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●相性のいい「ビットコイン」と「旅行」

「ソウル3日間1.68万円」「台北4日間2.98万円」「バリ島5日間3.98万円」――。

一見、何の変哲もない格安旅行の宣伝文句だが、普段手に取る旅行パンフレットには書かれていないであろう単語が目に入ってくる。――『bitcoin決済限定商品』。

ビットコインとはインターネット上で取引される仮想通貨だ。株式のように価格変動が存在するため、新たな投資先として注目を集めている。相場は盛り上がりを見せ、2017年11月には、ついに1BTC100万円を突破した。

旅行会社エイチ・アイ・エスは、2017年9月23日に業界で初めてビットコインによる店頭決済を導入。『bitcoin決済限定商品』とは、同社がビットコイン決済を導入した際にキャンペーンとして実施されたツアーで、支払い方法をビットコイン決済に限定するという商品だ(販売はすでに終了)。

ビットコイン決済の導入から約2カ月。東京都内9拠点38店舗のエイチ・アイ・エスで開始されたビットコイン決済は、どの程度利用されているのだろうか。

○換金せずにそのまま使えることが消費のハードルを下げる

「ビットコイン決済は、約2カ月間で70名ほどご利用いただいております。意外だったのはキャンペーンで実施した限定商品のご購入だけでなく、一般商品をビットコイン決済でご購入される方が多いことです」

そう話すのは、エイチ・アイ・エス 関東販売事業部 販売管理グループ グループリーダーの吉野真司氏。最初のキャンペーン商品に利用者が集中して、その後減少していくのかと思いきや、定期的にビットコイン決済の利用があるのだという。

「ビットコイン決済を利用するために訪れる新規のお客さまもいらっしゃいますが、ビットコインで支払えることを知らずに来店されて、ビットコインで支払うことができるならばと、支払い方法を変えたお客さまもいらっしゃいます。今年の春ごろから、ビットコインで支払えないかという問い合わせをいただくようになり、お客さまの利便性向上のためにこの決済方法をスタートさせましたが、利益の使い道に悩んでいる方は多いのかもしれませんね」

少しずつビットコインによる決済が登場しているとはいえ、利用シーンはまだ限定的。急増するビットコイン保有者に対して決済手段の数が追い付いていないと言えるだろう。ビットコイン商品という目新しさに利用者が集まるだけではなく、普通に買い物をする感覚で決済方法の1つとして利用する人も多いようだ。

「また、ビットコインの価格が上昇傾向にあることも、購入を後押しする要因になっているでしょう。もうけを実感するのは何かを消費するタイミングですからね。仮想通貨のまま決済できることで、"ビットコインをやっているから旅行に行けた"というお得感をより味わえるのではないでしょうか」と、吉野氏はビットコインと旅行の相性の良さを語る。

特に浮利は豪華な食事や嗜好品の購入、趣味などの消費に向かいやすい。本来ならばなかったお金なので、何かにパーッと使ってしまおうと思う人もいるだろう。そう考えれば、確かに旅行はビットコイン利益の使い道としてよくフィットするのかもしれない。

だが、ビットコインを日本円に変換してから購入するには手間がかかる。まして、仮想通貨で生まれた利益分の貯金を取り崩すことは、心理的なハードルが高い。ビットコインで得た利益を消費に使う場合、"ビットコインのまま決済できる"ことが、手間もかからず、リアルなキャッシュに変えるよりも利用のハードルを低くするというわけだ。

「単価平均は一般の商品よりも約2万円高い傾向にあります。なかには100万円超えの商品を購入される方もいらっしゃいました。お客さまの属性としては30代が約30%と最も多く、40代が約25%、50代が約20%です。ファミリー層はあまりいらっしゃらないことから、ネットリテラシーと可処分所得の比較的高い方がビットコインを保有されているのかもしれません」と、吉野氏は利用者の傾向を分析する。

