みずほ銀行の店舗

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 みずほ銀行が、新たな勘定系システムを9年がかりで完成させた。同システムは約4000億円を投じる、まさに社運を賭けたプロジェクトだった。

 しかし、その道のりは決して平たんではなかった。みずほ銀行は過去2度にわたり本格稼働の時期を延期している。それだけに、永遠に未完のプロジェクトであるサグラダファミリアになぞらえらることもあった。

 ついに、みずほ銀行はシステムを完成させるに至る。2018年秋には、新システムが稼働する。同システムが稼働することにより、みずほ銀行を含むみずほフィナンシャルグループ(FG)は人員を1万9000人削減できると試算。いきなり2万人近い人員がリストラされることはないが、今後10年間かけて緩やかに人員が削減されていく。

 また、システムの完成と機を同じくして、みずほ銀行は地方の住宅ローン業務から撤退することを示唆した。今般、マイナス金利政策により、銀行は本来の業務である貸出業務では利益を得にくい状況に陥っている。特に、住宅ローン金利は低位で推移しており、それらを手掛けるための人員配置などは銀行にとって大きな負担でもある。住宅ローン部門を削ぐことで、身軽な体質への転換を図るのが狙いだ。

 人員削減・店舗縮小といった経営の合理化を進めている金融機関は、みずほ銀行だけではない。同じく三大メガバンクの三菱UFJFGも店舗数2割削減を表明し、人員も1万人削減することを予定している。

 東京圏・名古屋圏・大阪圏・福岡圏という4大都市圏の地域では、いまだメガバンクは強く、撤退は検討されていない。あくまでも撤退の対象になっているのは地方都市だ。みずほ銀行が住宅ローン撤退を検討しているのも東北地方。つまり、メガバンクは明らかに地方都市に見切りをつけつつある。

 地方都市では、日本全体で営業するメガバンクよりも地域に根差した営業を続ける地銀が幅を利かせてきた。それだけに、メガバンクが入り込む余地は小さかったのだ。地元経済界の名士でもある地銀の影響力は、メガバンク以上に大きい。実際、ある地方自治体の職員は「メガバンクとの付き合いを疎かにするわけではないが、やはり地元に根差した地銀との付き合いのほうが重要だ」と話す。

●支店経済都市

 そうした地元では絶大な権勢を誇った地銀も、かなり厳しい経営に追い込まれている。もともと地銀が貸出業務の得意先としてきたのは、地場産業などを手掛ける地元の中小企業ではなかった。地銀が得意としてきたのは、大企業の支店・営業所だった。それらは地方都市の経済と雇用を下支えしていたが、近年は経営合理化を名目に統合・再編されつつある。当然ながら、その余波は地元を直撃した。

 これまで、地方都市でも人口30万規模なら大企業の支店などが置かれることは一般的だった。それによる経済的な恩恵を受ける都市は“支店経済都市”とも呼ばれ、大企業の業績に大きく左右されることがある。それでも「大企業が地方にもたらす財源的なメリットは大きい。中小企業の比ではない。大企業を誘致できた市長は、次の選挙でも安泰」(前出・地方自治体職員)と言われるほど、地方の大企業依存体質は強かった。

 しかし、いまや事情は大きく異なる。大企業も支店や営業所を統合・再編して数を減らしている。これまで30万人規模の都市に置かれていた支店等は撤退し、今では人口70〜80万人規模の都市でなければ、開設されなくなっている。つまり、銀行の再編という業界の荒波が支店経済都市という概念を崩壊させた。元総務省職員は言う。

「2000年頃まで、知事や市長には旧自治省(現・総務省)出身者官僚が多くを占めていました。自治省の役人は自治制度に精通しており、地方の実情も把握していますから、中央政界に補助金などの陳情をするのにはもっとも適していたからです。しかし、小泉政権で地方への補助金が削減されてから事情は一変しました。いまや、知事や市長は民間企業を誘致できることが手腕として問われます。そのため、2000年以降は、経済産業省出身の知事・市長が地方からもてはやされるようになったのです」

 とはいえ、人口減少が加速し景気が低迷している現在では、財界に顔が利く経済産業省出身者を首長に据えても簡単に大企業を誘致することはできない。そうした苦しい地方自治体に追い打ちをかけたのが、メガバンクの地方撤退だった。前出・地方自治体関係者は「このままでは、地方都市の駅前から銀行が消える」といった事態を危ぶむ。

●疲弊する地銀

 以前なら、こうした地方経済を担う中小企業を支える役割を果たしたのは地銀だった。しかし、地銀も縮小する地域経済で体力が残っていない。体力のある地銀同士が合併して延命するのに精一杯だ。しかも、合併による延命策を取ったことで、皮肉にも地元の中小企業との関係性が薄れてしまったため、中小企業は合併して新たに誕生した地銀から融資を受けにくくなり、経営が苦しくなるという現象も地方では起き始めている。合併で中小企業離れを起こす地銀、そしてメガバンクの撤退。ITと金融が融合したフィンテックの進化と普及。複数の原因によって、さらに銀行は地方から支店や営業所を撤退させていくだろう。

 このままメガバンク・地銀の再編が進むことで、地方都市から金融機関は軒並み消える。それは、地方都市の経済が冷え込むことを意味する。メガバンク・地銀の統合・再編劇は金融業界の話にだけとどまらない。これまでなんとか命脈を保ってきた地方都市と地方経済が、メガバンク撤退でトドメを刺されるのだ。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)