航空自衛隊が調達を予定しているF-35Aステルス戦闘機(出所:航空自衛隊)


 日本国防当局は、航空自衛隊の戦闘機から発射する長距離対艦巡航ミサイルを導入することを発表した。

 ミサイルの種類としては、空自で調達が開始されている最新鋭F-35Aステルス戦闘機に搭載する「JSM」(ノルウェー、コングスベルグ社製)、空自の現主力戦闘機F-15Jを改装して搭載可能な「JASSM-ER」「LRASM」(共にアメリカ、ロッキード・マーチン社製)がリストアップされている。

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

方向性は島嶼国家防衛の鉄則に合致している

 小野寺五典防衛大臣によると、「海上自衛隊艦艇を攻撃しようとする敵艦艇を、敵のミサイル射程圏外から、空自戦闘機が発射する長距離巡航ミサイルで攻撃することが可能となる。とりわけ北朝鮮の弾道ミサイル防衛に従事するイージス駆逐艦を防御するために、この種の長射程ミサイルの導入は不可欠である」という。

アメリカ空軍機によりテスト中の「JSM」(オレンジ色のミサイル、写真・米空軍)


 たしかに、現在空自が保有している空対艦ミサイル(93式)、海上自衛隊が保有している艦対艦ミサイル(90式)、そして陸上自衛隊が保有している地対艦ミサイル(88式、12式)はいずれも最大射程距離が200キロメートル以下であり、中国海軍の最新式艦対艦ミサイルや艦対空ミサイル、それに対地攻撃ミサイルの射程圏外から、中国艦隊を攻撃することはできない。

 それらの現有対艦ミサイルと違い、JSMの最大射程は500キロメートル、JASSM-ERの最大射程は930キロメートル、そしてLRASMの最大射程は560キロメートルであり、最大射程400キロメートルの対艦ミサイルを装備している中国海軍艦艇と海上自衛隊が戦闘を交える際に、中国艦艇の攻撃射程圏外から中国艦艇を攻撃することが可能となる。このようなスタンドオフ対艦ミサイルを装備することによって、海上自衛隊艦艇の防御が強化されることは間違いない。

 ただし、「北朝鮮の弾道ミサイル防衛に従事する海自イージス駆逐艦を防御するために、スタンドオフ対艦ミサイルが必要」という説明は意味不明であり説得力に欠ける。なぜなら、北朝鮮の弾道ミサイルは、アメリカが北朝鮮に先制攻撃を加えない限り、日本に対して撃ち込まれることはあり得ない。すなわち、上記の説明は、北朝鮮を中国軍が支援して日本と戦闘を交える状況にしか該当しないからだ。

 だが、このおかしな説明部分には目をつぶれば、「日本に軍事侵攻を企てる中国艦艇や航空機が装備する各種巡航ミサイル(対地、対艦、対空)の射程圏よりも長射程の巡航ミサイルを手にする」という方針は、「敵海洋戦力を日本の領域からできる限り遠方で撃退し、日本領域に寄せ付けない」という島嶼国家として遵守すべき原則に合致した正しい国防方針ということができる。

日本にも造り出す能力はある

 しかし、国防当局の姿勢には大きな疑問も付きまとう。なぜ、その方針を実施するための道具を外国から調達するのかという疑問である。

 小野寺大臣が公言しているように、海自艦艇の作戦行動の安全性を確保するのが、JSM、JASSM-ER、LRASMを輸入する目的であるならば、敵のミサイル射程圏外から敵艦艇を攻撃可能なスタンドオフ対艦ミサイルを日本自身が開発して調達すればよいのである。

 もちろん、日本にそのような長射程巡航ミサイルを開発する技術力が存在しなければ輸入に頼らざるを得ない。しかし、上記の射程距離200キロメートル以下の各種対艦ミサイルはそれぞれ射程距離や精度の向上が図られており、政府がゴーサインを出せば、技術的には中国海軍に対するスタンドオフ対艦ミサイルを開発する技術力・製造能力を日本は保有している。

実戦配備まで時間がかかりすぎる

 また、「日本周辺、東シナ海、そして南シナ海の軍事情勢は緊迫の度合いが急激に高まっており、一刻も早く長射程対艦巡航ミサイルを手にする必要がある。日本独自の各種長射程対艦ミサイルの開発を待っていたのでは遅いため、JSM、JASSM-ER、LRSAMを輸入する」というのであれば、それも理に合わない。なぜならば、それらの外国製スタンドオフ対艦ミサイルの実戦配備が可能になるのは、どんなに早くとも4〜5年は待たなければならないからだ。

 ノルウェーのコングスベルグ社が開発中のJSMが作戦運用可能になるのは2025年とされている。また、それを搭載する空自の新鋭F-35A戦闘機も、2021年以降に予定されているバージョンアップを経なければJSMを搭載することができない。

 JSM同様、ロッキード・マーチン社が開発中のLRSAMが実戦配備が開始されるのも数年後からである。当然ながら、アメリカ空軍から調達配備が開始されるため、空自が手にするにはさらに年月がかかることになる。

 JASSM-ER(米国内での調達価格は1発135万9000ドル)は既に実戦配備されている。しかし、JASSM-ERを搭載する予定の空自のF-15J戦闘機は、敵戦闘機との戦闘を想定して設計されている。そのため、艦艇や地上目標を攻撃するためのF-15E戦闘爆撃機に相当する能力を持たせるように大改装しなければ、JASSM-ERを運用することはできない。このような大改修を多数の戦闘機に施すには、かなりの年月と莫大な費用がかかる。つまり現在実戦配備中のJASSM-ERといえども、空自が実戦配備するまでには数年は必要となる。

 要するに、「国産の各種対艦ミサイルの射程を延長させてスタンドオフ対艦ミサイルを生み出すには時間がかかるため、手っ取り早く実戦配備するために海外から輸入する」という理由には説得力がないのである。

 アメリカやノルウェーからスタンドオフ対艦ミサイルを調達して、空自に実戦配備されるまで4〜5年近く、あるいはそれ以上も年月を要するのであるならば、むしろ日本自身が現有の対艦ミサイル技術を基にしてスタンドオフ対艦ミサイルを生み出した方がはるかに早く配備でき理にかなっている。

兵器の安易な海外依存は危険

 兵器や防衛装備を外国製に依存しているのは、食料や飲料水を海外に依存しているのと類似している。もし、供給国の都合で重要部品などの供給がストップした場合、それらの輸入兵器は使用できなくなってしまう。

 今回のスタンドオフ対艦ミサイルを海外から調達するという発想に限らず、日本政府は、主要兵器や各種装備を安易に輸入(それも主としてアメリカから)に頼ろうとする傾向が強すぎる(参照:本コラム「不可解極まりない『時代遅れのAAV-7』大量購入」)。

 そもそも、国防力とは、軍隊の規模や能力だけでなく、兵器や装備を生み出す力も重要な要素であることを日本国防当局は失念しているのではなかろうか?

 日本自身が生み出す技術力の製造能力を保有している兵器や防衛装備に関しては、国際常識に合致させて、極力日本自身の努力によって造り出さねばならない。日本政府は、スタンドオフ対艦ミサイル導入という正しい政策を実現させるために、安易に外国製ミサイルを輸入するという誤った手段を撤回する必要がある。

筆者:北村 淳