ピロリ菌除去で思わぬリスクが…(depositphotos.com)

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 胃がんの原因として知られているヘリコバクター・ピロリ菌(H. pylori)を除菌した後であっても、胃痛や胸焼けの治療に用いられるプロトンポンプ阻害薬(PPI)を長期的に使用すると胃がんリスクが上昇する可能性があることを示した研究結果が「Gut」10月31日オンライン版に掲載された。

 ピロリ菌を除菌した6万人超のデータ解析で、PPIの使用で胃がんリスクが約24倍となることが示唆されたという。

ピロリ菌除去を受けた6万3,397人のデータを解析

 ピロリ菌除去は1種類の「胃酸の分泌を抑える薬」と2種類の「抗菌薬」の合計3剤を1日2回、7日間服用する治療法だ。1回目の除菌の成功率は約75%といわれており、最近では約90%とする報告もある。

 PPIは除菌のときに胃酸の分泌を抑える薬としても使われる。また除菌療法に成功した患者のうち、少数だが逆流性食道炎の発生が報告されており、この治療のためにも使われることがある。

 研究は香港大学教授のWai Keung Leung氏らが実施したもの。Leung氏らは今回、2003〜2012年に香港でピロリ菌の除菌のため2つの抗菌薬とPPIの3剤併用療法を受けた成人6万3,397人(除菌時の年齢中央値54.7歳)のデータを解析した。

 追跡期間は平均7.6年で、この間に3,271人がPPIを、2万1,729人がPPIとは作用機序の異なる胃薬であるH2受容体拮抗薬を使用していた。

 追跡期間中に153人が胃がんを発症したが、全例がH. pylori陰性で慢性胃炎を伴っていた。解析の結果、PPIの使用で胃がんリスクが2.44倍に上昇することが示された。一方、H2受容体拮抗薬の使用は同リスクに関連していなかった(ハザード比0.72)。また、PPIの使用期間が長いほど同リスクが上昇し、1年以上で5.04倍、2年以上で6.65倍、3年以上で8.34倍になることが示された。

 この研究はPPIが胃がんを発症させるという因果関係を示すものではない。また、PPIによる胃がんリスクは相対的には高いが絶対リスクとしては低い。しかし、PPIは逆流性食道炎や胃炎などに対して最も多く使用されている薬剤であるため、Leung氏らは医師に対し「長期的な処方は慎重に行うべきだ。このことはH. pyloriを除菌した患者も例外ではない」と注意を呼び掛けている。

胃がんの発症リスクのはどちらが大きいのか?

 一方、米スタテン・アイランド大学病院のSherif Andrawes氏は「胃がんリスクのわずかな増大を理由にPPIの使用を中止する必要はない」と指摘。「PPIによる治療をしないことによる消化管の他の部位での出血やがん発症のリスクと比べれば、PPIの副作用によるリスクの方が小さく、PPIが必要不可欠な場合もある。例えば、バレット食道の患者の食道がん予防には胃酸を抑制するPPIが有効だ」と説明している。

 ただし、同氏らも胃酸の逆流がみられるだけの患者に対してはPPIを処方する前に生活習慣の是正や食事の改善を促す努力をしていると話している。

 日本人のピロリ菌感染者の数は日本人の半数にあたる約6000万人とも言われている。

 除菌療法が保険適用となるのは、ピロリ感染胃炎、胃潰瘍または十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がんに対する内視鏡的治療後などだ。

 ピロリ菌除去の薬として、あるいはその後の副作用の緩和のために使われるPPIが胃がんのリスクを高めるというなんとも皮肉な研究結果だ。
(文=編集部)