現在の格安スマホ事業「楽天モバイル」の実店舗。携帯キャリア参入後は、こうした店舗が全国に広がるかもしれない(写真は銀座店、2015年10月のオープン時。撮影:風間仁一郎)

3社寡占の業界を“かき回す”存在になれるか。楽天は12月14日、携帯キャリア事業への新規参入を目指すことを発表した。

総務省が新たに割り当てる第4世代携帯電話システム(4G)周波数の取得申請を行い、その割り当てが認められた場合、楽天は移動体通信事業者としての事業を始める。つまり、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクに続く第4の携帯会社になるということだ。

まずは1500万ユーザー獲得を目指す

楽天は通信事業の運営を担う新会社を設立し、2019年中にもサービスを開始する予定だ。まずは1500万人以上のユーザー獲得を目指すという。大手3社の契約数は2017年9月末時点で、NTTドコモが7536万、KDDIが4966万、ソフトバンク3910万。これらにどこまで迫れるか。


楽天の三木谷浩史社長にとっては、通信キャリア事業はのどから手が出るほどほしいものだったかもしれない(撮影:大澤 誠)

携帯電話基地局の設置などの設備投資を行うため、楽天は銀行借入で資金を調達する。調達残高はサービスを始める2019年までに約2000億円、2025年までに最大6000億円となる見通しだ。

楽天にとって通信キャリア事業は、まさにのどから手が出るほど欲しかったパーツといえるだろう。同社がこれまで構築してきた「楽天経済圏」を、さらに盤石なものにする武器となり得るからだ。

楽天のビジネスモデルは今、大きな変革期にある。「これまでは楽天市場を中心にしたマーケット(EC=ネット通販)ビジネスの会社だったが、これからは会員情報を中心に据えたデータビジネスの会社になる」。11月に行われた決算説明会で、三木谷浩史会長兼社長はそう力強く語っている。

今や国内に1億人規模の会員基盤を持つ楽天。独自のポイントプログラム「楽天スーパーポイント」の累計発行額は1兆円に達している。最近ではネット上(オンライン)だけでなく、マクドナルド、ミスタードーナツなどの外食チェーン、大丸、松坂屋、ツルハドラッグなどの流通チェーンといった、オフラインの店舗でポイントの付与や利用を広げている。


マクドナルドなど全国的な外食・流通チェーンでの楽天ポイント利用を促している(撮影:梅谷秀司)

ユーザーの購買データを活用する一つの道として、楽天が目下力を注いでいるのが広告事業だ。

ネット広告やテレビCMの視聴データと、ECや店頭での購買データをすべて会員IDに紐付けて、広告効果をより正確に把握・分析することを売りにする。広告のターゲティング精度が上がることで、広告主とユーザー両方の利便性を高めたい考えだ。7月に設立した電通との合弁会社で挑む、新領域の事業である。

契約スマホで自社サービスへ誘導狙う

こうしたユーザーのデータを集める”入り口”といえるのが、やはりスマートフォンだ。楽天市場においては、すでに取扱高の6割がモバイル端末経由になっている。加えて、決済サービスの「楽天ペイ」、メッセンジャーアプリの「Viber(バイバー)」などの自社アプリもスマホでの利用が基本だ。

今後展開予定の通信事業と契約するスマホにこれらのアプリをインストールしておけば、それだけでユーザーを増やせる。通信プランの作り方や楽天スーパーポイントの付与方法を工夫して、各サービスの利用促進を図ることもできそうだ。


現在の楽天モバイルのような価格での攻勢をどこまでかけられるか(撮影:田所千代美)

楽天は2014年から、NTTドコモに接続料を支払って回線を借り、格安スマホ事業「楽天モバイル」を運営してきた。ここで得た知見をフルに生かしつつ、自前の回線で事業展開することで経営効率を上げる狙いがある。現時点で想定するサービスの詳細は明かされていないが、「より低廉で利用しやすい携帯電話の料金を実現し、社会全体の便益の最大化を目指す」(会社側)と自信満々だ。

どこまでも夢が広がりそうな挑戦ではあるが、やはり不安もある。既存の大手3社も利用者を奪われまいと、値下げやサービス改善など対策を講じてくるはず。楽天が第4の携帯キャリアとして無事にスタートを切れたとしても、思い通りに顧客基盤を拡大できるかは未知数だ。

1つの事業で最大6000億円という投資は、楽天にとって過去最大規模のものとみられる。その負担の大きさからか、14日の同社の株価は前日比で5%近く下落した。真にユーザーの支持を得る通信キャリアサービスを実現できるか。見極めるにはまだ時間がかかりそうだ。