三陸鉄道の名物「こたつ列車」が養命酒仕様に変身する(写真:養命酒製造)

今年も三陸鉄道冬の風物詩・こたつ列車が運行される。12月16日の運行開始日1カ月前の11月16日、初日分の乗車券が即日完売になった。

こたつ列車は宮古と久慈を結ぶ三陸鉄道北リアス線で、毎年12月から翌年3月にかけて運行されている企画列車。1車両内に12台の掘りごたつが設置された2両編成で、予約すれば豪華海鮮弁当やデザートを食べながら車窓の風景を楽しめたり、同乗する岩手のなまはげ「なもみ」が握手や写真撮影に応じてくれたりする。

初日分は即日完売

こたつ列車は2005年2月に試験運転が始まり、同6年12月から正式運行が始まった。東日本大震災による被害で2011年暮れ〜2012年春は中止になったが、2012年暮れ〜2013年春は田野畑-久慈間で運行が再開され、2014年暮れに完全復活した。

2015年12月に盛岡-宮古間を結ぶJR山田線が土砂の流入で脱線。そのあおりでこの2年間は乗車率が落ちていたが、今年は初日分がいきなり即日完売。今シーズンは11月5日にJR山田線の盛岡-宮古間が全面復旧したので、それも追い風にはなっただろうが、何よりの決め手になったと思われるのが、養命酒とのコラボ企画である。

こたつ列車は12月16日から来年3月31日までの土日祝日(12月30日〜1月8日は毎日)、1日1往復運行されるのだが、このうち1月1日から1月5日までの5日間を除いて、12月16日から1月14日までの土日祝日は、こたつが「養命酒バージョン」になるのだ。

知らない人はいないと思うが、養命酒とは、養命酒製造株式会社が製造販売する薬用酒。1602年に創製されたとされ、徳川家康に献上されたとも伝えられる。滋養強壮剤として現在も多くの人に愛用されている。

さて、その養命酒バージョンのこたつ列車とはどのようなものなのだろうか。

まず、こたつの天板が養命酒カラーの赤に変わる。その天板には本物の養命酒の箱記載のロゴが忠実に再現される。こたつ布団も養命酒の瓶のシルエットを模した柄だ。


こたつ列車が養命酒カラーに(写真:養命酒製造)

完売した12月16日分は運行初日でもあるので、セレモニーには養命酒のゆるキャラ「瓶くん」「箱さん」が「なもみ」といっしょに登場、瓶くんとなもみは同乗もするらしい。養命酒製造・マーケティング部の社員を自称する瓶くんは、握手や写真撮影に応じてくれるだけでなく、名刺も持っているそうなので、名刺交換にも応じてくれるかもしれない。

このタイアップ企画は養命酒側からの申し出で実現した。なぜこたつかというと、身体の中から養命酒で暖め、外からはこたつで暖めるというのがコンセプト。キャンペーンの企画担当者がもともと三陸鉄道のこたつ列車を知っていたので、三陸鉄道サイドに話を持ち掛けたところ、快諾を得たそうだ。

ラベルを忠実に再現

ちなみに養命酒は、数年前からツッコミどころ満載のグッズを提供するという、エッジの効いたウェブ限定のキャンペーンを実施している。過去には巨大抱き枕や養命酒柄の服を着たコップの「フチ子さん」などを世に送り出したこともある。そして、今シーズンのグッズは本物のこたつセットだ。


ウェブキャンペーンで当たる「こたつセット」(撮影:尾形文繁)

三陸鉄道には鉄道関連法規の基準を満たす材質、仕様、サイズで製作した天板とこたつ布団のみを提供しているが、ウェブキャンペーンでプレゼントするこたつセットには、台や座椅子も含まれる。こたつ布団は養命酒の瓶のシルエットを模した柄と、アーガイル柄に養命酒の瓶のシルエットを入れた柄のリーバーシブルだ。

台は今となっては稀少価値の、赤く光る熱源機器を組み込んでおり、座椅子は座面が養命酒のラベルを忠実に再現した絵柄で、全体のフォルムは養命酒の瓶の形。見た目はツッコミどころ満載だが、クオリティには徹底的にこだわって作り込んでいるという。

応募するには、養命酒に関する知識をかなりきちんと問われる、かなりまじめなクイズに答えなければならず、質問に対する答えをHPで探すことで、効能や飲み方などが応募者の頭にすり込まれる仕掛けだ。例年このウェブ限定キャンペーンのグッズは人気が高く、中にはオークションサイトで十数万円の値が付いているものもある。

キャンペーンの対象は、主要顧客層である中高年ではなく、もっぱら若年層。メジャーな媒体で告知をすると若年層は冷めてしまうので、SNSを通じた口コミでの拡散を狙っているという。


三陸鉄道の車両、なまはげ「なもみ」、そしてゆるキャラ「瓶くん」(写真:養命酒製造)

養命酒の主要顧客層は高齢化が進んでおり、若年層への裾野拡大は喫緊の課題だが、祖父母世代と同居していない今の子供は養命酒を知る機会がない。タレントの藤井隆・乙葉夫妻をCMに起用して顧客の年齢層の拡大を図ってはいるものの、養命酒の販売は苦戦を強いられている。

養命酒は第2類医薬品に該当しているため、ドラッグストアではで売られているものの、スーパーには置けない。薬事法で禁じられているため試飲販売もできず、「知ってもらう」手段は限られる。

そこへ、今年6月の改正酒税法施行で小売り価格が上昇、販売数量に多大な影響を与えた。


出所:筆者作成

会社の財務体質は盤石だが…

養命酒はアルコール分を14%含むので、酒税法の規制対象でもある。今年6月の改正酒税法はメーカーから小売りに至るまで、酒類を扱う全ての事業者に原価割れでの販売を禁じている。


「瓶くん」「箱さん」の名刺(撮影:尾形文繁)

その影響で、養命酒は出荷価格を引き上げていないにもかかわらず、改正前は消費税込みで1500〜2000円前後だった1000ミリリットル瓶の小売価格が、2100〜2300円前後にハネ上がってしまった。

会社は無借金で内部留保は年商の3倍以上あり、財務体質は盤石だが、将来への危機感は強い。近年は多額の研究開発費を投じ、スーパーやコンビニで扱える、養命酒以外のハーブ系の酒類やエイジングケア商品を積極的に投入している。

一連のキャンペーンで養命酒を知った若者が、すぐに養命酒を手に取る可能性は低いが、スーパーやコンビニに並ぶ商品の中に、同社製の製品があることに気づくだけでも、このキャンペーンは成功と言えるのではないだろうか。