後継者が心掛けなければならないこととは?(写真:izolabo / PIXTA)

前社長は、心の中であれやこれやと案じている


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起業する。幸いにして、順調に成長する。そこから何年かして、経営者の頭をよぎってくることは、「事業継承をどうするか」ということでしょう。

すでに十数年、社長をしているとすれば、いつまでも続けているわけにはいかない。自分は会長になって、経営にタッチしない立場へと引退したい、ついては後継社長を決めなければいけない、と。

社長の座を引き継ぐ、ということは極めて重要な決断であり、後は野となれ山となれなどと考える人はいません。任せたあとも気になって仕方がない。「本当に大丈夫だろうか」と思うのが人情でしょう。さっぱりと引き継ぎを終えてしまえる人もいますが、そういう人は、極めてまれであり、また、ある意味すごい人だと思います。

普通であれば、自分の判断に間違いはなかったかどうかが気になる。それ以上に、新社長は、いろいろな困難に直面し、また、慣れない経営実務に戸惑っているのではないか、と気になる。指名委員会など委員会による指名も増えていますが、実質的には、前任者が後任を指名をするケースがほとんど。自分を指名してくれた前社長は、心の中であれやこれやと案じていることを、新社長は知っておくべきではないかと思います。

後継者が心掛けなければならないことは何でしょうか。ここでは、4項目挙げてみたいと思います。

まず第1に、前社長に何事も連絡、報告するべきです。ときに、判断を仰ぐことも躊躇してはいけません。心配している前社長も、そのような行動をとることによって安心し、もやもやとした心配が薄れていくと思います。そして3年目くらいからは、必要なこと、重要なことだけを連絡、報告する。おそらく、前社長は、その頃までには「新社長はうまくやってくれている。任せてよかった」と思うようになります。それを過ぎると、前社長のほうから、「もう、キミに任せたのだから、よほどでないかぎり、自分のところに連絡、報告に来なくていいぞ」と言ってくるでしょう。

後継者でトラブルが起きるパターンは決まっています。前社長が心配していることを知っていながら、新社長が前社長の心配を無視することです。結果、お家騒動になる。そのようなトラブルを避けるためにも、後継者たる新社長は、心ならずであろうとも、そのようなことを心掛ける必要があるのです。まずは、これが鉄則といえます。

創業者に協力してきた先輩たちには自負がある

第2に、新社長は謙虚であらねばならないということです。そのためには、先輩諸氏、周囲の人たちに意見を求める必要があります。いわゆる、衆知を集めるということが極めて大切になるのではないかと思います。

たとえば、ベンチャーを立ち上げ、懸命に事業に取り組み、無から有を作り出した創業者に協力してきた先輩、あるいは同輩の人たちには、それなりの自負がありますし、強い意識があります。

そのような中で事業を引き継ぐのですから、後継者たる新社長は、腰を低くして、先輩、同輩、後輩から教えを請うという姿勢がなければいけません。それを勘違いして、「自分が事業を引き継いだのだから、会社は自分独自の考えで進める。今までの考え、経営方針をすべて破壊し、私の考える方針に切り替える。あなた方の意見、提案を聞くようなことはしません」という意識で引き継ぐ新社長がいかに多いことか。

これをやってしまうと、社内に重苦しい空気が充満し始めます。社内の風はよどみ、不平不満が充満します。仕事はつねに組織プレー。お互いに軽やかな気持ちで、さわやかな風の中でこそ、大きな成果が上がるものです。にもかかわらず、周囲に反感が出てくれば、その協力も得られない。必然、大きな経営成果も得られないということになります。

「皆さんの協力をいただかなければ、円滑に経営を進めていくことはできません。ご指導ください。お力をお貸しください。ご助言ください」。そのような謙虚な姿勢であれば、社内もまとまり「いやいや、あなたもしっかりしているし、実力もあるのだから、思う存分やればいい。協力しますよ」ということになります。それが人情というものでしょう。

3つ目は、創業者や前社長の権威を積極的に活用するべきです。「自分はこう思う」と言うのではなく、「かつて創業者はこのように言っています」とか「創業当初の先輩に尋ねたら、このように言っておりました」というようなことを社員に話し、指示をする。自分の考えであっても、創業者、先輩、前社長の言葉を借りて、話をするように心掛けるべきです。

