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●短期間で見えた成長と冷静さ

フジテレビのドキュメンタリー枠『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00〜 ※関東ローカル)で、10月15日・22日の2週連続放送された『人殺しの息子と呼ばれて…』が、あす15日(21:00〜22:52)にプライムタイムの全国ネットで放送される。

2時間枠で放送される今回は、前回放送時に未公開だった母・緒方純子受刑者からの手紙の内容や、息子の少年時代の証言、そして、再度息子に実施したインタビューの模様も加えて構成。そのインタビューアーである張江泰之チーフプロデューサーに、再会した息子から感じた"変化"などを聞いた――。

○北九州での放送後「本当に人に恵まれている」

同番組は、2002年に発覚した北九州連続監禁殺人事件の犯人の息子(24歳)が、初めてメディアのインタビューを受けたもの。顔は映さないが、肉声を公開するリスクを負い、想像を絶する証言の数々に大きな反響が集まり、「前編」の視聴率(ビデオリサーチ調べ・関東地区)は、日曜昼帯にもかかわらず6.3%、「後編」は10.0%に跳ね上がった。

マイナビニュースが前回張江氏を取材してから放送が終わると、6媒体から取材が殺到。フジテレビでは、現在英語版も制作中で、今後、海外のコンクールに出品していく考えだ。

こうした現状について、張江氏は「とにかくプラスの反響が多かったことにすごく驚いています」と心境を明かし、「ネット上でも、放送直前までザワザワしていましたし、マイナスの風が吹いたら息子にも申し訳ないので、本当に放送していいのだろうかと思っていたんです。息子に話したら『なにビビってるんですか』って言われてしまったんですけどね(笑)。それが、放送を終えたら、追い風どころか、息子の生き方に対する称賛の声も多く集まってきて、本当に私自身も驚きましたね」と振り返る。

番組宛てには、直接本人に渡してほしいという視聴者からの手紙が数多く届き、それを全部送ると、息子も勇気づけられたそう。11月にはテレビ西日本で放送する話が持ち上がり、在住する北九州でも視聴できることから、息子はさすがに「特定されたら引っ越します」と、ネガティブな心境になったようだが、放送後には「大丈夫でした。会社に気づいた人もいたようだけど、あえて話しかけてこなかったし、本当に人に恵まれている」と話していたそうだ。

○「自分も変わらなきゃいけない」

張江泰之1967年生まれ北海道出身。中央大学卒業後、90年にNHK入局。『クローズアップ現代』『NHKスペシャル』などを担当し、05年にフジテレビジョン入社。『とくダネ!』やゴールデン帯の特番などを担当し、14年から『ザ・ノンフィクション』チーフプロデューサー。現職は、情報制作局情報企画開発センター部長。

そして今月上旬、再びインタビューを行うため、北九州で息子に3カ月ぶりに再会した張江氏は、その時の彼の印象について「この短期間で、ちょっと成長したような感じなんですよ」と、"変化"を発見した。具体的には「前は母親に対して憎しみの言葉ばかりだったんですけど、今回は『自分も変わらなきゃいけない』っていう発言が出ていた」という点。前回の放送で、両親の面会にはもう行かないと宣言していたが、実は、その後に足を運んでいたのだという。

父・松永太死刑囚への面会は2回試みたが、1回目はあの父親に、初めて自分の言いたいことが言えたそう。2回目は面会拒否されたが、その後手紙が届き、最後に「一応の父より」と書いてあったそうだ。このことは、今回の放送で息子から語られるが、張江氏は「やっぱり息子に対して、済まないっていう気持ちもあったんでしょうね」と推察する。

別の"変化"は「前回はわれわれに、一生懸命身振り手振りをして話していたんですけど、今回は手元を撮っても全然動かないくらい落ち着いていたんです」という点。さらに、インタビュー終了後、すぐにLINEで「今日はありがとうございました」とメッセージが届いたそうで、張江氏は「そんなことを言う青年ではなかったんですよ」と驚く。「やはり、前回の放送によって、自分の生き方がここまで人々の心を打ったということで、話して良かった、報われたという思いがあったようです。それまでは、何も言えずに堪えてきた人生だったので、それが解放されたということではないでしょうか」と解説した。

