たとえばこの試合、後半は中国にペースを握られたが、それを押し返したのは今野、加えて川又の働きが大きかった。
 
 川又が前線で起点を作り、相手にクリアされても、それを果敢に今野がインターセプト。2次攻撃、3次攻撃で敵陣に押し込んだ。終盤の今野はかなり前へ出てパスを受けたり、サイドに出てボールキープしたり、「とにかく、あのポジションにいろと言われた」というアンカーの指示をひっくり返すような攻撃を続けている。
 
「正直、焦ってましたよ。勝たなくちゃいけない相手だって、やっていて思ったし。チャンスを作れたぶん、点取らなくちゃいけないって」
 アンカー(錨)を忠実に守ろうと試合に入った今野だが、終盤に近づくと、それを自らの判断で外し、アグレッシブに出た。その結果、カウンターで失点する危険、あるいは2年半前のように監督に交代を命じられる可能性もあったが、今野は自分でリスクを負い、思い切って戦術的なブレークをした。それがなければ、おそらく試合は0-0で終わっていたはず。
 
 井手口陽介もうまくカバーした。30分から負傷した大島僚太に代わって井手口が入り、攻撃面では流れが停滞したことは否めない。しかし、守備のできる井手口に代わったことで、今野が前に出たときのカバーは、この同じガンバ大阪のMFが柔軟にバランスを取ってくれた。どっちが若手で、どっちがベテランか、わからない。
 
 とにかく、目の前。1試合、1試合。
 
 野心を秘めた20代とは違い、最近の今野は、純粋に日本代表でプレーすることを、サッカーをすることを楽しんでいるように見える。そのリラックス具合が、何よりも心強い。「正直、焦ってましたよ」という表情にすら、余裕を感じる。それは最終予選のアウェーのUAE戦(2-0)でも感じたことだ。
 
 規律に厳しいハリルジャパンだけに、今野が吹き込む風を心地よく感じる。34歳の伸び伸びとしたプレーは、指示をこなすことに脳みそを握られがちな若い選手に、あるいは結果が出ないことに悩む選手に、良い影響を与えるのではないか。
 
取材・文●清水英斗(サッカーライター)