女性医師のほうが男性医師よりも患者の死亡率、再入院率が低い(写真:Ushico / PIXTA)

映画がヒットしたかどうかは興行収入ランキングを見ればいいし、本が多くの人に読まれているかどうかは売り上げランキングを見ればわかる。しかし、研究者が書く「論文」に関してはどうすれば"人気度"がわかるのだろうか。

もちろんノーベル賞のようなバロメーターがある。しかし、研究結果が論文になってからノーベル賞を受賞するまでに20年以上の時間がかかることも多いとされている。最先端の研究結果のうち、重要な発見をもっと早く知る方法はないのだろうか。

どの科学雑誌に載ったかで評価される

一般的に、論文はどの科学雑誌に載ったかで評価される。皆さんも聞いたことのある『ネイチャー』や『サイエンス』と呼ばれる一流紙は採択基準が極めて厳しい。そのため、これらの雑誌に掲載されたということは、研究の質が高く、得らえた知見が重要であると認められたということを意味する。

そして、科学雑誌ごとにインパクトファクターと呼ばれる、どれだけ頻繁に引用されているかを表現する点数がつけられており、この点数が高い雑誌ほどいい雑誌(権威のある雑誌)であるとされている。しかし、インパクトファクターは科学雑誌ごとにつけられており、論文ごとについているわけではない。権威ある雑誌に掲載されたからといって、その論文がインパクトがあったかどうかはわからないのだ。

論文ごとにどれくらい引用されたかという指標(被引用数)もあるが、引用されるまでに時間がかかるため、タイムリーに論文の重要性を評価することができない。

これらの問題を解決するために新しく開発され注目を集めているのが、「オルトメトリクス」という指標である。

オルトメトリクスとは、「新しい、代替の」という意味のオルタナティブと、「指標」という意味のメトリックスを組み合わせた新語である。

オルトメトリクスは複数の会社が提供しているが、その中で最も広く受け入れられているのは、英国のオルトメトリク(Altmetric)という会社である。実はこの会社は、権威ある科学雑誌『ネイチャー』を出版する会社(Nature Publishing Group)の関連会社(Digital Science)の投資を受けている会社なのである。

オルトメトリク社は、論文がどれだけ読まれたか、引用されたか、ニュースやその他のメディアでカバーされたのか、ツイッターやフェイスブックでどれだけ多くの人が話題にしているかなどを総合的に評価し、点数化している。この数字は、論文の「影響力」を表す点数だと言ってよいだろう。インパクトファクターや被引用数と違い、オルトメトリク社はほぼリアルタイムで計測できるため、即座に論文の影響力を数値化できるという利点がある。

オルトメトリク社は世界中にあるすべての科学雑誌(経済学雑誌など社会科学の雑誌も含む)のすべての論文に点数をつけている。そして、毎年その点数を基にランキングをつけて、1年間に約220万本発表される膨大な数の論文の中から、上位100本の論文を表彰している。

毎年12月から翌年の11月までに発表されたものが対象となるのだが、2016年度のランキングでは、米国のバラク・オバマ大統領(当時)が自らオバマケアのインパクト評価の結果を説明した論文が第1位となって話題となった。

筆者たちの論文がランキング第3位に

前置きがやや長くなったが、ここからが本題だ。2017年度のランキングが12月12日に発表されたのだが、その中で筆者たちが書いた論文が第3位に選ばれたのである。

オルトメトリク社が選んだ影響力の大きい論文トップ3

2016年度2017年度第1位

オバマ大統領(当時)がオバマケアの評価をした論文(『JAMA』誌)

18カ国のデータを用いて炭水化物の摂取量と心臓病による死亡率との関係を検証した研究(『Lancet』誌)

第2位

医療ミスの数は多く、米国の死因の第3位となるとした論文(『BMJ』誌)

博士課程の学生の多くが精神的ストレス、精神障害のリスクが高いという調査結果(『Research Policy』誌)

第3位

ブラックホール合体で重力波の検出を報告した論文(『Physical Review Letters』誌)

女性医師のほうが男性医師よりも患者の死亡率、再入院率が低いことを明らかにした論文(『JAMA Intern Med』誌)

筆者たちの研究では、2011〜2014年に米国で内科疾患のために入院となった65歳以上の高齢者150万人分のデータを解析した。

患者の重症度や病院の違いの影響を取り除いたうえで、担当医(内科医に限る)が男性医師であった場合と女性医師であった場合で、患者の死亡率(入院日から30日以内に死亡する確率)と、再入院率(無事に退院になった後に30日以内に再入院になってしまう確率)を比較した。その結果、女性医師が担当医であった場合、死亡率・再入院率ともに3〜4%低くなることが判明した。

この数字だけ見ると「それだけしか変わらないのであれば、どちらでもよいのでは?」と思う人もいるかもしれない。しかし、死亡率を下げるというのは実はとても大変なことなのである。米国における2003〜2013年の高齢者の死亡率の低下と、男性医師と女性医師の患者の死亡率の違いはほぼ同じレベルであった。

過去10年には医療技術が進歩し、数多くの新しい薬が開発されているが、これらを総合したインパクトと、医師の性別のインパクトがほぼ同じ大きさというのは、医師の性別が患者の健康に無視できないほどの影響があるといえるだろう。

外科では医師の性別による患者の予後の違いはない

筆者たちの研究では内科医を対象にしていたが、外科医の場合はどうなのだろうか。

今年の10月には、他の研究チームが、カナダのオンタリオ州のデータを使って外科医の性別の影響を調べた。その結果、執刀医が女性だった場合のほうが、死亡率が低いと報告された。しかし、患者が執刀医を選んでいる可能性を取り除くために、患者が医師を選べない緊急入院に限って解析を行うと、外科医の性別による患者の死亡率の違いはないという結果であった。つまり、外科医に限って言うと、医師の性別による患者の予後の違いはないと考えられる。

なぜ女性の内科医のほうがよい結果を残せるのだろうか。実は、女性医師のほうが質の高い診療をしていることを示唆する研究は複数ある。過去の研究によると、男性医師と比べて女性医師のほうが診療ガイドラインにのっとった治療を行う傾向があり、予防医療をより多く提供し、患者とのコミュニケーションスキルも高いと報告されている。

興味深いことに、男性医師のほうが質の高い医療を提供しているという研究結果はほぼ皆無である。

一昔前に、『話を聞かない男、地図が読めない女』という本が日本でも大流行したが、男性と女性は違う生き物であることに異論を唱える人は少ないのではないだろうか。経済学や心理学の世界では、性別によってリスクに対するとらえ方に違いがあるかどうかを調べた研究が、数多く行われている。

過去の研究結果の多くが、男性よりも女性のほうがリスク回避的(不確実性を好まない)であるという傾向を認めた。女性医師がよりガイドラインにのっとった医療を提供したり、患者の話をより丁寧に聞くのも、女性のほうが「石橋をたたいて渡る」性格があるからなのかもしれない。

患者の立場からすると、医師を性別によって選ぶ必要はないだろう。もちろん男性医師の中にもすばらしい名医がいて、女性医師の中にも質の高くない医療を提供している医師もいるからである。しかし、少なくとも、「担当医が女性だったからといって心配に思う必要はない」ということは覚えておいて損はないだろう。特に内科の病気で入院になって、担当医が女性であることがわかった場合には、きちんと話を聞いてくれる可能性が高く、質の高い医療を受けられる確率も高いのだから。