12月14日、京急線を走った「白い電車」。その正体は塗装途中の新型車両だ(記者撮影)

「赤い電車」として知られる京急電鉄。12月14日午前、その線路上に「白い京急電車」が現れた。前面は見慣れた赤だが、側面はドアなどの一部を除いてほとんどが白。赤い電車に混じって走る青や黄色の電車が「レア車両」として人気を集める京急だけに、今度は白い電車の登場か?とも思ってしまうが、実はこの車両、塗装の途中だったのだ。

この車両の正体は、2018年1月から運行を開始する最新型の「新1000形17次車」。通常は全体の塗装を終えた後に車両メーカーから搬入されるが、今回は製造工程の都合で赤い部分の大半を京急側で仕上げるため、前面と側面の一部を除いて白だけの状態でメーカーの総合車両製作所(横浜市金沢区)を出場。隣接する金沢文庫駅から京急の線路上を走り、京急久里浜駅(神奈川県横須賀市)近くにある京急の工場に運び込んだ。

実は「塗っている」ことが珍しい

塗装途中の車両がほかの電車に混じって営業路線上を走るのは異例だ。駅や沿線では、見慣れない白い電車の出現に驚く利用者もおり、ホームで両親と電車を待っていた子どもは「びっくりした!」。珍しい車両を撮影しようとする鉄道ファンらの姿もあちこちで見られた。

白い状態で走っただけではなく、この車両の「色」にはもう一つの特徴がある。一般的には塗装せず、金属の銀色をそのまま生かすことが多いステンレス製の車体を全面的に塗装していることだ。関東の大手私鉄では初の試みで、京急でも全面塗装の新車は11年ぶりだという。

京急は2007年からステンレス製車両を導入しており、これまでは「顔」にあたる前面のみを塗装し、側面はラッピングを施していた。鉄道各社がステンレス製車両を導入するのは、塗装工程を省略でき、コストダウンや合理化に効果があるためだ。それらのメリットにあえて背を向け、全面的に塗装する狙いはどこにあるのだろうか。


金沢八景駅に停車する「白い電車」。鉄道ファンや利用者の注目を集めていた(記者撮影)

その理由について、京急の広報担当者は「京急といえばやっぱり『赤と白』というイメージを大切にしたかったため」と説明する。車両担当者によると、ステンレス車両に全面塗装を施したいという話は以前からあり、検討が具体化したのは2年ほど前からという。

だが、塗装を施すことで「手間は相当かかりますね」と車両担当者。現在、京急で全面塗装を行っている車両はアルミや鋼鉄製だが、塗料は「若干だが、アルミや鉄のほうがステンレスより塗りやすいと言われている」といい、単に工程が増えるという以上の手間がありそうだ。また、塗装することでコスト面についても1両あたり数百万円増えるという。

手間が増えても「らしさ」を

塗装ではなく、ラッピングでもほぼ全体を赤と白に仕上げた例はある。2016年に登場した新1000形の「1800番台」と「16次車」は従来よりもラッピングの面積を拡大して、ほぼ全体を赤と白のフィルムで覆った。


真っ白に塗られた車両の側面。ドア部分は「赤い塗装が間に合った」といい、下半分だけ赤く塗られている(記者撮影)

それでも今回、全面塗装に切り替えた理由について、車両担当者は「ラッピングだと赤の仕上がりが若干異なり、塗装と比べるとつやなどがだいぶ変わってくるため」と説明する。また、ラッピングは「曲面や凹凸部分が難しい」といい、全体をラッピングした車両でも窓枠やドアのふちなどは銀色が露出していた。このような部分も含めて全面的に色を付けたかったのも理由だという。

「手間やコストが増えても『京急らしさ』を求めたい」と広報担当者は話す。従来のステンレス車両を全面塗装にする計画はないものの、2018年度以降に導入する新1000形についても、今回と同様に全面塗装とする予定だ。

首都圏の通勤電車はステンレス製やアルミ製の銀色の電車が大半となった中、近年は全体に「色」のある電車も再び増えつつある。車体を黄色にラッピングした東京メトロ銀座線や、ブランドイメージ向上のため車体の色をネイビーブルーに変更しつつある相模鉄道などがその例だ。京王電鉄や東急電鉄東横線を走る、かつての緑色一色の車両を復刻したラッピング車両も、鉄道ファンだけでなく一般利用者の注目を集めている。

単なる移動の道具と思われがちな通勤電車だが、実はその色や雰囲気に親しみや愛着を感じている利用者は多いだろう。銀色の電車が増えた今、鉄道会社のイメージづくりにとって、「電車の色」の重要性は高まっているのかもしれない。