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NVIDIAは12月12日〜13日、ヒルトン東京お台場にてGPUテクノロジーの最新技術に関するイベント「GTC Japan 2017」を開催した。GPUテクノロジーは今や、グラフィックスやHPCから、仮想化/リモートグラフィックス、VR(Virtual Reality)、自動運転まで、幅広い分野で欠かすことのできない技術となっており、会場は多くの来場者であふれかえっていた。

本稿では、特に来場者の多かったトヨタ自動車(トヨタ)による3DデータおよびVR/MR(Mixed Reality)の活用事例を取り上げたセッション「お客様の笑顔のために、もっといいサービスを」の模様をレポートする。同社は、VR/MRをどのように使いこなしているのだろうか。

○VRを教育やトレーニングに利用

今回のセッションに登壇したのは、トヨタ自動車 エンジニアリング情報管理部 情報管理企画室 主幹/デザイン統括部 開発推進企画室 主幹 栢野浩一氏だ。講演では、マイクロソフトの「Microsoft HoloLens」やヘッドマウントディスプレイ(HMD)、ホロデッキ等を用いた取り組みについて、国内外170地域以上で展開されるアフターサービス分野での活用事例を中心に紹介した。

栢野氏が所蔵するエンジニアリング情報管理部のミッションは、設計から販売、アフターサービスまでを含めた全工程に対して、データを基準とした業務遂行を推進していくこと。また、技術情報を正しくかつ漏れなく利用部署に提供することだ。

こうした活動の武器となるのが、車両まるごと1台分の3Dデータだという。かつては、膨大な数の手書きのイラストを利用して修理書や作業手順図などを作成していたというが、2007年からこれらをCADデータへ徐々に転換していくことで、イラストの作成工数は8割〜9割も削減した。

この取り組みを始めて10年。栢野氏は「10年間も活動していくとデジタルにアレルギーのない世代が育ち、より良いコンテンツを作ることができないか、ITをもっと活用できないか、という提案が上がってくるようになった」と評価する。こうして積極的にデジタル活用に取り組んできた流れから、最近では3D PDFやVRHMD、「HoloLens」などを活用した事例が増えてきたそうだ。

例えば、3D PDFはトレーニング教材として利用している。従来はモデルや紙の教材などを使ったトレーニングが行われていたが、この方法では、車の構造や挙動がわかりづらく、また勘やコツといったところを伝えるのが難しかった。

しかし、3D PDFであれば、PDF上で回転させたり、簡単なアニメーションをつけたりできるため、現物に近い表現が可能となる。また簡単に更新できるため、いつでも最新のものが確認できるという点もメリットだ。栢野氏によると、「わかりやすくて勉強になるということで、特に若い人には評判が良い」という。

3D PDFをきっかけに、さらに教材へのデジタル活用の取り組みは進む。次にトヨタが着目したのは、VRゲームだ。VRHMDを利用することで、ゲーム感覚で楽しく修理手順を学べるというもので、例えばドアのレギュレータの取り外しを順番どおりに行えるかといったことを確認することができる。同ゲームはUnityで開発されており、Webやモバイルからでも操作可能。

栢野氏は、「Unityはマルチプラットフォームなので他のものにも展開できて便利」と述べたが、このほかの事例についてもほぼUnityが用いられているとのことだ。

さらにトヨタでは、日本も含めたアジア4拠点から同じVR空間に参加して車の講習会を受けるという実証実験も行っている。このシステムでは、アバターを介して講師または生徒として講習会に参加することが可能だ。本来は出張して講習会を受講するのがベストだが、距離や時間の制約があり全員が参加することは難しい。VRを利用すれば遠隔でもわかりやすい講習をリアルタイムで受けることができる。

これらの事例を通して栢野氏は、VRを利用するメリットについて「実際のモノがない場合、準備が難しい場合に使うのが向いているため、教育、トレーニング関係には利用しやすい。リソースの節約や理解度の向上が見込めるほか、ログからデータ分析することでさらなる改善も見込める」と語っていた。

○「HoloLens」で修理作業をサポート

さらにトヨタでは、「HoloLens」の活用も進めている。車両修理の際、紙の修理書を見ながら修理を行う場合は、手順や部品名を覚えている必要があるが、「HoloLens」を活用すれば、部品の名前や修理手順などをその場で確認しながら作業することができる。ツールは複数台の「HoloLens」で共有できるため、修理の見積もりや、デザインレビューにも利用することが可能だ。

栢野氏は、「HoloLens」のメリットについては次のように語った。

「その時々で欲しい情報を空間に重ねて見ることができるため、現実にモノがある時に特に有効。さらに、VRとコラボレーションを行うことで、応用可能性は広がっていく。設計もデザインも生産技術も、さまざまな業務へ展開できるのではないだろうか」

○データ準備プロセスを確立させることが重要

一方で、データ活用の注意点として栢野氏は、「データ活用といっても、裏側に隠れているところが大事。データをしっかり準備する必要がある」と指摘。これまで専門家が使っていたようなツールが標準化されて、誰にも3Dデータが作成できるようになってきている。トヨタではCADデータのほか、マテリアルライブラリ、物理スキャナから数学的手法を用いてデジタルマテリアルを作るアルゴリズムなどを利用し、データ準備のプロセスを確立させている。

こうして、トヨタが積極的にデータ活用に取り組むのは、"もっといい車づくり"をしたいという思いが原点だという。栢野氏は、「これからも3DデータやVRを活用して、より良い車づくりとサービスを提供していきたい」と語り、講演を締めくくった。