そうすれば、先輩社員も「苦楽を共にした前社長は、確かにそのように言っていた。なるほどなるほど」と感じ入ることになる。それに加えて、創業者の思いを新社長が自分自身の口であらためて語ることの意味は大きいのです。これによって、創業の精神、考え方が社内に貫かれるということになります。また社員も、創業精神を理解して敬っている社長を「立派な社長だ」と思うことでしょう。ここに謙虚さも加われば、社員は次のように感じるはずです。「新社長は自分たちの話も聞いてくれるらしい」。

徳川幕府の2代目、秀忠は、ことあるごとに「ご神君・家康公はこう言っておられた」「こういう考え方であった」と言い、あとに続いた将軍たちもそれに倣って、同じように「ご神君・家康公は」と口癖のように言い続けたようです。それが、徳川幕府が300年続いた1つの理由だと思います。つねに幕府300年の「中心点」「原点」が定まっていた、「座標軸」がぶれなかったということでしょう。いわゆる「権威の活用」が、いかに有効であるかを示しています。

4つ目に、とりわけ2代目社長の心得として書き添えておきたいのが、創業者の思いを血肉にすることです。2代目は、創業者の経営に対する考え方、思いを精緻に研究し、体系化する必要があります。普通、創業者は、昼夜兼行で、がむしゃらに頑張らなければならないため、なかなか経営理念をまとめ、成文化する余裕はありません。また、創業者の存在そのものが、そのまま経営理念だとも言えますから、わざわざまとめる必要もないということにもなります。

そこで2代目の後継者は、その創業者の思い、願いを研究し、体系化する。そして経営理念として成文化し、明確にするという作業が重要になってきます。思い、願いというものは、例えるならば、「水」のようなものです。その水をこれから代々引き継いでいくということになれば、次の人に、次の世代に一滴も漏らさず手渡しすることは不可能です。そこで、その水をいったん凍らせて、「氷」にすることが必要です。その作業が、「経営理念の成文化」、明確化ということです。

しかし、文字に書かれた経営理念は、先述のとおり「氷」。氷でご飯を炊いたり、煮物をすることはできない。ですから、実際の経営の場においては、氷をいったん水にして使わなければならないということは、しっかりと覚えておく、また、実践すべきでしょう。体系化、成文化した経営理念をそのまま活用してはいけない。現実に合わせて、水にして使いこなす。そのことは十分に理解しておくべきだと思います。

3代目をしっかり育成する

もう1つ、5つ目として付け加えておきたいことは同族企業の場合には、特に後継者の育成をきちんと行うことです。特に、2代目の社長は、自身の子息である3代目の育成をしっかりやらなければなりません。組織、会社というものは、3代目がその組織、会社の盛衰の分岐点に、往々にして、なるものです。しかし、3代目の育成はなかなか難しい。昔から「売り家と唐様で書く三代目」という有名な川柳があるように、3代目がうまく育つためには、困難が伴います。

なぜならば、3代目は生まれながらにして「殿様」です。それは創業者の孫でなく、生え抜きであっても同じようなことがいえます。2代目は、創業者の汗を見ている、後ろ姿を見ている。ですから、「こういうときに創業者は汗を流した。こういうときに創業者は涙を流した」ということを知っていますから、その苦労が実感としてよくわかっている。汗を流すこと、涙を流すことの大切さを、尊さを知っています。

しかし、3代目は、創業者の苦闘を知らない。無から有を作り出したときの激闘、必死を知らない。会社は、最初からあるもの、努力せずとも存在しているものと思いがちです。まして、3代目ともなれば、なにより周囲がおだてる。本人がいくらしっかりしていても、そういう環境であれば、考え方が甘くなる。

やがては「バカ殿」になって、「経営など、必死にやらなくても大丈夫だ」「自分は好きなことをして、経営は、周囲の者に任せておけばいい」などと思い違いをして、遊び気分で経営をやってしまうようになる。高層マンションに移り住んで、毎晩のように、ミーティングと称してミニパーティを開く。かくして、会社は、シロアリに食いつぶされ、あっという間に倒産してしまいます。

こうならないようにするためにも、2代目の社長は、後継者、すなわち3代目の育成に、大いに心をもちいていかなければいけません。以上の5点を後継者は、意識して行うことが大事ではないかと思います。