いま「帰宅恐怖症の夫」が、日本中であふれかえっている。どうすればいいのか(写真:xiangtao / PIXTA)

読者の皆さん、初めまして。FP(ファイナンシャルプランナー)の寺門美和子です。FPだけでなく、夫婦問題カウンセラーとの「二刀流」で仕事をしています。この二刀流を生かして、読者のためになる「男女の間のおカネのお話」を中心に、どんどん書いていきます。早速、今回は最近グンと増えている「帰宅恐怖症の夫」にスポットをあてたいと思います。

「働き方改革」で「ヤバイ夫婦のヤバイ問題」があらわに

「夫婦問題カウンセラー業界」では、今年も有名人や有力政治家の不倫騒動の話題で大いに盛り上がったのですが、実は、カウンセリングの現場では「帰宅恐怖症の夫が急増中」という情報が寄せられています。

なぜでしょうか。まず、「働き方改革」によって残業に厳しくなった企業が続出しているという背景があります。2016年9月、安倍晋三首相は、内閣官房に「働き方改革実現推進室」を設置しましたが、そのすぐあとに電通若手社員の痛ましい過労死事件が改めてクローズアップされ、大きな社会問題となりました。それ以来、企業側は、「ブラック扱いを受けては大変」と必死です。

一方で、政府や一部の企業は「水曜日のノー残業デー」や「プレミアムフライデー」などのお祭り演出で盛り上げ、経済効果を生み出そうとしています。中には残業が減って買い物をしたり、スキルアップセミナーなどに通ったりと、時間を有効に使っている人もいるようです。しかし残業が厳しくなったことで、ちまたでは、一家の主である中年男性サラリーマンが退社後すぐに帰宅できず、夜の「町」をうろうろとしているのです。なぜ中年のサラリーマン男性は帰宅恐怖症に陥ってしまったのでしょうか。

そもそも政府は、「残業しない」=「早め帰宅で、一家団らん」(少子化対策か、浮いた時間で消費)という方程式を立てていたのでしょう。しかし、それは今の日本では、あまりに現実離れした考え方だったのです。

残業がなくなれば、平日の夕方以降夜までの時間、テレビでいえば「ゴールデンタイム」に家に帰れるはずです。しかし、長年父親が「実質的に不在」だった家庭はもちろん、子育てを妻任せにしている家庭では、もはや「父親の居場所など、あるわけがない!」のです。この実態を、政府は把握できていないようです。

今は、専業主婦など「少数民族」と化してしまった時代です。多数派である「働く奥さんたち」は職場から帰宅し、夕飯作りに子どものお風呂、次の日の準備で、19〜21時頃は忙しさのピークを迎える時間帯なのです。専業主婦ならなおのこと、そこに「今までいなかった夫」がいるのは、はっきり言って「うざい」。やれご飯だ、お風呂だ、「おかわり」などと要求されると、妻はまったく悪気はなくても、つい悪態をついてしまうのです。夫は夫で、子どもにTVのチャンネル権はとられるし、小さい子どもがいれば、休日のように「パパ遊んで」などと言われると、慣れていないので、それはそれでしんどい。

このように、狭い日本の家の中で、家庭内の人口密度が突然高くなると、誰かしら「機嫌が悪くなる者」が出てきて、従来の家庭の秩序が崩れてしまいます。そんなことが数回続くと、言葉にこそ出さなくても、「早く帰ってこないで!」と「家庭内の総理大臣」(妻)から宣言されてしまったも同然の夫が続出している、というのが現実なのです。

「帰宅難民の夫」は、いったい何をしているのか

ここで注目していただきたいのが、夫たちの逃げ場は「街」ではなく「町」が大部分だということ。つまり、人がたくさんいる華やかな場所に繰り出すのではなく、地元の町が多いのです。行き先は、ドトールやベローチェなどのカフェや、まんが喫茶など。もちろん、こうしたチェーンはとても便利な空間には違いないのですが、要はかなり地味目のところで時間を潰しているのです。それはなぜでしょうか?

理由は比較的簡単です。そもそも小遣いが少ないところに残業代までカットされているのですから、いよいよおカネがありません。特に、今まで会社のおカネを使ってきた社用族の人たちは、自腹を切ってまで「時間があるから、おいしいものでも食べよう」などとは思わないのです。

お酒を飲みに行くにしても、安い居酒屋どころか、日高屋や立ち食いずしの「ちょい飲みセット」で数百円程度。平均すれば一晩ワンコイン500円くらいが関の山。平日5日分なら2500円、月にすると1万円は超えてきますが、これくらいが「さびしい夜活」の費用なのかもしれません。しかも、おカネだけの話ではないのです。たまには会社の同僚や若手と飲むのもいいけど、仕事が終わって毎週のように飲みに行くほどの話題もない。1人でノートパソコンやスマホ相手に過ごしたほうが、精神的にも癒やされるのでしょう。

一方、妻たちはどうなのでしょうか? 多くの女性は何かしら「習い事」をしているようです。ダンス、フラワーアレンジメント、語学、その他のスキルアップ講座。費用は月5000円〜1万円はします。

実はこれだけでは終わりません。専業主婦や「パートタイムで働く妻」なら、その習い事の前後のお茶会やランチ会というイベントがあります。

女性のランチ会でのキーワードは「前菜がちょっとついて」+「パスタかメイン料理」+「デザート」+「ドリンク」。何しろみんなで行くので90〜120分は過ごせる場所を選びます。予算は1回税込み1200〜1500円くらい。40〜50代以降になると2500〜3500円くらいにハネ上がります。その分おいしくて有名なお店やホテルのランチブッフェに行けますからね。

ランチでないお茶会でも、値段はさほど変わりません。少なくともドトールやベローチェには行きません。とびきりおいしいスイーツのお店に行きます。これが週に1〜2回。こうした小さな幸せを、夫が急に早く帰ってくることで乱されたくはありません。

また、働く女性や、習い事で外へ行く女性はきれいでい続けたいものです。着るものだけでなく、最近は「マツエク」(人工まつげ、月に1回程の頻度で付け替える)やジェルネイルに通う人も多くなりました。どちらも安くて月5000円です。フルタイムやそれに近い状態働く女性の朝活・昼活の費用ともなれば、おおよそ月2万円弱から3万円弱になります。

「HEROパパ」として、復活できる方法がある

いっそのこと、帰宅難民化している男性は、この機会に女性のたくましい行動力を見習ってみたらいかがでしょう? たとえば夕方に1年くらいかけて投資の勉強や、料理の勉強をするとか。投資なら一石二鳥。頑張れば、お小遣い稼ぎになりますよね。

FPだからといって、無理やり投資の話をしているわけではありません。おカネの運用を無手勝流にやる方がとても多いのです。今は、信頼できるプロに伴奏してもらうという選択肢があります。しかもマネー講座は、ほかの習い事よりも割安です。1回や少数回で完結するものも、たくさんあります。

男性は女性よりもまじめですから、いざ「やる!」と決めたら、相当頑張るでしょう。たとえばその運用益で、すし折りやおいしいスイーツを持って「ただいま〜」と早く帰宅するのです(成功しなくても、です)。すると、どうでしょう。そこにはかつての「HERO パパ」がよみがえります。もし現状のまま、ただ早く帰宅するのはマナー違反(笑)。だから嫌われてしまうのです。ちょっと気の利いた手土産1つで、一家の平和が必ず訪れますよ。