順天堂大学日本医学教育歴史館より

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 順天堂大学は江戸時代後期創設の西洋医学塾が起源。医学部をはじめとした5学部・3研究科と、6つの医学部付属病院を有する健康総合大学として現在に至る。「教育」「研究」「診療」が人材育成の3本の柱だ。長い伝統を持つ医学教育の現在の姿を、学長の新井一氏に聞いた。

 ―建学の精神である“仁”はどのように受け継がれていますか。
 「仁は、他者を思いやる心のことだ。現代は先進医療の導入が進む。しかし、どんなにデータ重視になっても、臨床では医師やコメディカル(医療従事者)が患者の人生にどのような役割を果たすかを忘れてはいけない。『患者目線に立つことが医療の原点だ』と伝えている」

 「医学研究科には600人超の学生が在籍している。大学院教育は研究のバネだ。臨床と基礎の研究を進め、質の高い医療の提供に貢献する。付属病院では倫理面に十分配慮しつつゲノム医療や再生医療など、先端的な臨床研究を行っている」

 ―研究環境の整備で取り組むことは。
 「当校の本部は都心に位置し、スペースがコンパクトだ。そのため、学内の『研究基盤センター』に実験機器を集約した。各講座・研究室の研究者が集うため、自然と情報交換の場になっている」

 ―財政基盤の強化はどうでしょう。
 「教育、研究、診療の3本柱を高いレベルに保つためには、財政的基盤が必要だ。財の独立なくして学の独立はない。科学研究費助成事業などの獲得と、付属病院の収益は大きく、研究や教育の充実のために活用している。しかし収益を上げること自体が病院の目的にはなり得ない。患者中心の医療を提供することが本質だ」

 ―学生にとっての魅力はどこにあるでしょうか。
 「世界の大学ランキングでは日本の大学が苦戦している。大きなポイントは国際化の壁だ。本学では入学直後と秋の2回、全学部の1年生にTOEFLテストを受けてもらう。試験のスコアは、学生の海外留学のチャンスを広げる効果がある」

 「また、本学は海外から多くの留学生を受け入れている。学生が英語力を身に付けると、留学生との交流から視野が広がる。医療格差の大きい北米などの医療制度について議論することで、社会的視点が養われる。こうした経験は卒業後の多様な進路につながる」

(聞き手=安川結野)
【略歴】あらい・はじめ 79年(昭54)順天堂大医学部卒。同年同大医学部脳神経外科入局。88年講師、93年助教授、02年教授、08年同大医学部付属順天堂医院院長、11年同大大学院医学研究科長・医学部長、16年同大学長。医学博士。東京都出身、62歳。