就職みらい研究所の岡崎仁美所長

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 リクルートキャリアの研究機関「就職みらい研究所」は毎年、卒業予定の大学生・大学院生を対象に「働きたい組織の特徴」という調査を実施している。同調査では就職活動を行う学生たちの本音が吐露され、企業が採用活動を進める上でも重要な指針となりそうだ。

 最新の調査結果から、旧来型の経営スタイルは採用活動のみならず、経営全体にも大きな影響を及ぼすことが明らかになった。また、2018年度から大学の入学者数が減少し、彼らが就職する22年度には人手不足が今よりも深刻な局面に入ることが予想される。

 同所所長の岡崎仁美氏は、「今が会社の体質を変えるチャンス」「ダイバーシティー経営が肝になる」と提言する。今の就活生は何を考え、人気を集めるのはどんな会社なのか。岡崎氏に話を聞いた。

●「承認欲求」と「所属欲求」が強い就活生たち

――「働きたい組織の特徴(2018年卒)」の調査結果から、どんなことが見えてきますか。

岡崎仁美氏(以下、岡崎) まず、ワークスタイルとしては「仕事と私生活のバランスを自分でコントロール」が全体の86.4%と圧倒的な支持を得ています。

 経営スタイルについては「安定し、確実な事業成長を目指している」が82.7%の支持で、貢献と報酬との関係では、一時期は実力主義志向もありましたが、最近では「入社直後の給与は低いが、長く働き続けることで後々高い給与をもらえるようになる」の支持が高まっており、79.2%でした。

 このほか、「歴史や伝統がある企業である」の支持も76.4%と高く、就活生がより保守的になっているという傾向が見て取れます。

――より保守的になった就活生たちは、終身雇用を望んでいるのでしょうか。

岡崎 そうともいえません。たとえば、「自分のキャリアステップは自分で考え、実現に取り組むことが求められる」の支持は59%です。そして、「特定の地域で働く」の支持は62.5%、「現場の社員主導で事業運営が行われている」の支持は66.8%です。

 保守的でありながら現実主義な面も見えてきます。今の就活生は、社会的に信用があるとされていた大企業が突然行き詰まるケースなどをいくつも見てきているため、「この会社は将来にわたって続くか」という点について、慎重に吟味する傾向があります。

 そのため、自身の成長スタイルについても「どこの会社に行ってもある程度通用するような汎用的な能力が身につく」の支持は70.4%で、その会社でしか通用しない独特な能力のスキルアップについては意欲が低いです。

「人生100年」といわれる時代において、ひとつの会社に勤め上げるなどといったことにリアリティがなく、生涯のなかで複数の仕事に就くであろうことを、感覚的に認識しています。それゆえ、どの会社でも通用するようなスキル開発に貪欲なのでしょう。

 また、これまで総合職は人事異動による転勤が当たり前でしたが、社内外で多様な人脈を構築することに対して高い意欲があります。「特定の地域で働く」の支持が高いことの、ひとつの要因でしょう。

「承認欲求」や「所属欲求」は本能的なものであるといわれていますが、さまざまなデータから見て、近年の大学生や大学院生はそれらが強いという傾向が明らかです。

●就活生が嫌う「ワンマン社長」「ストレス」

――今回の調査では、14年卒から18年卒までの経年比較があります。そこで注目すべき点はなんでしょうか。

岡崎 経営スタイルの面で「安定し、確実な事業成長を目指している」「現場社員主導で事業運営が行われている」への支持が増えています。よく「大手志向」といわれますが、もっと踏み込んで分析すれば「安全志向」が高まったというべきでしょう。

 ちなみに、ワンマン社長にありがちな「経営者主導で事業運営が行われている」への支持は大幅に減少しました。

――中小同族企業のなかには、「会社は家族であり、社長は父であり、社員は息子」「息子は親の言うことに絶対に従え」と忠誠を誓う会社もありますが、そういう会社は採用が厳しくなるということでしょうか。

