日本で生活していた際に相撲を好きになったというヴェンゲル(右)。相手への敬意を忘れない、その姿勢に興味を抱いたようだ。 (C) REUTERS/AFLO、(C) Getty Images

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 今、イングランドでは、「リスペクト」を巡る問題が話題となっている。
 
 発端となったのは、現地時間12月10日に行なわれたプレミアリーグ16節のマンチェスター・ダービー後に起きた、流血者を出すほどの騒動だった。マンチェスター・ユナイテッドの指揮官ジョゼ・モウリーニョが、ロッカールームで勝利を祝うマンチェスター・シティに対し、「敬意を欠いている」と指摘したことが引き金になったと言われている。
 
 マンチェスター・Cの指揮官ジョゼップ・グアルディオラは、12日に行なわれた会見で、「正しくなかったというなら謝罪する。だが、我々の意図は違った」とコメント。ライバルへの敬意を欠いたつもりはなく、勝利を祝うのは普通のことだと主張した。
 
「ロッカールームの中で祝っただけのことだ。申し訳ないが、我々はダービーに勝ったのだよ。彼らが傷ついたというのなら謝るが、彼らも過去にマンチェスター・Cに対して何度も勝利を祝ってきたはずだ」
 
 これに対しモウリーニョは、「私に言えるのは、多様性の問題ということだけだ」と、グアルディオラやマンチェスター・C陣営の考え方に同意しないとの姿勢を繰り返している。
 
「振る舞いの多様性、しつけの多様性、意見の多様性、教育の多様性だ」
 
 そうした一連の騒動に意見したのは、百戦錬磨のアーセナルの指揮官アーセン・ヴェンゲルだった。
 
 米メディア『ESPN』に対して、「ビッグマッチに負けて、相手が100%のテンションで祝っていれば、それは受け入れがたい。少し侮辱されたようになるからだ」と述べたうえで、マンチェスター・シティ側に理解を示した。
 
「試合後の祝福は試合の激しさや重要度の一部であり、我々にもあったし、彼らにもあったことだ。ピッチで100%、200%と力を尽くし、試合が終われば天使になることが理想だが、残念ながら常にそういうわけにはいかない」
 
 しかしヴェンゲルは、敗者への敬意を持つのも大切な考え方だと説く。1995年から約1年半に渡って名古屋グランパスで辣腕を振るったフランス人指揮官は、「だからこそ、私は日本にいたときに相撲が好きだった」と、勝利を収めても相手に敬意を払う日本の国技を称賛した。
 
「相撲では相手への敬意から勝利への喜びを表わさないんだ。互いに敬意を払うという文化の深さを示している。我々がそれを真似できるだろうか? 私はできないと思う。我々の文化にはないからだ」
 
 さらに、英紙『Gurdian』によると、ヴェンゲルは「非常に興味深いのは、横綱になるためには優勝する以外に、委員会で倫理的な評価も受けなければいけない点だ。素行が悪ければ優勝しても横綱にはなれない」と、相撲界の独特な仕組みにも事細かく言及している。
 
 知見の広さを示したヴェンゲルの言葉を、相撲文化を知らない欧州の人々は、どのように受け止めたのだろうか。マンチェスターの2チームから事情を聴取すると決定したイングランド・サッカー協会の動向も含め、注目したい。