ大統領の"口撃"はなく、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉や国境の壁の建設などもさほどの動きは見られなかった。むしろ前年の通貨急落がインフレ懸念につながり、メキシコ中央銀行が利上げしていたことも重なって、メキシコペソへの投資妙味が前向きに評価された。結果、今年のメキシコペソは対ドルで安値から最大20%も上昇した。今年の為替市場の主役は、実はユーロやメキシコペソだったように思われる。

円相場のリスクはやはり円高方向

しかし、2018年について展望すると、周知の通り、ECBの正常化プロセスはすでに腰が引けており、昨年と同じようなモメンタムを期待するのは相当難しいとみる(詳しくは筆者記事「ECBの金融緩和からの『出口』はかなり難しい」)。メキシコペソも9月以降、NAFTA再交渉が混迷の度を深めており、同国の大統領選をめぐる不透明感も相まって、敬遠する流れが始まっている。2018年はもうこの2通貨の快進撃を期待できないだろう。

一方、2017年初めまでの5年間で30%弱も上昇していたドルの名目実効為替相場がまだマイナス6%しか戻していない事実は残る。また、今後、米国の金利上昇の公算は小さそうだ。これらを踏まえれば、ドル高の調整はまだ道半ばではないか。今年、ドル売りの「受け皿」となってくる候補は「ドル相場におけるウェートは大きいが調整の進んでいない通貨」になると考えられる。その最右翼は現時点で「円」である。

円は米財務省が為替政策報告書で「実質実効為替相場(REER)ベースで見て、長期平均よりも20%割安」と指摘している通貨だ。基礎的需給環境が円買いに傾斜しているという事実もある。2017年にドル売りの影響を被らなかった分、円相場のリスクは円高方向に広がったまま放置されていると見ている。


もちろん、円安を主張する向きはあるが、筆者の知る限り、円安予想のほとんどは「FRBが利上げを続けるから日米金利差が拡大し、円売りドル買いが加速する」というロジックの一点張りだ。だが、今年の相場が証明したように、「FRBの利上げ回数」は「ドル相場の動き」とほとんど関係ない。むしろ、利上げにもかかわらず長期金利とドル相場は軟調な動きが続いたのが現実である。FRBが正常化プロセスを進めることは、円安見通しの「気休め」にはなっても「決定打」にはまったくならないのではないか。

過去を振り返っても、FRBの利上げは短期金利上昇にはつながるものの、長期(10年)金利上昇にはつながってこなかった。要するに利上げに着手した段階でイールドカーブ(長短金利差)のフラット化が始まり、将来的な米国経済の減速や株に代表されるリスク資産価格の調整が予想される結果、正常化プロセスの中断・停止が示唆されることが多かった。

中立金利が上方修正される可能性はあるか

政策金利であるFF金利誘導目標、米国10年金利そしてFOMC(米国連邦公開市場委員会)が示す利上げの終点である中立金利見通し(2012年以降)をプロットしてみると、米10年金利は利上げの終点を天井に推移してきたことがわかる。現在、FRBが予想する中立金利は2.75%、10年金利は2.40%程度なので、このまま利上げを進めていったとしても残り0.3%ポイント程度(2.75%と2.40%の差)しか上昇余地はないということになる。近年、ドル円相場との相関が強まっている日米長期金利差の拡大があまり見込めないのであれば、円安シナリオを描くのは難しい。


もちろん、2018年を通じて中立金利の想定自体が目立って引き上げられるようなことがあれば、このシナリオは危うい。FRBが何をもって「正常化プロセスの完了」と定義しているのかは定かではないが、現時点では「FF金利誘導目標が中立金利である2.75%に到達し、PCEデフレーター(FRBが重視する個人消費に係るインフレ率)がプラス2%前後で安定している状態」が理想に近いかもしれない。だが、その場合、潜在成長率に近似する均衡実質金利(自然利子率)が0.75%(2.75%と2%の差)という話になり、米国の潜在成長率は2%前後という声が多いので、整合的でない。2.75%という想定が低すぎるという指摘はあり得る。

とはいえ、筆者はこのような考え方にはあまり賛同できない。そもそも「低すぎる中立金利」はPCEデフレーターがプラス2%前後で安定することを前提とした議論である。世界的にインフレ率をプラス2%でアンカーさせることが難しくなっており、いまや1%台前半での推移が目立つ。仮にPCEデフレーターがプラス1%で安定するとしたら、均衡実質金利は1.75%となり、2%前後と目される米国の潜在成長率と比較しても違和感は小さい。中立金利の上方修正が今後ないとはいわないが、それがドル円相場を加速させる展開までは想定しない。

最後に、円相場の基礎的需給環境をチェックしておきたい。筆者は為替見通しの方向感をつかむ上で国際収支統計から基礎的需給バランスの推移を作成している。年初来(1〜10月)合計で見ればプラス2.6兆円と円買い超過となっている。2016年同期(2016年1〜10月)がマイナス17.9兆円、2015年同期がマイナス6.6兆円、2014年同期がマイナス9.1兆円のいずれも円売り超過であり、過去3年で円相場の需給環境は大きく変わったといえる。


基礎的な需給環境も円買いに傾斜

主として本邦から海外への対外証券投資の鈍化が響いているが、これはひとえにFRBの正常化プロセスの進展(≒米金利上昇)を信じきれない機関投資家が多いことの裏返しだろう。実際、筆者も投資家や事業法人の方々と毎日のようにお話しさせていただくが、FRBの青写真どおりに正常化が進み、これに沿って米金利もドルも上がると考えているプレーヤーは稀である。

しかし、為替市場全体でドル売りが進み、需給環境も円買いに傾斜している割に今のところ大して円高は進んでいない。年初来、筆者が気にかけているのは、こうした需給と実勢相場の「ねじれ」であり、2018年にかけての円安予想の難しさはここにある。

振り返ってみれば、2017年秋以降のドル円相場はドル高円安が進むだけの材料が豊富にあった。IMM通貨先物取引に見られる投機筋の円売り持ち高は一時約4年ぶりの水準まで積み上がり、日経平均株価は16連騰、FRBは3回利上げしてバランスシートの縮小まで決断した。だが、これだけの材料がありながら現実は1ドル=115円にすら届かなかった。要因は1つではないのだろうが、筆者は基礎的な需給環境が円買いに傾斜してきたことが影響していると見ている。

投機である以上、必ず反対売買しなければならない時がやってくる。株価についても高値警戒を指摘する声はいよいよ強い。FRBの正常化プロセスは、前述のように終焉が近そうだ。とすると、2018年のドル円相場は、円安材料が次々に剥落する中、基礎的需給が示唆する円買い圧力と対峙せざるを得ないのではないか。2017年のように他通貨の快進撃が見込めない2018年はやはり購買力平価(PPP)などから見て相応な水準と思われる「100〜105円」程度までの調整を警戒したほうがよいと考えている。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です