一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:以下、GDPR)」と「eプライバシー規則(ePrivacy regulation)」の要件が明らかになるにつれて、パブリッシャーはあらゆる種類のトラッキングについて、サイト訪問者の同意を得る方法を見つけ出すことが必要になります。そこで登場するのが「トラッキングウォール(tracking wall)」です。

デジタルマーケティングの未来に示唆を与える用語をわかりやすく説明する「一問一答」シリーズ。今回は、GDPR下においてWebサイトの訪問者が、コンテンツを閲覧するために自分のデータのトラッキングを許可しなくてはいけない仕組み、トラッキングウォールについて説明します。

これについて、知っておくべきことを以下にまとめました。

――トラッキングウォールとはいったい何ですか?



トラッキングウォールを利用しているWebサイトにアクセスしたユーザーは、自分のデータをそのサイトのパブリッシャーが広告目的で使用、保存することを許可しない限り、サイトのコンテンツを読んだり見たりできなくなります。サイト訪問者は、そのサイトが自分のデータを広告ターゲティングなどのトラッキングに利用することに同意しなければ、そのサイトのコンテンツにアクセスできなくなるのです。

――アドブロックの利用を禁止する仕組みと似ているようですが



たしかに、似た点があります。アドブロックを解除してもらう場合と同じように、アメとムチを用意することで、クッキーによる追跡に同意してもらおうというわけです。ただし、トラッキングウォールは非常に厳格な手法であるため、利用されることはめったにありません。現在のeプライバシー法では、クッキーデータを利用して追跡を行う場合に告知バナーを表示してユーザーの同意を得ることを、欧州のすべての国に義務付けています。バナーの「同意」ボタンをクリックしたユーザーは、オプトアウトしなかったという理由で、「暗黙的に」同意したとみなされるのです。

――この要件は、欧州全体で同じように適用されるのですか?



そんなことはありません。現在のeプライバシー法では、この要件をどの程度適用するかの判断は欧州各国に任されています。そのため、英国はオランダなどの国よりも穏やかなアプローチを採っています。たとえば、オランダの新聞サイト「デ・テレグラフ(De Telegraaf)」にアクセスしたユーザーは、自分のクッキーをパブリッシャーが利用することを許可しなければ、サイトの記事ページに進むことができません。したがって、オランダはトラッキングウォールを導入しても、英国ほど大きく混乱することはないとみられています。GDPR施行後の共通の問題は、暗黙的な同意だけでは不十分になることです。すべてのサイトが、訪問者から「明示的な」同意を得ることが必要になります。

――では、トラッキングウォールはいまより一般的になるのでしょうか?



それはわかりません。GDPRでトラッキングウォールが許可されるかどうかについて、業界の意見は大きく対立しています。理論的には、顧客に提示する利用条件を決める権利はパブリッシャー側にあります。広告事業者団体のIABヨーロッパ(IAB Europe)が作成したガイダンスには、同意することをサイトの利用条件にするかどうかはパブリッシャーが決定できると書かれています。とはいえ、これは簡単に判断できる話ではありません。

――どのような懸念があるのでしょうか?



同意は「自由意思によるもの」でなければならないと、GDPRは規定しています。しかし、業界で意見が割れている原因は、トラッキングウォールが本質的に、サイトのパブリッシャーだけでなく、そのサイトとリンクしているさまざまなサードパーティーが個人データを利用することに同意するよう、ユーザーに強制する手段になっていることにあります。サイトの裏側で行われている複雑なデータ追跡処理を、ユーザーが完全に理解することは事実上不可能です。

――問題を取り除く簡単な方法のようにも思えますが



それほど単純な話ではありません。パブリッシャーは、いったん同意を得れば、デジタル広告サプライチェーンのあらゆる場所で、そのユーザーデータが悪用されないよう保護する必要があります。そうしなければ、罰金を科せられる恐れがあるのです。厄介な話です。

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Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)
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