左は1979年発売当時の「うまかっちゃん」。味は変わらず、パッケージにも大きな変化はない。(画像提供:ハウス食品)

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日本人はインスタントラーメン消費量で世界3位のラーメン好き。メーカーの好みにこだわりを持つ人も少なくないだろう。地域性も豊かだ。とりわけ九州人たちにこよなく愛されているのが「うまかっちゃん」(ハウス食品)である。地元でのシェアは約25%。ハウス食品によると1979年の発売以来、一度も味の変更をしていないという。なぜ人気が変わらないのか――。

■日本では「年間57億食」も食べる

寒くなり、コートやマフラー姿で通勤する人も目立つ。こんな時季は温かいラーメンが恋しい人も多いだろう。よく「ラーメンは国民食」と呼ばれるが、今回は手軽に作れるインスタントラーメン(以下、即席めん)を調べてみた。まずは全体的な話から紹介したい。

2016年に世界で消費された即席めん(袋めん・カップめん)は「約975億食」になる(WINA=世界ラーメン協会調べ)。8割近くをアジアで消費しており、消費量ランキングのトップ15のうち10カ国がアジアの国だ。1位は中国&香港(年間約385億2000万食)、2位はインドネシア(同130億1000万食)、日本は3位で同56億6000万食となっている。

ここまではある程度の予想がつくだろうが、米国が6位(同41億食)、ブラジルが10位(同23億食)、ナイジェリアが11位(同16億5000万食)なのは意外かもしれない。即席めんは「国民食」であり、「世界食」になっているのだ。

■九州では「うまかっちゃん」がトップ独走

日本の大手メーカーの即席めんでは、日清食品、東洋水産、サンヨー食品、明星食品といった大手のブランドがしのぎを削る。袋めん全体の市場規模は約1170億円(富士経済調べ)。どのブランドが好きか。「日清ラ王」、「マルちゃん正麺」、「サッポロ一番」など、人によって好みは分かれるだろう。議論も白熱しそうだ。

だが、九州地区では様相が異なる。ハウス食品「うまかっちゃん」が袋めん市場ではシェア25%で首位をキープし続けているのだ。ハウス食品はカレールウに強みをもつが、即席めんのメーカーとしては上位ではない。筆者は以前から「九州では、うまかっちゃんが強い」という話は耳にしていたが、仕事で大分県から愛知県に転勤した40代の男性(福岡県出身)の次の言葉を聞いて、一段と興味を持った。

「愛知では、あまり『うまかっちゃん』が売っていないので、定期的に福岡の実家から送ってもらっています」

ここまで九州人を魅了する「うまかっちゃん」は、ご当地ラーメンのはしりであり、発売時は九州限定だったという。その歴史や文化を、ハウス食品に聞いた。

■発売以来「味」は変えていない

「九州は、もともと“とんこつ味の文化”です。最近の博多とんこつラーメンは濃厚さを売り物にした商品もありますが、うまかっちゃんは、そうした濃厚さはない。実は1979年の発売時から、味はまったく変えていません。当社商品の中でも珍しい例です」

ハウス食品の長江隆司氏(事業戦略本部・食品事業二部ビジネスユニットマネージャー)はこう説明する。消費者からも「昔ながらの味がいい」と言われるという。

「味の特徴は、スープが主張しすぎず、何にでも合わせやすいことです。定番のねぎ、紅しょうが、ごまや、さまざまな具材を入れても楽しめます。九州出身の方からは『必ず家にある』『土曜のお昼はこれだった』という、うれしい声もいただきます」(同)

現在は定番商品のほか、さまざまな派生商品も展開する。たとえば、「うまかっちゃん〈熊本 火の国流とんこつ 香ばしにんにく風味〉」、「うまかっちゃん〈博多 からし高菜風味〉」「うまかっちゃん〈久留米風とんこつ〉」、「うまかっちゃん〈黒豚とんこつ 鹿児島焦がしねぎ風味〉」といった地域色豊かな商品もある。かつては「うまかっちゃん 宮崎名物鶏の炭火焼風味のとんこつしょうゆ味」も出していた(現在は販売終了)。

「最も人気が高いのは定番品ですが、一方で『違う味も食べたい』という消費者心理もあります。熊本ではにんにく系が人気で、鹿児島なら焦がしねぎが好まれるといった地域性や、時代性を見据えて新しい味も出してきました。その陰で、長崎県を意識した『うまか皿うどん』など、成功しなかった商品も多くあります」(同)

1998年からは、ほぼ毎年、期間限定品や新商品を出してきた。こうした“地元っ子に寄り添う姿勢”も支持を集めるのだろう。

発売の経緯も興味深い。1978年当時、ハウスの即席めんは売り上げが伸びず、福岡工場では、生産計画のない日は工場内の草むしりをするほど時間を持て余していた。そんな時期、ラーメン担当プロダクトマネージャーに、福岡工場長からの「社員食堂で社員もハウスのラーメンを食べない」という言葉が耳に突き刺さった。

「同時期に、当時の営業担当者からも『九州で売れるラーメンを開発してほしい』という声が上がっていたのです。今でもそうですが、九州は袋めんの需要が高い。棒ラーメンも人気ですが、チルドのラーメンは少ない土地柄。支店長会議も重ねて検討し、本社に提案した結果、経営トップから『とんこつ味のラーメンを4カ月以内に開発せよ』という指令が出ました。そこで関係者が、九州各地のラーメン店を20店以上食べ歩きながら、スープを開発していったのです」(長江氏)

■「こらウマカ」が、「うまかっちゃん」に

スープの味を決める際には、福岡支店と福岡工場も協力し、地元の主婦による試食テストも実施した。こうした商品開発は今では珍しくないが、40年前の話だ。商品名も社内や広告代理店から1000近い案が上がり、当初は「こらウマカ」を考えた。

だが、グラフィックデザイナーとして多数の作品を残した西島伊三雄氏(福岡市出身。故人)に相談した際、博多弁で「とてもおいしい」を意味する「うまか」に「ちゃん」をつけるネーミングがひらめき、愛用の筆で一気に「うまかっちゃん」と書き示したという。イラストは博多祇園山笠の子どもたちだ。

■九州場所力士のシメは「5かっちゃん」

今年は土俵の内外でさまざまな話題を呼んだ大相撲九州場所だったが、九州場所でご当地入りする相撲取りにも「うまかっちゃん」は人気だ。ある部屋では、力士の食事「ちゃんこ」のシメに利用される。袋めんの5個パックは、ひそかに「5かっちゃん」と呼ばれるが、力士は1人前=5かっちゃんが定番。最後のシメにこれを入れて、おいしそうに食べるという。そして、普通の人にとっても「うまかっちゃん」のまとめ買いは当たり前になっている。

「段ボール1ケースで、5個入り×6パックの30食入りも販売しており、年末年始やお盆の時期には、ケース販売の人気が高まります。お客さまからも『九州に帰省した際に、まとめて買う』という声が寄せられます。人気なのは九州人に身近な味で、たとえば今年の2月に数量限定で販売した『めんたいとんこつ』は好評でした。一方、東京で流行したつけめんにヒントを得た『つけ麺』シリーズを提案しても、九州では受け入れられませんでした。それも九州の方のこだわりだと思います」(長江氏)

子ども時代の思い出や、昔ながらのモノやコトを愛することは「ノスタルジー消費」といわれる。九州人の「常備食」であり、他地域に住む九州出身者には「ノスタルジー食」でもある「うまかっちゃん」――。近年はインターネットでも購入できるようになったが、年末も近づいた現在、そろそろケース買いする人が増えそうだ。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント。1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト 高井 尚之)