E−1選手権対北朝鮮戦。井手口陽介がマークした決勝ゴールは、土壇場の93分だった。アシストは今野泰幸。川又堅碁が左の深い位置から送り込んだマイナスの折り返しを頭で落とし、井手口のミドルシュートをお膳立てした。

 日本代表のゴールは、最近このパターンが目立つ。左からの攻撃を得点に結びつけるパターンだ。

 10月に行われたニュージーランド戦。88分にマークした決勝ゴールも、北朝鮮戦と瓜二つのパターンだった。乾貴士の左からの折り返しをファーサイドで酒井宏樹が頭で落とし、それを真ん中で倉田秋が合わせたものだ。

 続く3−3で引き分けたハイチ戦も、3点中2点に左からの折り返しが絡んでいた。長友佑都のライン際からの折り返しを倉田秋が決めた先制点。逆サイドに走り込んだ酒井高徳が蹴り込んだ3点目のゴールも、マイナスの折り返しを送った左サイドバック、車屋紳太郎のアシストだった。

 さらに、だ。日本がオーストラリアを2−0で下し、ロシアW杯出場を決めた一戦(8月)でも、先制点となった浅野のゴールは、長友の左からの折り返しだった。この場合は、右足によるプラスの送球だったとはいえ、直近7試合で奪ったセットプレー以外の得点7点のうち、実に、左からのセンタリングが得点に繋がったケースは5点を占める。

 一方、右からの得点は0。単なる偶然だとは思えない。

 確かなデータがあるわけではないが、サイド攻撃が得点に繋がるケースは7、8割で、そのうち左右どちらが多いかと言えば「左」だと言われている。これは、欧州の評論家や監督に話を聞く中で知り得た情報だが、日本で聞いた試しのない話だっただけに、以来、頭の片隅から離れずにいる。その有効性について、確かなものはないかと常に探りを入れているが、日本代表の7点中5点が左から生まれた得点であるという事実には、余計に引っかかりを感じるのだ。

 左利きが占める割合は人口9人に対して1人だと言われる。10人のフィールドプレーヤーでは、1人が平均値になる。ピッチ上では、右足でボールを受け、右足でボールを押し出すプレーが目立つことになる。つまり、ピッチ上には何となく、右回り(時計と反対回り)の渦ができる。その流れに任せていれば、右からの攻撃は左からの攻撃より多くなりがちだ。

 右からの攻撃が自然な動きであるとすれば、左からの攻撃は意図的になる。

 今季のJリーグで惜しくも優勝を逃した鹿島アントラーズは、右回りの典型的なチームだ。言い換えれば、左からの攻撃は右に比べて弱い。その鹿島に、得失差で勝利した川崎フロンターレは、左からの攻撃を得意にした。左サイドバックには、攻撃参加を得意にする左利きの車屋を擁している。

 得失点差がもたらした両者の明暗は、これに起因する。そうした推理は成り立つ。鹿島の左サイドに車屋クラスの左利きがいれば、今季のJリーグは違った結果に終わったかもしれない。左の重要性を改めて痛感させられた次第だが、日本代表の右サイドにも左利きはいない。サイドバックのスタメン候補は長友で、4−2−3−1の3の左(あるいは4−3−「3」の3の左は、乾と原口元気が競っている。

 にもかかわらず、鹿島とは異なり左からの攻撃が、ストロングポイントになっている。そこに左利きが1人加われば、より強力になるはずなので、北朝鮮戦にスタメン出場した車屋は、貴重な存在に見えるのだ。

 しかし、見方を変えれば、左が強いというより、右が弱いだけの話かもしれない。何と言っても、直近7試合で奪った得点は0なのだ。右より左からの攻撃の方が得点に繋がりやすいという話を持ち出しても、0はいただけない。