ちなみに、息子には妻がおり、伝えていなかった過去もあったため、放送への反応に不安があったそうだが、視聴した妻から「今さらのことだよね」とひと言かけられ、「すごく救われた。ああ、こいつ(妻)に感謝しないといけないな」と、ホッとしていたそうだ。

●同じような境遇の人をサポートしたい

こうした変化もあって、今回のプライムタイムでの全国放送に対し、「息子は、自分の思いが全国に伝わるのであれば、一緒に番組を作りましょうっていう感じなんです」といい、最近ではよく「自分と同じような境遇の人たちをサポートするような仕組みができないか」と張江氏に話すほど、ある種の使命感も芽生え始めた様子。

むしろ、張江氏が遠慮がちになると、「もっとぶつかってきてほしい」と受け止めようとする態度をとるそうで、張江氏は「最近はお互い平気でケンカになったりして、確実に距離が縮まってる感じがあります。決して親子の感じではなく、"同志"の感じで見てるんですよ。今まで、何かを一緒にやるとか一緒に遊ぶ人がいなかったので、そこが彼の中で大事なことなんです」と分析する。

放送時間が上がっても、息子が目撃した両親による残忍な犯行の表現はカットせず、「あくまで直球勝負で行きます。例えば、ナレーターを有名な俳優さんにお願いするという考え方もあると思いますが、そんな小手先のことをやっても何も意味はないので、息子の気持ちをお茶の間にどう届かせるかということを意識しています」と、鋭意編集中。

放送日は、日本テレビで映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の地上波初放送、テレビ朝日で『金曜★ロンドンハーツ3時間スペシャル』、TBSで『中居正広のキンスマスペシャル』という強力コンテンツが裏番組に編成されている中、「息子の生声をベースに2時間放送するというのは、視聴者に届くのか…。心配でもあるんですが、われわれ現場からぜひ全国放送でやりたいと訴え、編成担当者も受け止めてくれたので、奇をてらわず勝負します」と意気込んだ。

○『ザ・ノンフィクション』に追い風

『人殺しの息子と呼ばれて…』で大きな反響を受けてから、『ザ・ノンフィクション』への"追い風"を実感しているそうで、「前日の放送が、翌日に話題になるっていう、昔よくあったテレビの見られ方をしてる感じですね」と手応えを語る張江氏。『人殺しの息子と呼ばれて…』はイレギュラーな形だったが、「女性目線のネタに徹底するという取材方針は、変わらずやっていきます。ただ、『ザ・ノンフィクション』という枠にとらわれてしまうと窮屈になってしまうので、冒険的なテーマもやって、カラフルなラインアップにしていきたい」と意欲を示した。

それを踏まえ、今後は12月24日に、日本の有名ラーメン店主が上海に出店するドタバタを描く作品を予定。年明けには、番組史上初となるアメリカ・スペイン・カナダの3カ国取材で、大西洋のクロマグロを追いかける作品を予定し、張江氏も「一本釣りでどんどん獲れていく。とにかく画がすごいです」と太鼓判を押す。そして、人気シリーズ『雄太とユキノ』は、2人がついに結婚することになり、「涙、涙の放送になると思います」と予告した。

来年春で『とんねるずのみなさんのおかげでした』『めちゃ×2イケてるッ!』というゴールデンタイムの2つの看板バラエティが終了するフジテレビだが、一方で、今年10月には、東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(1988〜89年)の宮崎勤元死刑囚の取り調べでの肉声、暗殺された金正男氏の生前最後の映像と、報道・情報番組のスクープが連発。今回の『人殺しの息子と呼ばれて…』がプライム帯で実績を出せば、白紙ベースでの見直しを表明している今後のタイムテーブル作りに、影響を与えることもあるかもしれない。