岡崎 「会社は家族」という考え自体に若者たちが背を向けているわけではないと思います。ただ、調査結果を踏まえると、経営者主導の経営には支持が集まりません。

 それは、これまで受けてきた教育の影響も考えられます。今の就活生は、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育む、いわゆる「総合的な学習の時間」の導入以降に小学校に入学した世代です。先生との関係も、必ずしも上下一辺倒ではないスタイルが広がりました。

 ベンチャー企業のなかには、社長と社員は“親子関係”ではなく“お友達感覚”で、共同経営のスタイルを採用する会社もあります。また、フリーアドレス制度を採用して、社長のデスクすら位置が決まっていない会社もあります。そういったスタイルの会社のほうがなじみやすいのでしょう。

――ワンマン社長の会社は「短期で成長できるが、体力的・精神的にストレスが大きい」というケースが多いですが、就活生からは支持されないということですね。

岡崎 これは、今後の人生設計にもかかわることです。長寿命化している今、70〜75歳まで働く社会が来ることを就活生たちは予見しています。そのため、「短期で成長できたとしても、精神的なストレスが重ければ、早々に息切れしてしまうからナンセンスだ」と感じるのでしょう。この傾向は、2018年卒のデータでさらに顕著になりました。

 関連して、ワークスタイルについても「仕事と私生活のバランスを自分でコントロールできる」の支持が圧倒的に増えています。男女問わず、「生活の基盤は自分でつくる」という覚悟が前提にあるのではないでしょうか。

●2022年以降、採用活動はさらに激化か

――福利厚生の捉え方については、いかがですか。

岡崎 「個人の生活をサポートする制度(休暇制度や各種手当など)を充実させる代わりに、給与は低い」の支持は全体で73.4%でした。バブルの頃の学生も福利厚生を重視する傾向がありましたが、今の学生はそれとはちょっと異なっているように思います。「シェアリングエコノミー」という言葉もありますが、「このようなサービスはシェアしたほうが有利」という損得勘定も見え隠れします。

――これらのデータを踏まえると、中小企業の採用にとってはかなり厳しい印象です。採用活動にあたっては、経営スタイルも大きく変化させるべきですね。

岡崎 今の就活生は「承認欲求」と「所属欲求」が強い傾向にあると述べました。ほかに、「一人ひとりの個性を生かせるか」「会社に居場所があるか」を気にする傾向もあります。そのため、従来型のワンマン経営の会社は、各社員の個性を生かして多様性に富んだダイバーシティー経営に舵を切るタイミングに来ているのかと思います。

 会社には、毎年一定数の定年退職者が出ます。定年を延長したとしても、高齢の社員はいつか引退します。そのため、若手社員を採用していかなければ会社の存続が困難になります。私がダイバーシティー経営に乗り出すことを推奨する理由は、会社の存続にもかかわってくる問題だからです。

――「ダイバーシティー経営が会社存続のカギを握る」というのはうなずけます。これは、今がラストチャンスではないでしょうか。

岡崎 今、人手不足は企業の成長を阻害する最大の要因になりつつあるともいわれています。だからこそ、会社の経営スタイルを変革し、魅力ある職場にすることで、若い人材を採用するチャンスなのです。

 これまでも、人事部は「働き方改革」「残業時間の低減」などを会社側に提唱してきましたが、経営陣の「そんなの必要ない」という鶴の一声で挫折するのが常でした。

 しかし、採用活動で各社が苦戦するなか、人事部が「経営スタイルや働き方改革を実践しなければ、人材を採用できません」と声を大にしている現場も多いです。経営陣も新卒採用ができなければ困るため、そうした意見に耳を傾け、行動を起こし始めています。

 これまでは、少子高齢化にもかかわらず大学進学率が高まっているため、大学卒業者の数は横ばいでした。しかし、18年から、いよいよ大学入学者が減少します。同時に、22年の大学卒業者も減少することになります。

 そのときの人材獲得競争や採用活動は、今よりさらに激化するでしょう。会社は、22年までに採用力、経営スタイル、成長スタイル、ワークスタイルなどについて、大きく見直しを図る必要に迫られます。まさに、今が変革の時です。

――ありがとうございました。

 次回は、企業の“採用力”や社員の離職を防ぐ方法などについて、さらに岡崎氏の話をお伝えする。
(構成=長井雄一朗/ライター)