東京五輪世代以下には、狭いスペースでの突破や連係を得意とするアタッカーが多い。なかでもハンブルクの伊藤は、緩急を付けたドリブルが魅力の猝滅鬚ち手〞だ。(C)Getty Images

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 身長163センチの小さな日本人がボールを持つたび、スタジアムが沸騰する。小気味良 いドリブルで敵陣を切り裂く爛轡紂璽謄ングスター〞─。かつての香川真司と同じ愛称で呼ばれるハンブルク所属の20歳、伊藤達哉が注目を集めている。
 
 柏レイソルで育ち、18歳でハンブルクの下部組織に加わると、今季のブンデスリーガ6節、レバークーゼン戦でトップデビュー。以降、5試合連続出場中だ(先発は2試合)。日本での知名度も低く、まさしく流星のごとく現われたタレントである。
 
 最大の特長はドリブル。小刻みなボールタッチで敵DFに突っかけ、相手が足を止めた瞬間、急激なブーストで置き去りにする。ブラジルというより、アルゼンチン風味だ。複雑なフェイントは交えず、緩急を付けてタイミングの犂〞を突き、シンプルに抜く。
 
 その急加速、スピードの変化にブンデスリーガのDFが付いていけない。彼らは相手にリズムを合わせるのが下手だ。ドーンとぶち当たってボールを奪うのは得意だが、下がりながら駆け引きをして、勢いを吸収する守備ができない。だから伊藤は面白いように抜いて行く。もっとも、ドリブルが上手いだけならすぐに行き詰まったかもしれないが、伊藤は味方とのコンビネーションで崩す術も心得ている。目線を上げたドリブルから、好機を逃さずワンツーで仕掛け、スルーパスを繰り出す。狭いスペースでプレッシャーを受けてもまったく焦らず、サッとボールを味方に預けたり、キュッとターンしてエリア内に侵入したり、自由自在。ドリブラーながら高度な状況判断力を兼ね備えたスタイルは、さすが柏育ちといったところか。
 
 一方で課題は、先発した7節のブレーメン戦で後半開始早々の53分に足が攣って交代を余儀なくされるなど、90分間戦えるフィジカルが備わっていないこと。マルクス・ギスド ル監督は、ラスト30分に限定したスーパーサブ起用も仄めかしている。
 
 もうひとつは、相手を背負えないこと。10節のヘルタ・ベルリン戦では身体を入れたにもかかわらず、後ろからタックルされ、ノーファウルでボールを奪われるシーンが散見さ れた。前を向いて仕掛ければDFをきりきり舞いさせるが、敵を背負うのは苦手。チームが押し込まれた状況が続くとそういうプレーが多くなるので、伊藤の良さが活きない。
 
 とはいえ、引いた守備ブロックを崩す狠憧〞として、かなり面白い選手であるのは確かだ。すでに欧州生活も3年目。今季の活躍次第では、まさかのロシア行きもなくはない。
 伊藤に限らず、久保建英、堂安律、三好康児など、東京五輪世代以下には狭いスペースでのドリブルやコンビネーションプレーを得意とし、小柄で状況判断に優れたアタッカーが大勢いる。
 
 では、彼らが主軸となる未来のA代表には、どんな戦術が相応しいのだろうか。
 
 現在のA代表で重視されるのは、「デュエル」と「突進力」だ。11月の欧州遠征メンバーからは、本田圭佑、香川真司、小林祐希が落選。いわゆるポゼッション派の選手はどんどん外れていく。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の方針は理解できるし、プレスとカウンター、それにセットプレーを柱とする戦い方は、ワールドカップ本番をイメージしやすい。今の日本の実力でベスト8を目指すなら、現実的な戦略と言える。
 
 しかし、このやり方で将来、日本が世界の頂点に立つ姿を想像できるかと言えば、ノーだ。U-17、U-20のワールドカップを見ても感じたが、イングランドやフランスのように、移民を加えてフィジカルモンスター揃いになった強豪国と、同じスタンダードで戦うのは分が悪すぎる。
 
 ロシア・ワールドカップ後の日本代表を考えた時、やはりある程度は天秤の傾きをポゼッション側に戻す必要があるだろう。東京五輪世代以下の小兵アタッカーは隙間でボールを受け、狭いスペースで仕掛けるのが得意だ。ならば縦へのラフなボールを減らし、丁寧にビルドアップをしたほうがいい。パスを回すためのポゼッションではなく、ゴールから逆算したポゼッション─。ボールを保持する間に守備を固められても、それを切り裂けるだけの技術と判断力を、次の世代は秘めている。
 
 もちろん、DFやGKはデュエルをさらに向上させなければいけないが、現在のベースを引き継ぎつつ、伊藤のようなアタッカーの才能を活かす方策も考えておくべきだ。決して気の早い話ではない。今から真剣に議論しなければ、次の4年間の方向性が掴めなくなってしまう。
 
文●清水英斗(サッカーライター)
 
※『サッカーダイジェスト』2017年11月23日号(同11月9日発売)「サムライ・タクティクス」より抜粋。