仮想通貨は現金よりも使用に対する抵抗がなく、ついつい財布のひもも緩くなってしまうのだろう。

●導入のハードルは社内調整だけだった

○価格変動のリスクは取らず、設備投資や運用負担もほとんどなし

新規顧客の獲得に加えて、平均単価も高い。いいこと尽くしのビットコイン決済だが、導入に際してシステム面や経理業務面などの障壁はあるのだろうか。

「ビットコイン決済にあたり、何か新しい決済システムを導入したわけではありません。決済の際はビットフライヤー社の提供しているアプリを使うため、設備投資や保守・運用費も不要です。そのため導入は非常にスムーズだったと言えるでしょう」

ビットコインで旅行代金を支払う際は、店舗のタブレットでビットフライヤーのアプリを起動し、表示されたQRコードを利用者がスマートフォンでスキャンするだけ。利用者とビットフライヤーの間でビットコインの取引が行われ、購入時のレートで換金される。後日ビットフライヤーからエイチ・アイ・エスに、代金分の日本円が振り込まれるという仕組みだ。

「われわれは一切ビットコインを保有しないため、価格変動のリスクを負うことはありません。極端な話、ビットコインそのものがなくなっても、経済的な打撃を受けることなく旅行事業は継続できます。帳簿上では一般的な商品と同様に円で支払われるので、特別な処理を行う必要もないのです。ただし、社内からは導入に対して慎重な声もありました」

2017年の8月は「ビットコインの分裂」が問題となった時期でもあった。仮想通貨の知識がないことも不安を増幅させる要因となり、社内からは導入に対して慎重な声がいくつも出てくる。システム的なハードルはなかったが、社内調整の難易度は高かった。

そこで吉野氏は、ビットフライヤーの協力も仰ぎ、社員に正しい知識を持ってもらうためにビットコインの仕組みを説明する機会を設けた。「ビットコインとは何か」という基礎から専門家によるレクチャーを社員に受けてもらうことで、仕組みやリスクについて理解してもらうことに成功する。

「社風として新しいものを取り入れること自体には抵抗はあまりないため、仮想通貨に対する心理的なハードルさえクリアできれば、導入に慎重な声はいつしか聞こえなくなりました」

ビットコインを保有するリスクもなく、設備投資もほとんどない。顧客の決済手段に選択肢が増えて利便性向上が見込めるならと、順調にビットコイン決済の導入は進んだ。

「導入してから目に見えない潜在的リスクが顕在化するかもしれないと覚悟していましたが、今のところは特に問題も起きていません。想定していたより利用者が多かったこともあり、業界で最初に導入できてよかったですね」

同社の決済方法はかつて現金のみだったが、顧客の利便性を重視してクレジットカード決済も導入。さらに、ビットコインで支払いたいという顧客の要望が出てきたことで新たな決済方法を導入することになった。

「もちろんほかの仮想通貨で支払いたいという要望が出てくれば、決済方法で追加することを検討するでしょう。ただし今のところは、ビットコイン以外の仮想通貨を導入する予定はありません。ビットコイン利用者は今後拡大していくと思うので、今後は導入店舗の拡大とオンラインでのビットコイン決済導入を目指したいですね。特にオンラインは最も間口の広いチャネルでしょう」

仮想通貨とより相性のいいオンラインでの決済が可能になれば、自宅でビットコインの取引をしながら、利益の一部を使って旅行商品を購入するといったこともできるようになるだろう。わざわざ店舗に足を運ぶ必要もないので、仮想通貨保有率の高いインバウンドの需要にも対応できるかもしれない。

盛り上がりを続けるビットコイン相場。このまま価格は上昇していくのか、正確に予想することは難しいが、ビットコイン決済の導入先が少しずつ増加していくことは想像に難くない。事業者は利益の使い道を示すことで、新たな"投資の楽しみ"としてサービスを提供できるようになるだろう。