※写真はイメージです photo by node / PIXTA(ピクスタ)

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 神奈川県座間市のアパートの一室で男女9人の遺体が発見された事件で12月11日、白石隆浩容疑者(27)が殺人と死体遺棄・損壊容疑で再逮捕された。一連の事件での逮捕は3回目となる。

 白石容疑者は複数のアカウントを使い分けし、被害者はTwitterで死にたい気持ちをつぶやいていたと言われている。この事件の背景について、国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長の松本俊彦氏(精神科医)に話を聞いた。

 インターネットと自殺をめぐる事件は、20年前の1998年、ドクター・キリコ事件が起きている。ホームページ「安楽死狂会」の中にある掲示板でメンタルヘルスに関する相談をうけた管理人「ドクター・キリコ」を名乗った男が、重いうつ病患者で希死念慮が強い人たちに、青酸カリを送った。

「いつでも死ねる薬があれば、いまは死なないはず」と思ったからだ。しかし、飲んでしまった女性がおり、死亡する。それを聞いた男も服毒自殺した。

 その後、自殺系掲示板で心中相手を募集する「ネット心中」が起きる。2003〜04年に連鎖した。05年には、自殺願望を掲示板に書いていた男女三人を前上博(死刑執行済)が殺害する。苦しい表情を見たいという自身の欲望を満たすためだった。

 こうした事件が続き、かつ、SNSのユーザーが増えている現状を考えれば、「起こるべくして起きた。SNSが使われたという意味では今日的な事件」と松本さんは指摘する。被害者は「死にたい」感情を吐き出していたとされている。

 そもそもなぜ、SNSに「死にたい」とつぶやくのだろうか。気持ちをつぶやいていたアカウントは、ほとんどが「表垢」(普段見せている自分としてつぶやくアカウント)ではなく、「裏垢」(普段は見せない自分をつぶやくアカウント)だったりした。

「死にたい気持ちは告白しにくい。自分の置かれた状況を惨めなものと思っていますし、恥の感情があります。それに、死にたいとつぶやくのはかまってほしいと思われれる。それには度胸が必要です」(同)

 多くの場合、死にたいなどの感情は「表垢」ではつぶやきにくい。それは信頼できないからということもあるが、大切な人間関係だかたこそ、あえて言わないということもある。自己防衛でもあるのだ。

「死にたい気持ちを告白したとして、安易な励ましをされてしまったのなら、かえって精神的な負担がかかりますから」(同)

 そんな中で、「死にたい」と言うのは、次の2つの可能性があると、松本さんは指摘する。

「一つは、援助慣れしている場合です。過去に助けてもらえた経験があったりする。その中で、別の表現では動いてもらえなかったりしたことがあるかもしれません」(同)

◆希死念慮に共感してくれるのは加害者だけだったという皮肉

 また、別の可能性も指摘する。

「それは人に対する期待感でしょう。人に傷つているけれど、気持ちを知らせることで、何かしら受け止めてくれる期待感があるのでしょう」(同)

 事件では、白石容疑者が共感をしたふりをしながら、被害者たちに近づいた。自殺を否定せず、死ぬための方法を話すことができた。被害者にとっては信頼できる相手だった可能性がある。

「親身になって、しかも、頭ごなしに自殺願望を否定しなかったのが加害者だったのではないでしょうか。薬物依存症の人たちも、一番優しいのは売人だったと言っています。薬に手を出すときに、一番、理解をしてくれたと言うのです」(同)

 児童買春の事件でも、最も話を聞いてくれたのは、事件の容疑者だったというのを聞くことがあるが、それと似ている。

 そんな状況の中で、事件を繰り返さないためには何ができるのか。

「SNSの中で死にたいとつぶやている人を見つけるのは、出勤中に駅で倒れている人を見つけるのと同じかもしれない。そういうときにどうするのか?ということが我々に問われています」(同)

 しかし、実際には何ができるのか。「死にたい」とつぶやいたら、人工知能(AI)を使って、DMで支援情報を流すことができないかというアイディアもある。

 実際、Facebookは導入している。ただ、身近な人がSOSを発信した場合は、どうすべきか。リアクションをしすぎると、トラブルに巻き込まれる可能性がもあるが……。

「外から見ただけではわからない。例えば、子どもは秘密を持つものだし、親が知らないことで自責感を持つ必要はありません」

 こうした関係は前提の上で何ができるのか。

「強く関わろうとすると逃げてしまいますが、“あなたを心配している”というメッセージを伝えて欲しいです。ただし、死にたい気持ちを否定すると、コミュニケーションが終わってしまいます」(同)

 距離を取りながら、しかるべき援助機関につなげることがまず第一歩だろう。

<取材・文/渋井哲也>

【渋井哲也】
ジャーナリスト。「生きづらさ」のほか、インターネット・コミュニケーション、少年事件、ネット犯罪、自傷、自殺、援助交際などについて取材。講演活動も行う。近著に『命を救えなかった:釜石・鵜住居防災センターの悲劇』(電子本ピコ第三書館販)。